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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第二章

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第十四話 教会1

 そうしてこれといって不穏なことも、波乱もなくサミュエルの誕生祝の日になった。

 王太子の来訪もあれ以来なかったし、平穏すぎるほどに平穏な日々だった。日記に書くことがなくなって、最近は読書感想しか載せていないほどに。



 サミュエルの誕生祝は教会で行われる。貴族の誕生祝とは違い、平民にも門を開いているとかで華美すぎない装いで行くように言われた。

 あれからずっと滞在していたサミュエルは、誕生祝前には教会に帰った。お兄様曰くまたすぐ遊びに来させると言っていたけど、教皇の息子がそんな度々教会を留守にしてもいいのだろうか。


「こんな感じでどうかしら」


 レースやリボンはあまり使われていないドレスを身に纏いながら、リューゲとマリーに感想を聞く。

 平民に門を開いているということで、貴族はあまり教会の誕生祝には訪れない。危険な人物は来ないらしいけど、万が一を考えて大抵の人は祝辞のみを送って終わらせるそうだ。


 教会の誕生祝は教皇とかのお偉いさんの子どもしか行わないから、回数自体もあまり多くない。だから、この服がいいといった指標がほとんどない状態だ。


「ええ、よろしいかと思います。一般市民などはほとんど訪れませんし、あまり派手な格好でなければ問題ないでしょう」

「よくお似合いですよ。私としては、お嬢様を着飾りたいところですけれど……」


 リューゲとマリーのお墨つきをもらえたので、これで決定しよう。いや、でもやっぱり、と他に目移りしていたらマリーに飾り立てられそうだし。


 あとはお兄様が呼びにくるまで待つだけ。ドレスが皺にならないように丁寧に椅子に腰かける。


「そういえば、マリーは最近どう? なにか不自由とかしていないかしら」

「旦那様や奥様にはよくしていただいているので、不満なことは何ございませんよ」

「そう、元気そうなら何よりだわ」


 出迎え係だったマリーは最近食堂業務に変わった。

 王太子とかの突然の来訪で、マリーの心労を心配したお母様が落ちついて働ける場所に異動させたらしい。


 食器を用意したり配膳したりを行うのだけど、食事のとき以外は暇なことが多いそうで、私の着替えの手伝いをしてくれるようにもなった。


「またマリーが戻ってきてくれて嬉しいわ」

「お嬢様にそう言っていただけて、私も嬉しいです。でもお嬢様、学園に入るまでにはおひとりで着替えられるようにするんですよ」


 無茶なことを言われた。普通の服ならともかく、ドレスとかをひとりで着ろというのは無理がある。まだ子どもだからいいけど、大人になったらコルセットとかも着けないといけなくなるというのに。


「お嬢様、そんな世界の終わりのような顔をしないでください。大丈夫ですよ、学園で着る制服は複雑な作りではありませんから、慣れればおひとりでも着れると思います」

「あら、そうなの。それならよかったわ」


 そういえばゲームではドレスではなくワンピースタイプの制服を着ていた。平民であるヒロインがひとりで脱ぎ着していたのだから、複雑な構造にはなっていないはずだ。

 それなら問題ない。後ろにボタンがついているとかじゃない限りはひとりで着替えられる。


「マリーったら心配性ね。それなら私でも簡単に着れるわ」

「それならいいのですけど……。学園に入るまでには私もどこかに嫁ぐことになるでしょうし、こうしてお世話できるのも後少しですから」

「結婚……!?」


 マリーは今年で二十だ。一般的には二十か二十一で結婚するから、すでに好い人がいてもおかしくない年齢だ。

 だけど私はマリーがどこかにお嫁にいく可能性なんて、まったく、これっぽちも考えていなかった。


「そんなに驚かれなくても……。旦那様がよい縁談をご用意してくださるそうなので、何も心配はありませんからご安心ください」

「だって、マリーが結婚だなんて……」


 マリーは少なくとも十三歳の時からここで働いている。私が物心ついたとき、すでに私のそばにはマリーがいた。

 両親不明の孤児だったけど、お母様に拾われたとかでお母様に対して一定以上の敬意を抱いている。そのため、マリーはお母様の娘である私にもよくしてくれた。


「寂しくなるわね……」


 そのマリーがどこかに行ってしまうとなると、胸に穴が空いた気もちになる。だからといってどこにも行くなと言う権利は、私にはない。将来の決まっていない私では、マリーを養い続けることはできない。


「ルシアン殿下のもとに嫁がれてからは難しいでしょうけど、それまでは顔を見に来ますので、大丈夫ですよ」

「……そうね」


 王子様と結婚しなければ、マリーは遊びに来てくれるということか。

 俄然やる気が出てきた。目指せ婚約破棄。



「支度できたかい?」


 ノックの音と、続いてお兄様の声が聞こえた。準備は万端だ。マリーの結婚話で多少心が乱されたけど、多分大丈夫。


「はい、お兄様」


 そう返事をして、私は立ち上がった。

 私はこれまで教会に行ったことがない。だから、今回が初めてとなる。


 そう考えたら、少しずつだけど気分が高揚してきた。品行方正な教会の誕生祝はどんなものなのだろう。

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