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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第二章

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第二十七話 地震8

 今から十年ほど前、アルペール領を大地震が襲った。今日ほどではなかったが、それでも甚大な被害が出た。その日クラリスは町に遊びに出かけていたらしい。今は亡き母親と、父親、そして帰省していた叔母と共に。

 一度目の地震はそこまで大きなものではなく、せいぜい店内の商品が崩れてきたり、家具が倒れてきたりしたぐらいで、建物が倒壊するほどのものではなかった。

 クラリスの父親は安全確認のために街中を見て回ることにしたらしい。そしてクラリスとその母親、叔母の三人は先に屋敷に帰っているように言われ、馬車に乗りこんだ。馬車に揺られながら、父親が遠ざかっていくのを窓から眺めているときに大地震に襲われた。


 倒れる馬車の中で、クラリスは母親に抱かれていた。揺れが治まり、馬車から這い出たクラリスはすぐに救援を呼びに行くことにした。母親と叔母は声をかけても反応がなく、泣き出しそうになるのをこらえながら、クラリスは教会に駆けこんだ。

 教会は重傷者達でいっぱいだった。出血の有無、怪我の具合、矢継ぎ早にかけられる質問に、幼かったクラリスは満足に答えられなかった。

 怪我の具合がわからないなら、誰かに教会まで運んできてもらいなさいとクラリスは教会から追い出された。


 丁度昼食時だったせいか、あちこちで火が上がり、大人も子供も手一杯の状況で、クラリスに手を差し伸べてくれる者はいなかった。

 馬車の近くで必死に声を上げ続けて、ようやく助けが来たのは日が落ちようとしていたときだった――。



 という話を長々と聞かせられた。クラリスの叔母は宰相子息の母親で、クラリスと宰相子息は従姉弟という間柄だそうだ。

 性格がきつそうなところぐらいしか似ていないから気づかなかった。宰相子息は父親によく似ていたし、母親の遺伝子はどこかに置いてきたのかもしれない。


「父は、崩れてきた建物に巻きこまれて教会に運びこまれていましたわ。父の命を教会は救った、と言えるのかもしれませんわね。それでも、わたくしはどうしても教会が許せませんの。まだ、五歳でしたのよ。満足に答えられないからと、追い出していいはずがありませんわ」


 当時のことを思い出しているのだろう。クラリスの瞳は怒りに満ちている。


「わたくしについてきてくれていたら助けられたかもしれないのに、そう言ってなじるわたくしに、教会の者は誰かひとりを特別扱いにはできないと、そう突き放しましたの。怪我をしたり血を流していたのなら、もっとはっきり言えばよかったとまで――そのような相手を、許せるはずがないでしょう」


 クラリスが教会を毛嫌いしている理由も、宰相子息と仲が悪そうだった理由もわかった。

 宰相子息側からしたら、帰省していた母親が亡くなったと伝えられたことになるわけで、アンペール領を憎んでいたとしてもおかしくない話だ。

 だけどクラリスを小馬鹿にしていたが、憎んでいるというほどではなかった気がする。さすがに四年近く前のことだから、茶会のときの会話を詳しくは覚えていない。

 宰相子息が後妻を勧めていたことぐらいしか記憶にない。


「今回も、わたくしは捨て置かれていたことでしょうね。お話を聞いた限りでは、あのときとは違って血も出ていなかったみたいですもの」

「命を脅かすほどの怪我ではなかったかもしれないわ」


 命で報いるというのは重すぎるからやめてほしい。

 助けてくれてありがとうございますぐらいでいいと思う。というか、その程度のことしか望んでいなかった。


「なんとなく、わかりますのよ。自らの命が零れ落ちていく感覚が。何もしていなかったら、わたくしは今ここでお話することもできなかったと思いますわ」

「それって気のせいじゃないかしら」


 私が言うのもなんだけど、クラリスは思いこみが激しすぎるのではないだろうか。

 危機的状況だったからそう感じただけで、本当はちょっと気を失っていただけの可能性だってあると思う。こぶは大きかったけど、それで死にいたるとは限らない。


「わたくし、あなたのことを勘違いしていたみたいですわ。聖女の血を継いでいて、教皇のご子息とも仲がよさそうでしたから、てっきり教会側の人間かと思っていましたの」


 私はクラリスを負かしたいだけで、恩を売りたいわけではない。これで手加減されるようになったら、永遠に勝てなくなる。

 私の目標は全人類を足蹴にするほどの悪役だ。手心は必要ない。


「教会と仲が悪いというわけでもないから、その認識で間違ってないと思うわよ」

「今ならわかります。あなたは、教会とは別の方なのだと……これまでの無礼を、許していただけないでしょうか」



 勝ち逃げは――。


「――許さない」


 クラリスの顔が引きつり、それから悲しそうに目を伏せた。


「そ、そうですわよね。ええ、わたくしったら、甘いことを言ってしまいましたわね」


 思わず口から出ていたようだ。挙動不審になっているし、とんでもない勘違いをしていそうだ。


「言葉ひとつで許しを乞えるだなんて、思わないことね」


 もちろん訂正するつもりはない。

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