表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/191

第九話 茶会

 今日は友達を招いてのお茶会の日だ。アドリーヌは外せない用事があるとかで、クラリスと焼き菓子ちゃんだけが我が家にやって来る。いつかは私のほうから遊びに行きたいけど、その前に自宅謹慎を解かないといけない。


「今日はお二人に紹介したい方がいるのよ」


 中庭にテーブルを設置しての優雅なお茶会に、サミュエルを招いた。遠慮しそうな気配だったけど、お兄様からの助力もあって最終的には頷いてくれた。


「レティシア様が紹介したいだなんて、きっと素晴らしい方なのでしょうね」


 険のある口調で言ったのはクラリス。リューゲの言っていた反感に該当するのは、彼女のことだろう。最初の出会いのせいか、クラリスは度々棘のある言葉を吐く。


「私の従弟だけど、大人しいいい子なのよ。是非とも仲良くしてあげてね」

「まあ! レティシア様の従弟にご紹介いただけるなんて、光栄ですわ!」


 きらきらと目を輝かせている焼き菓子ちゃん。どう考えても崇拝は彼女のことだろう。


 ちらとリューゲに目配せを送る。屋敷の中で待機しているサミュエルを呼んできてもらうためだ。何食わぬ顔で最初から同席するか、途中から参加するかのどちらがいいかを選んでもらった結果、サミュエルは後者を選んだ。


「レティシア様の従弟とおっしゃると……」


 クラリスが眉根を寄せながら呟き、サミュエルがリューゲに連れられながら中庭に出てきた。

 最初会ったときには教会のゆったりとした服を着ていたけど、今日はお兄様の小さい頃の服を着せている。

 私は小さな頃のお兄様を知らないけど、もしもお兄様の髪の色が黒で青い目をしていて、あとついでに消極的な性格だったら、きっとこんな感じの子供だったのだろう。うん、もはや別人だ。


「サミュエル・マティスよ。私にとっては母方の従弟にあたるわね」

「……よ、よろしく、お願い、します」


 小さく頭を下げたサミュエルは、うかがうような目でクラリスと焼き菓子ちゃんを見ている。焼き菓子ちゃんは相変わらず目をきらきらと輝かせているけど、クラリスは険しい顔をしていた。

 

「こちらがクラリス・アンペールとマドレーヌ・ルジャンドルよ」

「お目にかかれて光栄ですわ。まさか教会の方とこのようなところでお会いするとは、思いもしませんでした」

「お初にお目にかかりますわ。ああ、どうしましょう。レティシア様のご親類の方とお会いするだなんて思いもしていなかったから、何も用意していませんの」


 似たようなことを言っているのに、含まれる意味合いはまったく違うものに聞こえる。サミュエルもどうしたらいいのかわからないのだろう。困ったような目で私を見上げている。


 クラリス自身かあるいはアンペール家が教会と何かしらの確執があるのかもしれない。でもお兄様は何も言っていなかったし、どうなのだろう。

 困ったときのリューゲ頼みでサミュエルの傍らに立つリューゲの顔色をうかがってみたけど、彼はにこにこと笑っているだけだった。


「……予定にないことをいれたのは私だもの。気にしなくていいわよ」


 とりあえずおろおろしている焼き菓子ちゃんを宥めよう。クラリスについては、家同士の確執の場合私にどうこうできる問題ではない。

 重大な何かがあるのならお兄様が止めていただろうし、多分そこまで気にしなくてもいいと思うことにした。


「教会の子が外に出ることなんてありますのね。わたくし、とても驚きましたわ」


 サミュエルに席を勧め、席に座るのと同時にクラリスが薄い笑みを浮かべながら言った。


 そういえば従姉弟という間柄だけど、私は今までサミュエルに会ったことがない。サミュエルも私同様あまり家から出ない子なのだろうか。


「……い、いえ……その、出ては、いけないというわけでは……ただ、忙しいので……あまり……」

「教会ではどのような教えをされているのかしら。どうにもわたくしとは違った教育をされているように思えますわ」

「あ、あの……教会、では……」


 サミュエルが質問責めにたじたじになっている。

 助け船を出してあげたいけど、教会の教えなんて私も知らない。好き嫌いを持ってはいけない、女神様絶対ぐらいしかわからない。

 サミュエルの代わりに私がクラリスに教えられることは何かないだろうか。


「……教会だと治癒魔法も教えてるのよね」


 教会だけの何かはないか。考えて出た結論が、教会の人にしか扱えない治癒魔法。

 多分サミュエルも教わっているのではないだろうか。


「は、はい……治癒魔法は、女神様にお仕えするのに……大切なことなので……」

「まあ! ではサミュエル様はそのお年で治癒魔法が使えますの? 素敵ですわ!」


 大仰に手を叩きながら大絶賛する焼き菓子ちゃんの将来が心配だ。焼き菓子ちゃんの行く末が盲目なほどに私を崇拝するか、級友の机に死骸を詰めこむかの二択だと思うと頭が痛くなってくる。


「まだ……あの、少し、しか……」

「あら、ご謙遜だなんて。教会の方はずいぶんと慎ましいのですね」


 鼻で笑うようなクラリスの言葉にサミュエルが肩を落とす。ただでさえ小さい体を縮こませている。


「クラリスは私の従弟に何か不満でもあるのかしら」

「不満だなんてとんでもありませんわ。わたくしとは違う育ち方をされたようですから、興味があるだけですのよ」

「私も教会がどのような場所なのか正確には知らないわ。だから、興味を抱くのも理解できるつもりよ。でもサミュエルはとても大人しい子だから、あまり萎縮させないでほしいわね」

「あらあら、ずいぶんと過保護ですのね。レティシア様の従弟でしたら、将来は教皇の座につきますのよ。このぐらいのことで萎縮されていたら、とても務まらないと思いますわ」


 駄目だ、現時点での悪役度では私のほうが負けている。

 お母様にはクラリスの処遇については一任してほしいと言ってあるから、彼女の言動を諫めることができるのは私しかいない。

 クラリスに太刀打ちできるほどの悪役台詞は何かないだろうか。


「……私はサミュエルを従弟だと紹介したはずよ。教皇の息子ではなく、私の従弟として接しなさい。それとも、あなたはその程度のこともできないのかしら」


 クラリスがしたように鼻で笑う。誰かを庇うという状況に適した悪役台詞が思いつかなかったので、悪役度は小馬鹿にしつつの上から目線で補うことにした。

 誰かを排斥する台詞ならいくらでもあるのに。


「籠の外に檻も置くだなんて、レティシア様は過保護ですこと。でも仕方ないですわね。レティシア様の大切な従弟に、敬意をもって接することにいたしますわ」


 微笑んでいるけれど、敵意は抜けていない。


「……ええ、そうね。私はサミュエルを大切に思っているから、もしもサミュエルに何かよくないことが起きたら、誰かの大切な人にもよくないことが起きるかもしれないわ。そのつもりで接することね」


 がちゃん、と勢いよく置かれたカップが音を立てる。クラリスの顔から笑みが消えている。じっとりと睨まれているので、私は笑みを浮かべながら見つめ返す。


「え、えと……あの、ぼ、僕は、別に、大丈夫なので……あまり、喧嘩は……」


 見つめあい、もとい睨みあいは慌てふためいたサミュエルの言葉で打ち切られた。


「あら、喧嘩なんてしてないわよ。意見のすり合わせをしていただけだよ」

「そうですわ。喧嘩だなんて物騒なこと、わたくしがするはずありませんもの」


 右に左にとサミュエルの目が泳ぎ、最終的に机の上に落ちた。


「えーと、あ! そうですわ! 私、婚約者ができましたの!」


 蚊帳の外に置かれていた焼き菓子ちゃんが、一際明るい声を出して、朗報だとばかりに高らかに宣言した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ