三 山崎闇斎という人(四)その学問と人となり(一)師弟の間、儼として君臣の如し
吾儕未だ伉儷(妻)を得ず、情欲の感、時に動きて自ら制すること能わず。則ち瞑目して先生を一想すれば、欲念頓に消え、寒からずして慄す。(先哲叢談)
闇斎、天性峭厳、師弟の間、儼として君臣の如し。教を受くる者は、貴卿巨子と雖も、之れを眼底に置かず。其の書を講ずるや、音吐鐘の如く、面容怒るが如し。聴徒凜然として敢へて仰ぎ見る無し(同)
「いい天気ですね」と挨拶すると「天気の話などして何になる。道の事を問え」と怒られる。言葉について質問をすると「辞書を引け」と言われる。入門を希望しても学力不足だと断られたりもする。入門を断られた一人、高弟の佐藤直方は入門後に「先生の邸に入る時は獄に下る心地がして、邸を出たら虎口を脱したとホッとした」「先生に毎日罵られて、精根尽き果てた。このままでは死んでしまう」とまで語っている。
それでも闇斎の許には多くの門弟が集まった。直方と並ぶ高弟浅見絅斎は「先生が困窮したら物を売ってでも助ける」といい、他の弟子も「あんまりたびたび叱責されるので、その時は腹が立ってもう二度と行くまいと思うが、こんな風に親切にされるとやはり重ねて通いたくなるし、何なら背中をさすって差し上げたい」と語っている。