雑炊
私の娘由美香は、内気で気遣いのできる優しい子。
毎朝、由美香の部屋に行って起こすのが日課。スマホのアラームは止めてるみたいだけど、私が起こしに行かないとベッドから動かない。中学ニ年生にもなって、将来が少し心配だけど、私が必要としてもらえてるようで内心嬉しい。
朗らかな朝。
今日もいい天気。洗濯物がよく乾きそう。
さ、そろそろ由美香を起こしに行かなきゃ。
「学校、遅刻するわよ」
…。
返事はない。
「由美香、起きなさい」
布団をめくり上げると、小さなホコリの粒が朝日によってキラキラと輝く。目をぎゅっと閉じて海老のように丸まった由美香の肩を、揺らす。
「学校…行きたくない…」
…由美香に何があったの?いじめ?
少し前まで、同級生の亜美ちゃんや、クラス委員長の義樹君の話を楽しそうにしていたのに。
「どうして?」
…。娘は答えない。
学校には私が電話をして休ませた。
由美香の朝食のマーガリンを塗ったトーストは私が食べた。少し冷えて固くなっていた。体調が悪いわけではなさそうだけど、雑炊を作って由美香の部屋の前に置いておく。食欲があればいいけど。
コトン。
「私、風邪なんて引いてないし。わざわざ雑炊なんか作んなくて良かったのに………でも、ありがと」
綺麗に平らげて空になった食器をシンクに置く由美香。晴れない顔。それでも、ちゃんとお礼を言えるなんて、本当に素直で良い子。私が由美香くらいの時は、こんなに素直だったかしら。
「お粗末様。…どう?気分は?」
「私、昨日、授業中オナラしちゃって…。隣の席の義樹君に笑われた…」
消えそうな声で、地面を見つめてモジモジしながら言う娘。
そっか。そんな事があったのねーーー
「お母さんも、お父さんと初デートの日にね。カキを食べたんだけど、その後、お母さんだけずっとお腹を下してね…。お父さんは、映画館のチケットも買ってくれてたみたいだけど、行けなくなって。申し訳なくって、恥ずかしくってね…。でも、今となっては懐かしい思い出。由美香も、いつか思い出として話せる日が来るわよ」
「そんな事があったんだ…お父さんは平気だったの?」
「そうよ。お父さんは何ともなかったの。だから余計に居た堪れなかったわ。どうして私だけってね。でも、しばらくしてからお父さんにあの時の事を話したら、『俺もお母ちゃんが可哀想で、でも何もしてあげられなくて、悪かったな』って照れ臭そうに言うのよ。笑っちゃうわよね」
「へぇ」
ピロリン
「あ。亜美からライン」
「亜美ちゃん、心配してくれてるんじゃないの?」
「うん。そうみたい…」
翌朝。
カーテンを開けると、今日も穏やかな朝日が降り注ぐ。
「おはよ」
由美香は、私が起こしに行く前にリビングにやって来た。
「やっぱ朝はマーガリントーストだね」
「ご馳走様!行ってきまーす」
良かった。大丈夫そうで。
あなたの健康と幸せを、いつも願ってるわ。
行ってらっしゃい。気をつけてね。