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ジャングルジムから飛び降りれない

 そう思って、ミシミシと音を立てながら天井裏を歩く。

 これで最後と決めて、小さく灯りが漏れる、次の通風孔を覗いてみた。


 ハレルヤ!


 今までの人生で、信仰心のかけらも持ち合わせていない私は、一度だって神様や仏様なるものを祈ったことも、信じたこともなければ、初詣だってしたことない。

 けれど、世の中に溢れかえっている、全ての神様、仏様にお礼を言いたい気分だ。

 胸の前で手も合せてみる。


 アーメン、南無阿弥陀仏、祓い給い 清め給え




「るおーさん……るおーさん……」

 小声で、下の部屋のベットに寝転がっている彼を呼んでみる。

 ベットの上に寝転がって目を瞑り、眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた琉旺さんは、すぐさまベッドから飛び起きて、視線を上に寄越した。


「陽菜子?……上か?」

「そうです。上です。通風孔のところです」

 琉旺さんは、すぐに椅子を持ってくると、その上に登り、器用に通風孔の網を外した。


「陽菜子……まさか………、俺を助けにきた?」

 私は、通風孔から下を覗き込むように頭を出して、コクコク頷く。

「私だけじゃないです。遼太も、三嶋さんも、ムウさんもいます。

 ……ただ、はぐれちゃったんですよね……」


 私は、琉旺さんを見つけた安心感で、へへへと笑った。

 すると、天井の板が、またミシミシと鳴る。

「危ないな……」

 琉旺さんは、すぐさま椅子から降りて、私の方に両手を広げる。



「陽菜子、そこから飛べる?大丈夫。そんなに高さはないから、怪我したりしない。

 俺が、ちゃんと抱きとめてあげるから、だから……」

「む………無理……」

 震える声で、首をふりながら答える。


 ここまで、天井裏を歩いてきておいて、全くもって今更な話だけど、私は、小さい頃のトラウマで、高所恐怖症なのだ。

 別に、天井裏は、スケルトンなわけじゃないから、高いところだと認識してなかった。

 そもそも最初は、床だと思っていたんだし。


 間抜けと言われようが、何だろうが、今、きちんと下を見てみて、初めて高さを感じたのだ。

 子供の頃味わった恐怖を思い出した私は、涙目になりながら、もう一度、琉旺さんに向かってブンブン首を振る。


「む、昔……子供の頃、お父さんと広い公園に出かけてて、気がついたら、お父さんの姿が見えなくて……。 

 高いところに登ったら、お父さんが見えるかなって、ジャングルジムに登って……」

 涙声で、鼻を啜りながら話す私に、琉旺さんは目を逸らさずに、何度も「うん、うん」と、相槌を打ってくれる。

「でも、お父さんは、私のこと大して探しもせずに、帰っちゃってた……。

 私、自分で登ったのに、怖くて降りられなくなって、そのうち寒くて、手の感覚がなくなってきて、掴んでた棒を離しちゃった。

 そうしたら、バランスが崩れて……」

 当時を思い出しながら話す私は、情けないことに、どんどん涙声になってくる。


「公園にいた知らない子のお母さんが、見つけてくれて、すぐに病院に連れて行ってくれたんです。

 でも、病院に、青い顔をして迎えに来てくれたのは、お父さんじゃなくて、おばあちゃんだった………。

 わた……私、降りられないの。

 無理……なの……」


 私の高所恐怖症は、高いところから落ちた恐怖とは別に、父に少しも大事にされていないという事実を突きつけられた恐怖が絡み合って、雁字搦めになっているのだ。

 あの時、知らないおばさんは、私を抱き起こして、仕切りに“大丈夫?“と優しく声をかけながらも、決して自分の子の手を離しはしなかった。

 抱き起こしてもらって、優しい声をかけてもらった私は、心の奥底からほっとした。

 けれど、私にも、そんな手が欲しいと、痛む体と、涙で滲む視界で朦朧としながら、仄暗い嫉妬心が幼い心には湧き上がったのだ。

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