後輩天使はサイコパス
こんにちは!ガブリエルって言います!天使として天界の『地球管理庁人間サポート課』というところに属してます!
皆さんは天使の仕事って知ってますか?神話では神様のサポート役、的なざっくりした紹介で終わる事もありますが、実際、天使は様々な所属の元、多種多様な仕事をこなしてます!
僕の所属する人間サポート課はその名の通り人を影ながらサポートするのが仕事です!テストで適当に書いた選択肢が結構当たってた、スポーツや仕事でなんか知らないけどめっちゃ調子いいって時ありませんか?それは僕達天使が影ながら皆さんをサポートしてるからだったりします!
僕も昔はミスが多く、間違って変な機械のスイッチを入れて地球に四十日間大雨を降らせたこともありました…しかし、そんな僕も成長し、今では後輩に仕事を教える立場にもなったのです!
今日の職務は正にその後輩指導。
「えーっと…」
待ち合わせ場所はここで、今回指導する『ライラ』って子がこのあたりにいるはずなんだけど…お、あの子かな?
「おはよう、君は…ライラさんで合ってるかな?」
「はい、そうですが」
待ち合わせ場所にいたのは金髪赤眼の天使だった。今日はこの子にウチの仕事を色々教えていくことになる。
「僕はガブリエル。上から指示が来てると思うけど、今日一日、君の仕事のサポートをする者です。よろしくね!」
「そうでしたか。ライラです、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね。…さて、挨拶も済ませたし、それじゃあ早速だけど職務に入ろうか。まず今日の仕事内容の確認をしようか!」
「はい、ラルクル村出身の勇者一行が魔王を倒すのをサポートします」
「そうだね、それじゃあ勇者達のところへ行こうか!彼らが今いる座標は?」
「N3540E13944です」
「了解!それじゃあ行こうか!」
魔法で勇者のいる場所へ向かう。
「アレが勇者一行です。勇者が一人、他のメンバーは戦士、僧侶、魔法使いになりますが――」
勇者パーティのいる場所に着くなりテキパキと状況報告していくライラさん。下調べもばっちりみたいだし、新人と言えども、ひょっとしたら僕の指導がなくても十分やっていける子なのかもしれない。
実は彼女に会う前、同僚から『問題児だから気をつけて』なんて言われてたけど、どこに問題があるん…
「早速始末しましょう。勇者達」
あ、すぐ見つかったわ問題。
「えっと…なんて?」
「始末しましょう。勇者達」
「『始末しましょう。勇者達』って聞こえたけど!?」
「正しく聞き取れてます」
「正しく聞き取れた方が意味分かんないよ!?」
い、いきなりとんでもないことに言ってきたなこの子…。そして目に少しも迷いがない。…いや、ひょっとしてコレはボケなのか?先輩を緊張させないようにするための一種のボケなのか?
「えっと…本気で言ってる?」
「はい、本気です」
ボケじゃなかった…。
本来ならすぐサポート業務を行なって後輩に色んなコツを教えるとこなんだけど、事情が変わったな…うちの部署の後輩がとんでもない事をしようとしてる。何か深い事情があるのかもしれないしこれは話を聞かなくては。
「えっと…ライラさん?」
「すみません、時間が惜しいので勇者を始末してから話を聞きます。じゃあ『死ね死ね光線』で…」
「待て待て待て待て!そんな殺意高そうな技撃たないで!?技マシン28みたいな技使わないで!?」
「技マシン28は破壊光線ですガブリエルさん」
「初代やれ!
…えっと、勇者を始末する前に聞きたいんだけど…そもそもまずなんで勇者を始末しようとしてるの?」
「話せば長くなります」
「いくら長くても構わないよ」
「三分もかかります」
「短いな」
「なら話します」
そういうと、ライラさんはこほんと咳払いをして神妙な面持ちになった。
「私が勇者を始末しようとしてる理由…それは彼らが弱すぎるからです」
「弱すぎる…」
「はい、下調べをしてる時彼らはスライム一匹にパーティ壊滅させられそうになってました」
「弱っ!」
「そうです。そしてコレは私の野望を果たす上で大きな問題になります」
「や、野望…」
その言葉で、こちら側も身構えてしまう。どんな事情があるかは知らないが勇者パーティを壊滅させようとしてる人だ。きっと彼女のいう野望というのは聞くだけで覚悟のいる恐ろしい物に違いない…。
「私の野望、それは…」
「それは…」
「定時退社です」
「定時…退社…」
あの伝説の定時…ん?定時退社?
「定時退社って言った?」
「はい。我が人間サポート課では天界時間75時が定時となっています」
「うん、そうだね」
「しかし、今回のようなサポート業務は定時に目標が達成出来ないと、基本労働時間を延長し目標達成まで人のサポートをするのが規則となっています」
「まあ残業代は出るけどね」
「はい。それでも私は定時で帰りたい。なんとしても。ですが、私の計算が正しければこの勇者パーティはいくらサポートしても、魔王討伐完了が天界時間85時にはなってしまいます。そこで決めたのです。勇者達を始末しようと。勇者達は何度か全滅すると『地球管理庁』の上の者が、彼らで目標達成は無理だと判断し、別の天使のサポートを受けた別の勇者パーティが目標を引き継ぐことになります。私はそのシステムを利用し、自らの手で勇者を始末し、早帰りをしようと決めました」
「…えーっと、定時退社しなきゃ行けない理由でもあるの?」
「家に帰ってモンハンします」
「絶対ダメだよ!?」
思った以上にしょうもない理由だった。いや、この場合しょうもないという形容で合ってるかすらよく分かんないんだけど…。
「えっと…帰りたい?」
「はい」
「定時で?」
「何としても」
「そのために?」
「勇者を始末します。絶対」
飄々という彼女だったが、彼女の背後からは勇者に親を殺されたのかってくらい殺気が溢れ出ていた。嘘みたいだろ?モンハンしたいだけなんだぜ?この子。
兎に角この状態で仕事をさせるのは無理だ。ここは一つ…
「良いかい?ライラさん――」
――10分後
「――だから勇者を始末しようなんて考えちゃダメだよ」
天使としての心構えを長く熱く語ってしまった。こういう説教じみた話は今どき好かれないんだろうけど…心を込めて話したからきっと伝わってるはず…。
「ね、分かった?ライラさん」
「…あ、すみません宇宙の始まりについて考えてました」
「めっちゃ独特な暇つぶししてる!?」
なんてこった…いい話をしたつもりが一ミリも響いてない。というかロクに聞かれてすらいない…。
「あの、ガブリエルさん」
「…ん?」
軽くショックを受けている僕にライラさんはスンとした表情で話しかける。
「私のヤバさは分かっていただけましたか」
「ヤバいって自覚はあったんだね…」
「はい。人間サポート課に所属するための試験で道徳0点だったので」
「なぜ入れた!?」
「その他の筆記科目満点だったので。あと容姿も満点でした」
なぜ採用試験に『容姿』という理不尽な科目があるのかは置いといて、道徳以外のテスト内容全て満点なんて聞いたことない。ひょっとしたらこの子、天使じゃなく悪魔としてなら凄いとこまで行ってるんじゃないかな。
「まぁ…とにかく、すごく頭が良かったから入れたんだね」
「あとすごく可愛いです」
自分で言うな。
「そしてすごくヤバい人って言うのも分かった」
「お分かりいただけましたか」
「うん。ただ、勇者をサポートするのは職務だ。全う出来なきゃ評価が下がるのも事実。君はむしろそういう事は避けたいはずだと思うけど…」
相手がサイコパスならこちらも理論的に説得しよう。ライラさんは出来る子だから、しっかりと仕事をしてくれれば彼女にとっても職場にとっても良い結果が訪れるはずだ。
そしてこの論理作戦が効いたのか、ライラさんはしばらく考えて…
「分かりました」
そして手をポンと叩いた。
「なら勝負をしましょう。ガブリエルさん」
「しょ、勝負?」
「はい、ガブリエルさんの言う事も一理あります。しかし私としては勇者達を始末し、早帰りできれば嬉しいというのも事実。そこで勝負です。私は先程と変わらず勇者を妨害し続けます。上の者から怪しまれないよう、直接彼らに危害を加える事はせず、あくまで自然死を誘発する様な妨害を彼らにします。ガブリエルさんはこの妨害をうまく防ぎながら勇者を魔王城まで連れて行ってください。どうでしょうか、この勝負に乗ってくれたら私も、例え定時で帰れなかった場合でも、それは自分の実力不足だったという事を認めて素直に残業する事ができます」
「な、なるほど…」
要するに彼女はあくまでも定時退社する気だけど、勝負形式にする事で、たとえ目的が達成出来なくても踏ん切りがつくだろうと思ってるのか。確かに彼女相手ならなんとか説得しようとするよりこうした方が良いかもしれない。
「よ、よし!その勝負受けて立つよ!昔間違って人間界に四十日四十夜雨を降らせ続けた先輩の力見せてやりますよ!」
「多分それ自慢になってないです」
こうして、ライラさんの勝負を受けた僕だったがそれは想像以上に大変な物だった…勇者サポート旅の道中を少しだけ紹介すると――
◇
『肉体強化の術!…ふぅ、こうやって勇者にサポート魔法をかけていけば彼らもすぐに魔王を倒せるはず』
『なるほど、なら私も…肉体強化、魔力強化…』
『うんうん、いいね』
『破滅の呪い、進化の呪い…』
『ん?』
『勇者絶対殺すマン化…』
『勇者絶対殺すマン化って何!?勇者にかけていい魔法じゃ無いよねそれ!?』
『はい、私勇者じゃなくスライムにサポート魔法をかけてたので』
『gyaaaaaaaa….』
『うわぁ…あのスライム多分魔王より強いよ、どうすんの?』
『知りませんよ』
『無責任かっ!』
◇
『この先、人食い樹の生い茂る迷いの森となります』
『勇者の旅路で最も難しいと予想されるダンジョンだね、気を引き締めなきゃ…』
『因みに私が植えたんですけどね』
『植林!?』
地球最難関のダンジョン…あなたが提示退社するため作られてたんだ…。
◇
『ガブリエルさん、そういえば魔王を倒すには7つの宝玉が必要という話がありましたが…』
『そうだね、彼らまだ3つしか見つけてないみたいだけど大丈夫かな』
『私、4つほど持ってます』
『なんで!?』
『拾いました』
『今すぐ返してきなさい!』
『はい』
…。
『うぉ!?なんか宝玉4つ一気に置いてある!』
『え?え?本物?』
『ボスとかいるもんじゃないのか…なんで道端にあんだよ』
『罠かもしれないから気をつけて…うわぁ…犬がおしっこかけてる…』
勇者パーティめっちゃ困惑してるー!
この後、警戒した勇者パーティは宝玉を拾うという作業だけで三日使った。
◇
――なんて事があって、
「はぁ、はぁ…やっとここまで来た。なんとか魔王城まで着いたぞ…」
「本当に私の妨害を全ていなして勇者を魔王城まで連れて来ちゃいましたね。天界時間は、まだ73時…定時じゃない」
「ど、どう?意外といけるもんでしょ…」
「すっごい息切れてますね」
彼女の妨害には殆疲れさせられたけど、なんとか勇者達を魔王城まで連れて行く事ができた。しかも定時前に。
「よし、ついにここまで来たぞ!」
「喜ぶ気持ちも分かるが、ここからが本番という事を忘れるな勇者」
「私達が何としてでも世界を救うんですからね!」
「うん、それじゃ行こう!」
「「「「おー!!」」」」
当然の事ながら勇者パーティも魔王城に着いてより一層張り切っている様だった。よし、僕の仕事もラストスパート…ん?
「ふふ…」
「どうしたの?ライラさん」
気づくと、魔王城に入って行く勇者達を見たライラさんは柔らかい笑みを浮かべていた。
「いえ、円陣を組む彼らがなんだか微笑ましい物だと思いまして。私達にとっては魔王も人類も滅ぼそうとすればすぐ滅ぼせる小さな存在です。しかし、そんな者達は時に、私達の様に、いや、私達以上に何かに一生懸命になれる。そして、何かに一生懸命になっている彼らはなんとも美しいものだなと」
「ライラさん…」
…反省しなくては。
最初はただのサイコパスだと思っていた彼女だけど、こうして人間の活動を目で見て感じることによって彼らの美しさを知る事ができている。本当にダメだったのは彼女ではなく、彼女に期待せず、信じていなかった僕達なのかもしれない…。
「ガブリエルさん」
「はい!」
「私たちの業務、魔王討伐の完了と共に終了するはずです」
「うん、そうだね!」
「最後は私もお手伝いします。魔王もしっかり倒して、清々しい気持ちで家に帰りましょう」
「うん、頑張ろう!」
よし、改めて、僕達の仕事もラストスパートだ!気合入れて頑張ろう!
……………ん?『魔王も』………?
◇
――魔王城最深部
「フハハハッ!来たな勇者よ!」
「コイツが…魔王っ!」
「噂には聞いていたが、なんて邪悪なオーラ…」
「怯んではダメよ…私達は絶対負けない!」
「ほう…威勢がいいことだ、小娘よ。我が優秀な僕を打ち破ってここまで来ただけのことはあるな」
「強力な僕…あのスライムの事かっ!」
「…え?」
「え?」
「…いや絶対違うでしょ。強い僕って言ったら…えっと、ほら、悪魔四天王とかと戦ったでしょ?ハデスとか、ルシファーとか。なんでスライム思い浮かべちゃうの?強い僕で」
「実際あのスライムが一番強かったしな」
「ええ。あのスライムを倒した私達なら悪魔四天王なんてお茶の子さいさいよ!」
「あのスライムが俺たちを強くしてくれた!」
「なんでスライム倒した事をモチベーションにしてんの!?なんでそんな誇ってんの!?なんならスライムは勇者達が戦闘の練習にしてくれれば良いなぁってくらいのテンションで置いてるからね吾輩!?」
「でも、強かったし…」
「そんな強いスライムいたっけ…ま、まぁ良い。スライムは置いておくとして…仕切り直しだ。
えー、おほん……貴様らは我が魔力の宿りし数多のダンジョンも攻略してきた様だな!さぞ苦しみ悶えた事だろう!」
「人食い樹の森か…」
「あぁ、確かにあのダンジョンは…」
「え待って待って?何それ?」
「え?」
「いや今なんか聞き慣れないなーってダンジョンの名前が出てたから。何?人食い…何?」
「人食い樹の森…」
「人食い樹の森…いや作った覚えないんだけど何それどんなとこだっけ?」
「いや人食い樹の森って言ったら…人食い樹が沢山茂ってるとこだけど」
「え!?そんなとこあんの!?吾輩知らないんだけど!?てか人食い樹って結構魔物とかも食べちゃうからそんな危ないダンジョン作れないんだけど」
「えぇ…頑張って攻略したんだけど…」
「いや作ってないモンは作ってないんだからしょうがないじゃん…。
てかそんな危ないとこあったのかよ…対策考えとかないと。…除草剤とかで枯らせたりできないかな?人食い樹って」
「魔王」
「お?何だ?」
「早く続きをやれ」
「あ、すみません…。
よ、よし!色々納得はいかないが貴様らがここまでたどり着いたことに変わりはない!しかしだ勇者ども!貴様らは7つの宝玉は持っておらぬだろう!?あの宝玉がなければ私は倒せないぞ!」
「いや…宝玉ならここにある!」
「な、何だと!?…その七色に輝く玉は確かに吾輩を倒すための宝玉!貴様ら、全ての玉の隠し場所を見つけていたというのか!?」
「いや四つは道に落ちてた」
「はいおかしい!!おかしいよ!?いやさっきからなんか変だなーっと思ってたけど今回のは特におかしい!宝玉が道に落ちてるわけないじゃん!?魔王が自分の命脅かすやつ道に置くわけないじゃん!?」
「んなこと言っても…置いてあったしな」
「犬におしっこかけられてました」
「聞きたくなかったわその情報!え?じゃあ何!?君達ベルゼブブともデュラハンとも戦ってないの!?」
「「「「誰?」」」」
「うわめっちゃショック!あそこのダンジョンのギミックすごい考えて作ったのに!歯車回すと滝が止まって隠し通路が出てくるやつとか魔法の石に触れたら重力逆転するやつとか!」
「そんなんあったっけ?」
「裏ボス?」
「ダウンロードコンテンツ?」
「そんなシステムねぇよ!!
く、くそ…調子を狂わされてばかりだ!ええい!貴様らがいくら邪魔しようが吾輩のやる事は変わらん!ここで貴様らを倒し、吾輩はこの世界を支配するのだ!」
「そんな事、俺たちが許さない!」
「世界の平和は何としても守る!」
「ハッハッハ…見上げた志だ。貴様らが望むなら世界の半分をくれてやっても良いのだぞ?」
「誰がそんな誘いに乗るか!今ここで決着をつけるぞ魔王!」
「よかろう…かかってこい!!」
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
「はぁぁぁぁぁああ!!!」
『死ね死ね光線』
どかーん。
「ぐあああああああああ!!」
「な、何ぃぃぃぃぃぃ!?!?!?」
……。
「やっちゃったよこの人!?」
ビックリした!ビックリしたわ!!取り敢えず勇者と魔王の話聞いとこうと思って静かにしてたけど、剣を交える直前で死ね死ね光線撃っちゃったよライラさん!?
「なんで撃っちゃったの!?」
「話長いんで」
「自己中がすぎるわ!なんなら話終わってたし!」
「まぁそうですが別に気にすることではないでしょう。あと私勇者達の最終戦を見届けるなんて言ってませんし。なんなら私『魔王も』倒すって言いましたし」
いやそうだけど!僕だってなんか嫌な予感しながら入城してたけど!でも何事も無いまま戦い始まりそうな雰囲気だったし、てっきり何もしないで見届けるつもりなのかなって思ってたよ!!
「ガブリエルさん、私気づいたんです」
「…何に?」
「人間の一生懸命な姿は美しい。魔王の野望は勇ましい。そして、……私はそれでも定時で帰りたい」
「うわ凛々しい顔して最低なこと言ってるこの子!」
「自分の気持ちに嘘をつく事はできませんでした」
「やめろ!名言感出すな定時退社で!」
「ガブリエルさんの素晴らしい仕事により、確かに魔王城には天界時間73時でつけました。これは予想以上の成果です。しかし、勇者達が魔王を倒すにはまだ時間がかかるでしょう。
私は早く帰ってモンハンを起動し…ゴグマジオスを倒して村を危機から救いたいんです」
「勇者吹っ飛ばした人が村を救うとか言わないでくれませんかね!?」
「落ち着いて下さい、ガブリエルさん」
「気が立ってるの貴方のせいですけどね!?」
「確かに私は勇者と、魔王城…その他諸々を一気に吹き飛ばしましたが、魔王を倒したという事実は変わりありませんよね」
「まぁ…そうだね」
「私達に与えられた任務は『勇者をサポートし、魔王を討伐する事』です。勇者が不慮の事故で吹き飛んだのは気の毒ですが、確かに私達は勇者をサポートし、魔王を討伐しました」
「不慮の事故…?」
「今回の業務のどこに問題があるでしょうか」
貴方が勇者を吹き飛ばしたトコですよ。
「ほら、ガブリエルさん、落ち着いて空を見てください。綺麗な虹が出てます」
指さされた方を見ると、確かに空には大きな虹がかかっていた。感動的なエンディングの時とかにかかるやつ。
「そして、見てください。………定時です」
彼女が持ち出した懐中時計には確かに『75:00:00』の文字が刻まれている。
「私達はもう成すべき事はしたんです。もう解放されていいんです」
ライラさんはやはり聖母のような笑みを浮かべていた。…何で僕諭されてんだろ。
「報告資料は明日提出します。今日の業務はコレで終了かと思います。さぁ、帰りましょう。私達の『故郷』へ」
そう言うと、ライラさんはぺこりとお辞儀をして、その大きな翼をはためかせ去っていった。
…まぁ平たく言うと『帰宅』した。
「えっと…」
魔王城に入る前は、ライラさんは本当はいい人だと思ってた。でも実際のところは違った。
「あの人…やっぱサイコパスやん…」
◇
「これで良し…っと」
ライラさんとの仕事から数日。僕は今日も今日とて人のサポート業務についていた。道具の準備は完了!よし、今日もいろんな人をサポートする…
「ガブリエルさん」
「ん?」
仕事を始めようとすると後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「この前はお世話になりました」
「ライラさん!?」
後ろにいたのは、金髪赤眼。例のサイコパス天使、ライラさんだった。
「どうしてここに?」
「まだ聞いてませんでしたか?この前ガブリエルさん私でこなした勇者サポート業務が異常にスムーズだったので、上の者からこれからはガブリエルさんとバディを組んで仕事する様にと言われたんです」
「え?」
それって…
「それじゃあ今日の目標、あの冒険者を早速始末していきましょう」
「やっぱりコレか!?」
なんてこった!まさかライラさんとバディを組むことになるなんて!今日から毎日この子の殺戮を止めなきゃいけないなんて!
「早く終わらせましょう。家に帰ってたまごっちがしたいんです」
「冒険者が不憫すぎるわ!!」
「早く帰らないと私のくちぱっちがウンコを垂れ流して死んでしまいます」
「たまごっちの命よりまず勇者の命大切にしてあげて!?」
「ガブリエルさん、命の重さを比べるとか最低ですね」
「お前が言うな!」
これから、毎日…
「じゃあまず『デスビーム』で」
「やめて!?朝イチでフリーザ様の技使わないで!?」
これから毎日この子と一緒…
「はい、どかーん」
「「「うわぁぁぁぁぁ!?」」」
……。
「………こんなサイコパスと毎日一緒なんていやだぁぁぁぁぁ!」
――数年後、彼らが驚異的な速さで仕事をこなし、空前の速さで出世して行くのはまた別のお話である。




