閑話 それぞれの思惑3
後半は別視点。
本日は3話上げています。
日記帳を捲る音が耳に心地よい。長く続いた日記帳はもうすぐ十冊を超える。
去年から領地や他国に赴くことが増えたおかげで、書いても書いても足りないぐらいだ。彼女が書く量とは見合ってないとわかっているけれど、私のことを知ってほしくてたくさんの文字を連ねてしまう。
兄上の協力もあるお陰で、日記帳と贈り物は彼女のもとに届いている。ふたつ上の兄上が学園に入るまでではあるけれど、それでも十分だ。
私が十五になる頃には王都に戻れる。ほんの一年の間だけなら、少しぐらい日記を交換する頻度が減っても我慢できる。
今日もまた、彼女は食事についてを書いている。相変わらず外に出ていないようで、安心するような心配になるような複雑な心境だ。
贈り物の感想も書いてある。硝子でできた剣はお気に召さなかったようだ。
私自身何がいいのかさっぱりだった剣は、彼女にも利点が見い出せなかったらしい。置く場所に困りますと綴られている。
届いた剣を見て慌てふためく彼女を想像して、笑みが零れる。
「次は何を贈ってあげようかな」
ぬいぐるみが好きだと書かれた時には、こことぞばかりにぬいぐるみを贈った。
彼女の部屋にはひとつもなかったことは覚えている。本当に好きだったら、シルヴェストル公が買い与えているはずだ。彼女には理想の令嬢像があるようで、ときたま嘘を書いてくる。
だけどぬいぐるみ攻撃が効いたのか、それ以降は当たり障りのない回答は減った。
塩気のある揚げ菓子が好きと書かれていたときには悩んだが、丁度赴いていた国にパン生地に具材を詰め込んで揚げるものがあったので、それを贈った。
だけど毎回毎回彼女好みのものが見つかるわけではない。そういうときには土地の名産を贈るようにしている。
その結果が硝子細工の等身大の剣だったわけだけど。
次は無難なものにするか、奇をてらうか、悩ましいところだ。
「ここだと、何が名産だったかな」
部屋の隅に立つアドルフに声をかける。
「……木彫りです」
少しの間を置いてから、返事があった。木彫りでできた剣を贈ったら彼女はどうするだろうか。
怒るか呆れるか。想像するだけで楽しい。
「そうだ、木彫りの熊にでもしよう」
ぬいぐるみが好きだということは撤回されていない。ぬいぐるみとは少し違うけど、同じような見た目にしたら問題ないだろう。
そうしたら、ぬいぐるみはそこまで……と本音を言ってくれるかもしれない。
彼女を知るために、彼女に知ってもらうために、彼女に私を印象付けるために、私は今日も彼女のことを考える。
早く彼女に会いたい。開口一番彼女は何を言ってくるだろうか。会えて嬉しい――とは言ってくれないだろう。きっと贈り物の文句を言うに違いない。
結果は見えているのに想像してしまうのは、少しだけ期待しているせいだろう。
彼女が笑いかけてくる未来を――。
◆◆◆
ヒトガタが表舞台に上がりはじめている。
本来ならありえなかった事が起きている。
私の見た結果にはならない。その事実が嬉しくて、自然と笑みが零れた。
大切な大切な私の世界。
私が見れたところまで後少し。
成功すると信じてる。
あのものたちが救われるまで――後少し。




