今そこにある危機 ~虎を絶滅から救えるか~
今年は寅年。
トラは現存するネコ科最大の動物です。
ご存知の方も多いかもしれないですが、
20世紀初頭、世界に10万頭生息していた虎は、現在推定3千頭前後と絶滅の危機に瀕しています。
全9種確認されていた虎のうち、カスピトラ、バリトラ、ジャワトラはすでに絶滅。
残る6種のうち、中国のアモイトラはすでに野生は絶滅した可能性が極めて高いといわれています。
残るは、ベンガルトラ、シベリアトラ(アムールトラ)、インドシナトラ、マレートラ、スマトラトラですが、ベンガルトラを除けば、全て100~300頭前後しか確認できておらず、全種が絶滅の危機にあります。
懸命な保護活動も展開されておりますが、高価で取引される毛皮、漢方薬の材料として使われる骨など、密猟の被害は止まりません。
2000年以降、摘発されただけで、2000頭近い毛皮や骨が押収されています。
密猟だけではありません。
開発によって住処と狩り場を失ったトラは、やむを得ず人の生活圏に現れるようになり、害獣として駆除されてしまうのです。
また、保護活動の障壁となっているのが、生息域の分断です。
各地に細々と残るトラの生息域は、そのほぼすべてが分断されていて、互いのグループが交流出来ないのです。
これによって近親交配が進み、遺伝的な多様性が失われ病気や環境の変化に対応できなくなるのではないかと心配されているのです。
トラを保護するためには、広範な対策が必要不可欠です。国家間の協力だけでなく、全世界が力を合わせる必要があります。
たかだか一種類、効率が悪いと思いますか?
トラを保護するのは、決して可愛いからとかカッコイイからではありません。
トラは生態系の頂点に君臨する生き物です。
トラを守ることは、それを支える広大な裾野、生態系そのものを守ることに繋がるのです。
我々人間も、生態系から外れている存在では決してありません。
むしろ、あらゆる生物の中で、一番生態系から恩恵を受けている、言い方を変えれば、生態系に依存している存在なのです。
コロナや感染症ももちろん脅威ですが、
世界全体で生態系が危機に瀕しています。
この50年で、野生生物の約7割が消えました。少なくとも100万種類以上の生物が絶滅危惧種に指定されていて、その数は増え続けています。
生態系が崩壊したとき、その被害はコロナの比ではありません。
それなのに、早晩人類が滅びに瀕するかもしれないほどのインパクト、危機感を人類は持っているようには思えないのです。
今そこにある危機。
トラだけの問題ではありません。
間にあう間に合わないの問題ではないのです。
やらなければ滅ぶ。その覚悟が求められているのです。
もしかしたら、すでに手遅れかもしれません。それでも遅らせることはできます。
時間が稼ぐことが出来れば、可能性を残せます。人類は必要に迫られれば変化する生き物です。個々は弱く脆弱な種でありながら、そうやって生き延びてきたのですから。
是非はともかくとして、滅んだ種であっても、近縁種が残ってさえいれば復活させることも可能です。
恥ずかしいことですが、日本でトラを使った医薬品の製造・販売が全面的に禁止になったのは2000年です。保護活動が本格化した1970年代以降、直接的、間接的に加害者であり続けてきたのです。
社会とは、構成する人々の集合体です。私たちの意識が変われば社会は変わります。
絶滅するのが早いか、変化するのか早いか。
今、私たちは分水嶺に立っているのです。
寅年の今年、このエッセイを読んだ人の意識・関心が少しでも変わって欲しい。
そう願ってやみません。