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第五話 婚約者

 あれから一週間が経ち、今日は王城に行く日だ。

 婚約者になることが正式に認められてからの初めての登城で、ちょっと胸が弾む。


「決して粗相のないようにな」

「何度も言われなくてもわかっております」


 対面に座るお父様と一緒に馬車に揺られているのだが、本日何度目かわからないぐらい失礼のないように、おかしなことをしないようにと言い含められている。

 屋敷を出る前にはお母様からも言われたし、お兄様も困り顔だった。


 今日は王子様と交流するだけだから、粗相のしようがない。王様はとても多忙だから中々会えないらしいし、王妃様も忙しい方だとのことで会わないらしい。

 絶対会うことはないから大丈夫だと、お父様がそうお母様に話していた。

 前回のことがあるのでいまいち信用に欠けるが、今の段階で心配してもしかたないから考えないことにする。




 王城に着き通されたのは前回と同じ中庭――ではなく遊戯室だった。

 積み木とかの子ども用の遊具が置かれている部屋にはすでに王子様がいた。お父様はこれから仕事だから、王子様に挨拶すると足早に去った。


「何をすればいいのでしょう」


 子どもふたり、部屋に押しこまれても何をすればいいのか見当もつかない。積み木で遊ぶにしてもふたりで遊ぶには微妙すぎる。それ以外の遊具もひとり遊び用ばかりで、ふたりで遊ぶには適していなさそうだ。


「とりあえずお茶でも飲めばいいんじゃないかな」


 部屋の中央に用意されている机の上には湯気が立ち上るお茶が用意されている。侍女もお茶の用意がすんだらそそくさと部屋を出ていってしまった。

 私が幼女とはいえ、これはどうなのだろうか。警備面とか色々不安になってくる。


「そうですね、いただきます」


 王子様に勧められては断れないので、ひとまずお茶を飲むことにする。王子様も私の向かいに座ってカップに口をつけた。

 やはり見た目はとても愛らしい。これが俺様になるのかと思うと、残念でしかたない。


「君が私の婚約者になったと聞いたよ」

「えぇ、とても光栄だと思っています」


 王子様がカップを置いてにっこりと微笑んだ。とっても可愛い。


「婚約者ということは、私が何をしても咎めることはできないよね」


 なんだその婚約者の定義は。

 むしろ妻になるのだから忠言する立場だろう。


「殿下が何を仰りたいのか、よくわかりませんが……」

「今日はとても忙しいみたいで、朝から騒がしいんだよ」


 会話をする気が感じられない。どうやらすでに俺様になっているようだ。

 目の保養とばかりに眺めていたのに、中身がわかってしまったせいで純粋に楽しめなくなってしまった。


「つまり私がこの部屋を出ても誰も気づかないはずなんだ。君以外はね」

「そりゃあ、殿下が部屋を出られて気づかないほど私は愚鈍ではありませんね」

「だけど君は私の婚約者だろう? 私についてこないといけない立場だ」


 王子様の中の婚約者像がひどい。


「城には有事の際に使用する隠し通路がいくつもあってね、そのうちのひとつが森の小屋に繋がっているらしいんだ」


 森、というと北門を出た先に広がっている大きな森のことだろうか。西門や東門の先は草原だし、南門は大きな川があったはずだ。

 王都周辺の地図を思い浮かべるが他に森と呼べそうな場所はないので、多分間違いないだろう。


「誰の監視の目もない状況なんてそうそうないからね」

「私が監視役なのだと思いますけど」


 王都を散策したいとかお忍びでとかならまだしも、王都を出るという提案に頷くわけにはいかない。

 それを許してしまったらお父様に怒られる。


「君に私は咎められないだろう?」

「いや、咎めますし、部屋から出たら大声で叫びますよ」


 ぷくっと王子様の頬が膨れた。


「折角君が同意できるような理由も作ってあげたのに、ずいぶんとつまらない婚約者がついたなぁ」

 

 あーあ、と言いながら背もたれに体重をかけたせいで椅子の前足が浮いている。

 行儀が悪いですよと叱責してもよい場面だと思うのだが、どこまで口を出していいのか悩む。

 あまり口うるさくしすぎて早々に婚約が流れてしまうのはよろしくない。婚約解消するのは、修正不可能と思われる年齢になってからだ。


「殿下は外に出たいのですか?」

「そりゃあね。大抵のことは城の中ですむとはいえ、閉じこめられ続けるのは気分がいいものではないさ。婚約者という変化ができたというのに、生活自体は何も変わらないし、退屈でしかたないんだよ」

「安全のためですしそこはしかたのないことでしょう。護衛も一緒で構わないのでと王都に降りる許可をねだってみてはいかがですか? さすがに外に出るのは許可してくださらないとは思いますが、貴族街程度でしたら大丈夫かもしれませんよ」


 私がつまらないかどうかはともかく、今後も似たようなことを言われないように先手を打っておく。

 王子様のお願いが断られたとしても、外に出たがっていることが伝われば監視の目が厳しくなって、こんな困ったことは言えなくなるだろう。


「おねだり、ねぇ……そうか、そういう手があるか」


 王子様も納得してくれたみたいだ。


 その後は王子様の退屈だとかつまらないとかといった愚痴を、お父様が迎えに来るまで聞かされた。





 そして数日後、王子様がやってきた。



「婚約者の家に足を運ぶのは不自然じゃないだろう?」


 きらきらとしたいい笑顔を浮かべた王子様が、私の部屋にいる。

 私は開いた口が塞がらないし、王族の接待なんてしたことのないマリーはあたふたしている。


「シルヴェストル公爵には許可を得ているし、公爵夫人には先ほど挨拶をすませたから問題はないよ」


 どうやら根回しはすんでいるようだ。私が何を言ったところで王子様は帰らないだろう。

 部屋の隅で立っている騎士の姿が物々しいし、マリーは色々用意しに部屋から出てしまったし、心休まる私の部屋が一気に緊張高まる部屋になってしまった。


「さて、今日は屋敷を案内してもらおうか」

「でしたら執事をお呼びしますね」

「君に案内してもらうよ。公爵夫人にもそう言って断っておいたから、呼んでも誰もこないんじゃないかな」


 間違いなく私の顔は引きつっている。

 やりたい放題な王子様が天使から悪魔に見えてきた。


「今日は、ということはまた来るおつもりですか?」

「当然だろう。城以外で気安く出入りできるのはここしかないからね」


 気安く出入りしないでほしいですとは、口が裂けても言えなかった。

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