触る?
「陽菜子……照れてる?」
「ぇ……?あっ、……はい」
琉旺さんに聞かれて、モドモドしながら返事をした。
「じゃあ、やめておいた方が良いかな……」
「……何を?」
小さく呟いた琉旺さんの言葉を聞き返す。
「陽菜子、俺が竜化した時に、俺の鱗を触りたいって言ってただろ?だから……」
「鱗!!!」
あの時の言葉を聞いていたのか………。
鱗という言葉に反応して、急に大きな声を上げた私に、琉旺さんが、ビクッと体を強張らせた。
「あ……、すみません。驚かせました?」
ここで、驚かせて引かれてはいけない。優しくことを進めなければ……。
私の頭の中は、さっきまでモドモドしていたのも忘れて、一瞬で鱗モードにシフトチェンジした。
「陽菜子………触る?」
琉旺さんは、頬を少し赤らめながら、自分の体の左側を指さした。
コクコクコクコクコク………。
端午の節句に飾る、張り子の虎に勝るとも劣らない勢いで首を振る。
ゴクリと、生唾を飲み込む。
「あ……あの………、本当に良い……んですか?」
緊張で、喉が張り付いて、言葉がスムーズに出てこない。
心臓がドキドキ鳴って、期待と興奮から、琉旺さんにどんどん近寄ってしまう。
いけない………これでは、若い女の子に迫る中年のエロ親父のようだ。
「ん、ん……、コホン」
軽く咳払いをしてみる。
ちょっと、落ち着いてきたような気がする。
しかしだ、琉旺さんを見ると、恥ずかしそうに頬を染めて、目線がキョロキョロ泳いでいる。
心なしか、目が潤んでいるようにも見える。
その潤んだ金色の瞳で、こちらをチラリと見て緊張したように笑う。
乙女か!!!!!
やめてくれ!めっちゃ、恥ずかしい。また、お尻の辺りがムズムズする………。
いや、だけど、触らせてもらう!
何があろうともだ!
琉旺さんと出会ってから今日までの間に、何度となく、“もう一度見れないものか、もう一度触れないものか“と、私の大脳皮質にある140億個の神経細胞達が、夢想してきたのだ。
エロい中年親父だろうが、なんだろうが構わない。
「何か、陽菜子の顔がエロいんだけど……」
「エロくなんて、ありません!」
被せ気味に放った言葉に、琉旺さんはまたビクリと肩を震わせた。
「あ……いや、ごめんなさい。
怖がらせました?優しくします」
もう、どちらが男だか分からないけど、そんなことはどうだって良い。
早く脱げ!!
私の目が訴えているのが分かったのか、(それとも怖かったのか、)琉旺さんはおずおずと、来ていたTシャツを脱いでくれた。
おおぉぉぉぉ!!!
待ち望んだ鱗だ……ハレルヤ!
グレーの地色に、ややメタリックなブルーが混じった鱗は、近くで見ると、薄らと、寄せては返して飛沫をあげる波飛沫のような模様がある。
今までは薄暗かったり、遠目だったりして分からなかったのだ。
「これ!これなんですか?波模様みたいなのがありますね」
「うん?どうも竜の紋様のようなものらしい。
鱗持ちは大なり小なり、こんな模様がどこかしらに出るって、じい様が言ってたな。
俺は、鱗一個一個に出るタイプみたいだな」
ソロリと、鱗の紋様をゆっくり撫でてみる。
指先に、全神経が集まって、ほんの少しの凹凸の差も逃さないように集中する。
この一瞬のために、私の細胞と神経は存在するに違いない。
「うーん……。凹凸は感じられないですね。
爬虫類は、敵から身を守ったり、食糧にありつくために、周囲の環境に同化したり、何かに擬態したりするための模様を持つものが多くいますが、琉旺さんのこの紋様は、どんな目的があるんでしょうね?
もっと、詳細に電子レベルで紋様を見てみたいですが……」
そう言いながら、どんどん鱗に近寄って見てみる。
見れば、見るほど美しい形態だ。
頭の芯が痺れそうだ。
だんだん、動悸が激しくなって、息が上がってくる。
鼻の粘膜が熱くなってきた……。
「ほら」
琉旺さんが、ティッシュを箱ごと渡してくれる。
「あ……ありがどゔございばず」
すかさず、2、3枚抜いて、鼻を抑える。この美しい鱗を、鼻血で汚したくない。
この人は、なんて気がきくんだろう………神か!!
私は、両手を合わせてお祈りした。
…………………鱗に向かって。




