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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第二章

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第二十四話 地震5

 金髪の主はまるで眠っているようだった。呼吸はしているし、死んでいるということはなさそうだ。


「クラリスー、クラリスー」


 声をかけても反応はない。領主の娘であるクラリスが何故ここにいるのかはわからない。リューゲはこの村には特色がないと言っていたから、わざわざこの村に来る理由はないはずだ。


 ここに転がってるということは、地震の後に来たというわけでもないだろう。少なくとも災害前からこの村にいたはず。救護をして疲れて眠った、という可能性も低そうだ。寝ている場所が中途半端すぎる。

 位置としては中間ぐらい。眠った人のためにわざわざ他の人をずらしたりはしないだろう。


「地震の後で、眠ってる……って結構まずいんじゃ……」


 慎重にクラリスの頭を持ち上げて、怪我をしていないか確認するとたんこぶを見つけた。血は出ていなさそうだが、結構大きい。


 手遅れになる前に修道女にクラリスのことを伝えにいこう。



「裂傷があるわけではないんですよね」

「はい。頭を強く打ったみたいです」

「でしたら後です。まだまだ治癒しないといけない方は多いですから」


 だが、修道女にはにべもなく断られた。意識がないということや、頭を打ったときの怖さを説明したのだが、専門知識もない私のつたない説明ではしっかりと伝わらなかった。


「でも、領主様のご息女ですよ」

「女神様の生み出した命に貴賤の差はございません」


 呆れたような目で見られ、私は口ごもってしまう。つたない説明では駄目、権力を笠にきても駄目。駄目駄目尽くしだ。

 修道女は話を一方的に打ち切ると、他の――裂傷や火傷の酷い人たちのところに向かってしまった。そこかしこで聞こえる修道女を呼ぶ声。

 小さな村だから、教会の人は多くないのだろう。あちこちと走り回る修道女の額には汗が浮かんでいた。




「クラリス、私はどうすればよかったんだと思う?」


 クラリスの横に座りながら問いかける。もちろん返事はない。リューゲは村の外で待っているから頼れない。こんなことなら無理矢理にでも引きずってくるべきだった。

 修道女を引きずって連れてきて、その結果他の誰かの命が失われたら、私では責任を負いきれない。ひとりを救うために、別のひとりを見捨てる選択肢は、選べなかった。


 悪役なら、いっそ修道女の邪魔をするのが一番だと思うけど、さすがにそこまで非道にはなれない。ひとりを救えないからといって、他の全員を見捨てるのは正気の沙汰ではない。


 クラリスの縦ロールになりきれていない緩やかな巻き髪を一束掴んで手の中で弄ぶ。悪役っぽい髪形を羨んだことがないといえば、嘘になる。

 髪をまとめたりするのに侍女が苦心するぐらい、私の髪は直毛だ。一度巻いてもらおうとしたけど、すぐに落ちてしまった。


 クラリスのことは好きではない。むしろ私よりも悪役令嬢らしいという点だけを考えるなら、嫌いかもしれないぐらいだ。

 当たりは強いし、人を馬鹿にした態度をとるし、ろくな思い出がない。最初の出会いからして最悪だった。


 だけど、見捨てることはできない。


 リューゲの助けなしにどこまでできるのかわからない。それでも、私は覚えている限りの呪文を唱える。讃美歌のような呪文を、歌うように。


 失敗したらごめんね、と心の中で語りかけながら。



 


 結果、私は気を失った。本日二度目だ。人って簡単に気絶できるということを思い知る。気絶する前に体の奥底から何かが引きずり出される感覚があったから、原因は魔力不足だろう。

 今起きられるようになったのは、ある程度魔力が回復したからかもしれない。ゲージがあるわけでも、感覚としてわかるわけでもないから予想でしかないけど。


 目を開けると、知らない天井があった。灰色の石でできた天井。本当に、どこの天井だ。


「あら、起きたの?」


 よく知った、つんけんとした声。


「ここはどこかしら」

「ティエンよ。わかってるでしょう」


 あそこには家なんてひとつも残されていなかったはずだ。体を起こして、灰色の壁に囲まれていることを確認する。

 一部欠けていて外の様子が丸見え部分は出入り口なのだろう。他の部屋はなさそうで、四角いだけの素っ気ない建物。それでも、急ごしらえにしてはしっかりとした石造りだ。


「……もう家ができたの?」

「建物を作るのは得意なのよ」


 ふふんと胸を張るクラリス。


「建物を、作る……?」

「そうよ。アンペール領ではよく家が壊れるから、散々練習したわ」


 怖い領地だ。頻繁に建物が倒壊するような土地では暮らしたくない。アンペール領に婿入りしたい人がいないというのにも頷ける。

 


「じゃあ、ここはクラリスが……?」

「だから、そう言っているでしょう。あなたの耳にはおが屑でも詰まっているのかしら。それとも、頭の中に詰まっているの?」


 先ほどまで頭を打って気を失っていたとは思えないほど、クラリスは元気だ。相変わらずすぎる口の悪さに思わず笑みが零れる。


「何よ、気持ち悪いわね」


 成功してよかった。心の底から、そう思えた。 


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