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『元気にな〜れ』

 そんな私の腰に、背後からたくましい腕が回って、グイッと引き寄せられた。

 と、同時に、“ヒュッ“と鋭い空を切る音がして、私の顔の横を通った拳が、男の顔面に“ゴキュッ“と鈍い音を立てて、当たる。


「陽菜子……大丈夫か?」

 耳元で、聞こえる低い声に、ホッと息を吐く。

「る……お……さん」

「うん。

 陽菜子……お前、えらく強いな」


 彼は、両腕を私のお腹に回すと、ぎゅうっと後ろから覆い被さるように抱きつく。

「良かった。怪我はなさそうだな……」

 そう言ってフッと笑った琉旺さんは、シャツが破れているし、あっちこっちに擦り傷や、切り傷が出来て、血が滲んでいる。

 疲れているんだろう、顔色だって悪い。


「琉旺さん……、血が出てる」

 私と、遼太と、三嶋さんは戦えない。

 その私たちを庇いながら、琉旺さんとシュウちゃんと、ムウさんは戦ってくれていたのだ。

 胸の中がギュウッとなった。そっと、琉旺さんの頬の傷に手を当てる。


 そうすると、数珠が光り始める。


 ええ?!ナニコレ?まるで、日本昔話みたいな展開だ。

 疲れすぎて、白昼夢でも見ているんだろうか?


 数珠から発せられた、淡く、半透明なキラキラした光は、乳白色のガラス越しに差し込んできた、春の光のようだ。

 所々虹色の光が小さくクルクル回りながら、ふんわりと広がって、私と琉旺さんを包み込む。


 花のような、オレンジのような……、甘いような、スッキリするような……言葉では、到底表現できないような香りがして、優しい風さえ感じる。

 あまりにも心地が良くて、このまま委ねて眠ってしまいたくなる。

 一体どのくらいの時間だったのか、ハッキリとは分からないけれど、その光はだんだんと光量を落として、元に戻った。


「ハハ……凄いな。

 結構、疲れてて、体もあちこちが痛くて……、こりゃ、ヤバいな……、この後、陽菜子をどうやって守ろうと思っていたけど、さっきの光で、疲れも痛みもかなり回復したようだぞ」

 確かに……破れたシャツはそのままだけれど、頬や腕、体のあちこちについていた傷は、完全に消えてはいないものの、出血は止まって、まるで治りかけのように見える。


 疲れが滲んで、青かった顔色も、血色が良くなっている。

 私達は、おでこを合わせて笑った。

「「ふふ……」」

「なんだか、分かんないけど……良かった」


「そうだな。

 どうも、その数珠は、陽菜子に都合がいいように働くらしいな。

 さっきも、男達を打ち据えながら、物凄く楽しそうだったしな。

 ………………あんまり笑顔なんで、返って心配になったけど……」

 シマッタ……顔に出ていたのか……。

 新しい扉を開いてしまった事は、出来れば琉旺さんには、気づかれたくないのに。

「ソウデスカ?hahahahaha……」

 私は、誤魔化すのは苦手なんだ。目が泳いでいる気がする。

「えーっと、シュウちゃんと、ムウさんにも、同じように出来るかやってみます」



 琉旺さんに、回復魔法をかけた私の様子を見ていた男達は、こちらの力を見極められない為か、攻め入るべきかどうか悩んでいるのか、遠巻きにこちらを伺っている。


 シュウちゃんも、ムウさんも、至る所に傷を作って、肩で息をしている。

 私は、彼らの体に数珠が触れるようにして、心の中で回復呪文を唱えた。

『元気になぁ〜れ』

 数珠と、なんの関係もないけれど、気分の問題だ。


 さっきと同じように、光が体を包み込み、芳しい香りがして、心地よい風が吹く。

 頭の中で、キラリラリーンと効果音も鳴る。自己満足だけど、楽しくなってきた。

 生まれて初めて、親に感謝したかもしれない。

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