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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第二章

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第十一話 玩具

 あれから数日が経ち、外出許可が出た。お兄様とリューゲとサミュエルが一緒だけど、少しは許してもらえたのかもしれない。


「それじゃあ、どこに行きたい?」


 馬車の準備をしている間にお兄様が聞いてきた。今日はどこからか招待を受けているわけではないから、自分で行きたいところを考えないといけない。

 王城は行く理由がないし、サミュエルが一緒だということを考えると無難な場所を選ばないといけない気がする。


 教会がどんなところなのか気になるけど、サミュエルにとってはいつもいる場所だからやめておこう。ほとんど出歩いたことのない私は、貴族街に何があるのかよく知らない。

 貴族街を出ることは、お兄様が許してくれないだろう。


「お勧めの場所とか、何かありませんの?」


 だからここは年の功ということでお兄様に聞いてみよう。一番年がいってるのはリューゲだけど、魔族が貴族街に詳しいとは思えない。


「王立図書館とかがあるけど、貸出はしてないからあまり時間がないときに行くのは微妙だし……商店通りかな」

「商店通り?」


 貴族街に似つかわしくない、庶民的な響きだ。

 何か買う時には商人が直接屋敷に来る。だからわざわざ商店を出す理由がないと思うのだけど、どういうことだろう。


「商品を全部持ってくることはできないからね。お勧めの品とか、気に入られそうなものだけを厳選してるから間違いはないんだけど、他にも色々見たいという人のために店を出しているところがあるんだよ」

「それは……見てみたいですわ。サミュエルもそこでいいかしら」


 どんなお店が並んでいるのだろうと今から楽しみになってくる。サミュエルも頷いてくれたし、今日はお店巡りで決定だ。




 馬車に揺られてすぐ目的地についた。

 貴族街を囲う塀の前にずらりと建ち並ぶ、大きな建物。もうひとつの塀みたいになっている。


 前抜け出したときにはまったく目に入っていなかったけど、あのときもこうして聳え立っていたのだろう。


 平民街の商店とは違って、石板には絵ではなく文字でなんのお店かが書いてある。


「気になるところがあったら入ろうか」


 お兄様が朗らかに言ってくれたけど、どうしたものかと顔が引きつる。

 石板にお店について書いてあるだけで、展示品とかはない。ガラス張りで中の商品がわかるようにもなっていないし、何を目安に気になればいいのだろう。


 とりあえず石板に目を通していくけれど、商会の名前と取り扱っている商品しか書いていない。特色とかの判断材料が欲しい。

 元々その商会から買っている人が、他にも見るために来るのだろう。私みたいにどれがどんなお店か知らない人が来ることは想定されていなさそうだ。


 とりあえず、衣服関係はやめておこう。試着だなんだってなったら面倒そうだし。

 装飾系も高額なものを売りつけられそうだから避けることにした。


 

 ゆっくりと歩きながら、お兄様の様子をうかがう。にこにこと笑いながら、特に何も言わずに私たちの後ろを歩いている。

 サミュエルは私の横できょろきょろとあたりを見回していて、リューゲはのんびりとした様子で空を見たりしている。


 これは、私がここがいいって言わないとどこにも入らなさそうだ。


「お兄様、私ここを見てみたいですわ」


 どこが良いところはないだろうかと真剣に石板に目を通して――魔道具という文字に心惹かれた。


「ああ、ここは色々研究しているところだね。新商品とかで面白いものがあるかもしれないよ」

「それは面白そうですわね。サミュエル様はこちらでよろしいかしら」

「あ、はい……僕は、どこでも……」


 扉についている小さな鐘が小気味よい音を立てながら私たちの来訪を告げる。

 店内は外から見た通り広く、壁に沿うようにして商品が展示されている。奥にはカウンターが置かれていて、その向こうに青年と少年の中間、十代後半ぐらいの男性が立っていた。


「いらっしゃいませ」


 男性は私たちを見て朗らかな笑みを浮かべた。そしてカウンターを抜けて私たちのほうに向かってきた。

 従業員が一人だけというのは大丈夫なのか不安になってくる。


「本日は何かお求めですか?」

「色々見てみようと思ってね。子どもでも楽しめそうなものはあるかな」


 それでしたらこちらですと男性が部屋の一角に案内してくれる。

 展示されているものには大きいものから小さいものまで、様々なものが並べてあった。ぱっと見ただけでは何に使うものなのかわからない。


「こちらはいかがでしょう」


 そういって男性が手に取ったのは、少し太い棒だった。石造りで精巧な細工が施されていることだけはわかった。


「こちらは中に光石が埋めこまれております。この硝子窓から中を覗きこんでみてください」


 差し出された筒を受け取り、言われた通り中を覗きこむ。

 色とりどりの模様がゆっくりと動いている。


 ――勝手に動く万華鏡だ。


「こちらは常時発動型ですので長くはもちませんが、小さな光石を使っているため大変お求めやすい商品となっております」


 どういう風に光石を使っているのだろう。幾何学模様を映し出すなんてピンポイントな魔法があることに驚きだ。


 じっとこちらを見ているサミュエルに万華鏡を手渡すと、彼は少しだけ口元を綻ばせながら中を覗きこんだ。


「これ、すごい……ですね……」


 サミュエルの感嘆の声に男性は嬉々とした表情を浮かべる。


「我が商会の研究者が幻惑魔法を安全に使うためにと試行錯誤し、視覚のみに影響を及ぼすことに成功させました。ご希望の図案などがあればそちらに差し替えることもできます」

「幻惑魔法?」


 お兄様が眉をひそめている。幻惑魔法は基礎となる火風土水光やその派生である氷や雷とも違う魔法だ。

 残念ながらどういったものなのかはまだ習っていない。ただ催眠魔法の一種とされていて、使える人間が限られているということだけは教えてもらった。


「もちろん、安全性は保証いたします。常習性はございませんので、虜になることもございません。一年ほど試用期間も設けましたし、教会にも許可をいただいております」

「ちなみに、他には何があるのかな」


 お兄様の華麗なスルーに男性は少しだけ眉尻を下げた。


「それではこちらはいかがでしょうか」


 気を取り直した男性が差し出したのは手の平サイズの箱だった。こちらも万華鏡同様石造りで綺麗な模様が刻まれている。


「箱を開けて中の光石に魔力を通すと、綺麗な音色が流れます」


 箱の底に紫色に淡く光っている光石がちょこんとはめこまれている。そして男性の言うとおり、魔力を流した途端耳に心地よい音楽が流れはじめた。


「……幻惑魔法じゃないものはないかな」


 お兄様がこめかみに指を当てながら苦々しく言った。


 なるほど、光石に幻惑魔法を閉じこめると紫色になるのか。


「これは失礼いたしました。最新のものはどれも幻惑魔法を使っておりますため、旧式のものとなってしまいますがよろしいでしょうか」

「うん、むしろそっちの方がいいよ」


 そうしてようやく、幻惑魔法以外の魔道具を見せてもらえた。



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