プロローグと第1話
拙い文章ですので、大目に見て下さると幸いです
春とは、出会いの季節であり、始まりの季節でもある
その出会いや始まりが一生を決める大切なものになるかもしれない
が、この話は別に大した出会いでもなく、特に何も始まらない、下品な男と少し上品な女の話である
春になると毎年変人奇人が問題を起こしては
それを見ると大体の人は「あーもう春かー」と小言を漏らす
そして毎年問題を起こすであろう変人の予備軍が一人ベンチで考え事をしていた
男は溜息をついては、空を眺め、愚痴をこぼす
それを何度も繰り返しては自分の愚痴に嫌気がさし、口を瞑る
しかし愚痴を続き、その愚痴はいつも同じ文句から始まる
「なんで俺は生まれてきたんだろう…」と
そこからは、世の中を小馬鹿にし、俺はお前達より優れていると豪語する
今は春について愚痴をこぼしているようだ
こんな風に
「大体なんでこんなに不幸な目に遭わなきゃ行けないんだよ…ふざけんなよ!
バイトじゃ知らないおっさんにイチャモンつけられるし、携帯は落としてヒビ入るし!
いい事ないよな本当、俺の人生最悪だわ
あー!桜の花びらが鬱陶しい!なんでこんなに落ちてくるだよ!邪魔だよ!
こんなのに風情があるわけないだろ!?
アスファルトの上で花びらが潰れて汚くなるし、掃除し辛いんだよこれ!
桜は散るのが綺麗とか言ってる奴の精神がどうかしてるよ
お前ら掃除しないから簡単に言えるよな…
けど散ると散るとで、葉桜が綺麗とか言う奴がいるんだよな
綺麗なわけないだろ?それってただの木だろ?良い訳ねーじゃん!
私は他の人何倍も感性ありますよ?的な奴は?
そいつは人の何倍も精神的成長が遅れているんだよ
そんなこと考えるの金持ちのボンボンで何にも考えてなさそうなガキだよなぁ
…はー…下らない…俺は何やってるんだろう…もう帰ろう」
となどなど愚痴を呟きなら男はトボトボとその場を後にしました
その一方で、春という季節にキラキラと眼を輝かせ景色を見ている女性がいました
左右を交互に確認しては、どんな人がいるのだろう?この人は趣味が合うだろうか?
と胸に期待を寄せては、軽快に歩く、見るからに大学を楽しみにしている学生だ
今にも大きな声で、挨拶をしたい気持ちを抑えながらもその気合は顔に出ていた
周りからは、楽しそうな人というよりも、どこか危ない人に見えるのはしょうがないのかもしれない
心の中では、一喜一憂しながらも、1つ1つに何か感想を述べているようだ
こんな風に
「(あぁ!やっと念願の大学に入ることが出来たわ!高校の先生、家庭教師の皆さん、同じ部活の先輩ありがとうございます!
日頃の努力と皆様の応援で私はこの大学に入ることが出来ました!努力は期待を裏切らないのよ!
あんなにも厳しかった先生も受かったと聞いた途端に涙を流す勢いで、喜んでくれたもの!
それにしても色々な人がいますね…
あの人校門で携帯をいじってる人は、友達を待ってるのかしら?
あそこのベンチにいる人は…きっと関わらない方が良いわね、春によくいる変な人なのよ、きっと
向こう側でで指示をしてる人はもしかして、私の学年の担任の先生かしら?
あら?もうグループで登校をしているなんて…羨ましいわ!私も友達を作らなくちゃ!
みなさん楽しそうでワクワクするわ!
しかも登校初日から桜が満開で迎えてくれるなんて何で幸運なのかしら!
入学式の時に咲いてなかったのは残念だけど…
登校初日桜が咲いてるのはとても嬉しいわ!きっとこれも私を祝福してくれてるに違いないわ!
桜ってやっぱり散るのが綺麗なのよね!風情もあって日本の文化を感じるから好きだわ…
文化的で精神的にも豊かになるわ、桜はこうでなくっちゃいけないわよね!
けど散っていく桜も風情があって好きだけど、私は葉桜の方が好きだわ…
葉桜でお花見というのも何とも風情があってとても良いんじゃないかしら?!
もし友達ができたらみんなと葉桜を見に行こうかしら!)」
などと少し間の抜けたことを考えながら大学のキャンパスへと入っていくのだった
そして一ヶ月後…
期待に胸を躍らせた女性の精神は、悲惨にもズタズタに引き裂かれていた
彼女の期待とは真逆に大学生活があまりにもキツイものだった
それは彼女は学はあったが常識はなかった、その上に側から見ると精神年齢が幼く、鬱陶しく感じる人達が多かった
しかし彼女は自分に非があるとは感じず、むしろ他の人の常識が欠けていると不満を漏らしていた
そんなある日、彼女は勉強をしようと休日にも関わらず、大学の図書館に向かう事に決めた
休日は一般公開されているが全く見当たらず、居るのは職員ぐらいだった
目に付いた席に座り、学用品を取り出すと、復習や予習をし始めた
とても真面目に講義を聞いているので、これといってつまずくとこも無くスラスラと問題も解いていく
一息を着こうと、顔を上げると自分の斜め右横に男性が座っているの事に気が付いた
あれは…前にどこかで会ったことがあるような…?
バイトまで時間があるので寝間着のまま、パチンコに向かい資金調達をしようと赴いたが、四万円も負けてしまってトボトボと家に帰る途中の事だった
一般公開中と貼ってある図書館があったので、気を落ち着かせる為にゆっくりと入ってしまった
そこはどうも金持ちが入る大学の図書館らしく、多くの本が置いてあった
本が多いのに、人はこれと言って居らず、自分と職員、後は学業に励む学生であろう女性程度だった
適当な本を手に取り、ガラ空きの席に座る
本に書いてある内容は、よく分からない計算式や関数で埋め尽くされており意味がわからなかった
これじゃあ気も休まらないと思い、また適当な所から本を抜き取り、流し読みをする
戻すのが面倒なので放置をして、また適当に本を取ってる
しかし、読んでも読んでも訳が分からず、フリスビーの勢いで投げてしまいそうになったので帰ろうとすると、女性がこちらを見ていた
その目は何かを見つけたような眼をしており、こちらに向かって一歩一歩足を進めている
驚いたより先に恐怖を感じた、知らない女性がこちらを見て歩み寄ってくる、それはホラー映画でよく観る光景が目の前に広がっていたのだ
女性の容姿も特徴的だった
前髪がそこそこ長いのかカチューシャで垂れないように上げており、卵ような額が出ていた
顔にはそばかすがあり、ヨーロッパ辺りの田舎娘のような容姿である
服装は落ち着いた色のワンピースなので、容姿と合わせては芋女と言った方が良いのかもしれない
つい最近に観た洋画で似たような女性がいたような気がして、何処からか来た恐怖はその洋画の世界から飛び出した田舎の芋女の容姿に酷似していたからかも知れない
そんな事を考えながらも、突然立ち上がるのも変だと思いそそくさと退散しようとすると、声を掛けられてしまった
「こんにちは、前にこの大学にいるのを見た事ありますの、もしかしてここの生徒ですか?学部は何処ですか?」
と図々しくも、顔見知りだと勘違いしているようだ
残念だが、このような芋娘には会ったことはないのでキッパリと会ったことがないと伝える事にした
「いえ、気のせいだと思いますよ?」
とバイトで身に付けた営業スマイルでニッコリと笑い、返事を返した
我ながら胡散臭い笑い方だとは思うがこのくらいしないと話が出来そうにない
女性はと言うと、それを聞いて少しキョトンとしていたが、少し考えながらも口を開いた
「登校初日にあちらのベンチに座っていませんでしたか?私はそちらにいたのを見てましたの、あの時は随分と落ち込んでいましたけど…今は元気そうですね」
とは満面の笑みを浮かべる
こちらとしてはそんな事はいちいち覚えてないから、戸惑う一方だ
しかも、なんで事を鮮明に覚えているのだろう
何が適当な事を言ったら帰ってくれないかな、と思考を巡らせる
嘘をついてこの場を切り抜けよう、そしてこの図書館周辺には近づかないようにしよう
そう思い即座に考えた嘘を言うことにした
「実は、この大学を受験したんですけど残念ながら落ちてしまって…今は浪人しているんです
なので時々この図書館に通って出来るだけ学力を身につける為に勉強しているんですよ」
とバイトで面倒な客に対応をする口調で話した
そうすると女性は複雑そうな顔をし、残念そうにしていた
なんとかフォローを入れたつもりなのか
「大丈夫ですよ!沢山勉強すればきっと入れます!私も沢山勉強してきましたから!」
と言ってきた
罪のない子なのに悪い事をさせてしまったみたいでこっちまで複雑な顔になりそうだった
なので、出来るだけの微笑で返し、
「気にしないで下さい、僕は気にしてませんから!
それでは」
と返したが、彼女は自分に非があると思い
「ちょっと待ってください…良ければこれを使って下さい!」と本を手渡された
それは使い込まれた冊子のようで、彼女が貼ったであろう付箋がビッシリと貼ってあった
正直凄く要らないが、これを貰っておかないと話が長くなりそうなので有り難く貰っておこうと手を伸ばした
すると、勝手に彼女は自己紹介を始めた
「私は水原 琴と言います、貴方様は?」
個人情報は話したくないが、話してももうこの人とは関わらないだろうと踏んだので思い切って実名でいこうと決めた
「僕は飯島 健仁と言います、よろしくお願いします」
何をよろしくお願いするかは分からないが、とりあえず自己紹介と挨拶をすることにした
すると彼女はこちらの眼を見て、
「飯島さんはどの学部にする予定ですか?もし良かったら他の参考書もお貸し致しますよ?」
なんでこの人はそこまで人に親切に出来るのだろう…と小一時間考えたくなったが、ここで断っても話が拗れるだけだし、どうせ家に持ち帰ると捨ててしまうので、取り敢えず貰っておくことにした
がこれが失敗だった
彼女は本を鞄の中から取り出すのではなく、トコトコと本棚に向かい何冊もの本を持って来て近くの机にドスンと置いた
「このくらいあれば、目指している学部に行けると思いますよ?他に欲しい本はありますか?私が借りてあげましょうか?」
と言ってくる、自分は何を言っているのか分からなかった
この水原 琴という人物がいかにお人好しで、いかに世間知らずが分かっていなかった
自分は咄嗟に
「いえ!僕が自分で借りますよ!?水原さんはそんな事しなくて良いですよ?!」と口が滑ってしまった
これがいけなかった
彼女はそれは出来ないと言い返した
「実はこの図書館のここの学生は一度に5冊の本を借りる事が出来るのだけど、一般の人は1冊までしか借りられませんの
だからここにある5冊は私が借りるので、残りの1冊は飯島さんが借りてください
そうすれば全部借りられますよ!」
といわれた…咄嗟に嘘をついた自分を恨みたくなったが、今日借りて明日にでも返せば二度と会わなくなると思いそれに賛成する事にした
後には引けないとはいえ、さらに墓穴を掘ってしまった
これ以上墓穴を掘る事は無いだろうと思った矢先だった
カウンターにて、本を借りようとした際に職員は会員証を持っているか?と尋ねてきた
当然持ってないので、持ってないと答えると
職員は淡々と「ではここに住所と電話番号、お名前をお書き下さい」
と言ってきた、絶望的である
住所なんて個人情報の塊じゃないか、しかも電話番号まで書かなくてはいけないなんて
最悪なのは、面倒臭くなった時に本を捨てる事が出来なくなってしまった
ある意味悪質な詐欺かと錯覚してしまった
後戻りは出来ず、ズルズルと言われるがままに、書き続けた
全てが終わると職員は会員証を渡し「来週の日曜日までに返して下さい、返却の際は必ず会員証を持って来てください」
と丁寧に期限と規則付けて来た
これで来週またここに来なくては行けなくなった
そして厄介なのは、会員証がないと本を返せないという事だ
やってしまった…こんな嘘をつくんじゃなかった
今月最高に後悔していると、ニコニコと水原が笑いかけて来た
「これで沢山勉強が出来ますね!1週間後にここ来ますからその時にでも進展を教えてくれます?」
と嫌味じゃないのに、嫌味に聞こえてきた
と言っても別に何か問題がある訳でもないし、来週までの縁だろう
あとは理由をつけて離れれば良い、簡単な事だ
1週間くらいどうって事は無い
彼女は満面の笑みで、手を振り「それではまた今度お会いしましょう」
と言って立ち去って行った
自業自得とは言えここまで面倒なことになるとは思いもしなかった
次までに、断る理由も考えておかないてはと考えながらそそくさと帰る準備をすると、自分が寝間着だった事を思い出す
そして手元には財布と携帯電話しか無い事をに気づく
この借りた本をどうやって持ち帰ろうか…一番大変な事に今気がついてしまった…