三 山崎闇斎という人(十)闇斎の漢詩文(二)
〇「比叡山に遊ぶ四首」より
清風 暁を拂ひて山行を促す
山は皇城を去ること三里程
霧は路頭を鎖し人迹罕なり
四山呼び答ふ郭公の聲
二十年前 書を讀む處
再遊す 厭はず 路の崔嵬なるを
東に臨めば湖水一明鏡
北に望めば越山衆皺を堆す
禽鳥 聲中に活意を観
松杉 陰裏詩懐を起す
涯り無き風景 樂しむに堪へたりと雖も
梵磬人を悩ます いざ歸りなん
※闇斎は少年の頃比叡山で学んでいた
※
〇雪夕に茶を煑て戯に二絶を作る
小室三人膝を容れて安んじ
雲花時に點じ心肝を洗ふ
縦然白戰 外邊に急なるとも
妨げず 這中一味の閑
師は正叔の如く道を尊ぶに足り
友は游楊に似て談を款くに堪へたり
初學門に入りて樂を問ふを休めよ
苦茶喫して後餘甘有り
※
〇有感
坐ろに憶ふ 天公世塵を洗ふを
雨過ぎて 四望更に清新
光風霽月 今猶ほ古のごとし
唯だ缺く 胸中灑落の人
※
〇蓮池
風は渡る玉蓮池 天香鼻を撲ちて來る
葉靑の異色無し 花白の曽て緇せず
遺愛す元公の説 長吟す晦叟の詩
眞情竟に如奈 今古人の知ること少なり
※
〇洛東に遊ぶ
世事關らず自在の身
行庖輿に乗ず洛東の濱り
仰ぎて望む 清水山頭の景
伏して拝す 祇園宮裡の神
天上 雲温かにて黄鳥囀り
林間 日永くて白櫻嚬む
眼前片片とし風色を添ふ
道ふ莫れ 花飛びて春を滅却すと
正叔:程伊川
游楊:游酢と楊時。共に伊川の弟子筋の人
胸中灑落:周茂叔の人品を同時代の黄庭堅が褒めた言葉に、「胸中灑落にして、光風霽月のごとし」とある。
元公:これも周茂叔。「愛蓮説」がある 晦叟:朱子。




