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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第一章

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第十四話 騎士団長子息1

 曲が終わった。この一曲の間に、王子様の足を十回は踏んだような気がする。途中から数えるのをやめたので、私の中では十回だ。

 手が離れる瞬間、王子様に睨まれた。


「レティシア嬢、次は私と踊ってくれますか?」


 素早い動きで私の前に現れたのは、琥珀色の瞳を細めて笑う宰相子息だった。先ほどのことを思うと、踊りたくない。気心しれている王子様ならともかく、今日出会ったばかりの人の足を踏むのは遠慮したい。


「すまないが、私たちはここで帰らせてもらうよ」


 どうやって断ったものかと悩んでいたら、お父様が間に割りこんでくれた。宰相子息が眉をひそめたが、お父様はくるりと私のほうを振り返って手を握る。


「陛下にも許可をいただいている。久しぶりに長く外にいたから疲れただろう」

「はい、お父様」


 力強い目で頷けと命じられたので、素直に従った。私としてもここで帰れるなら万々歳だ。

 王子様には申し訳ないけど、祝いの言葉は贈ったし、踊ったし、私のやるべき仕事はすんだ。ここに長居する理由はない。


「シモン様、またの機会にでもよろしくお願いしますね」


 その機会が来ないことを祈るばかりだ。


 最後に王子様に一礼して、私たちは王城を後にした。






 それから三日後、王子様が遊びに来た。暇人なのか、この人は。


 私はまったく暇じゃない。一週間後に私の誕生祝が控えている。月はともかく、週と日は合わせましょうというお母様の提案により、星の月木の週土の日に行われることになった。

 それ以外にも色々な家から招待状が来ているので、それの選別やらどのドレスを着ていくか選んだりと忙しい。主にお母様が。

 私は王子様の足を踏むという失態を犯してしまったので、踊りの練習が増えた。ある意味忙しいので王子様の相手なんてしている余裕はない。


 だからといって帰ってくださいと言うこともできないので、今日もいつもどおり対応するしかない。


「先日は結構な踊りを見せてくれてありがとう」

「褒めていただいても何も出せませんわ」


 完全に根にもたれてる。


「それで、本日はなんの御用ですの? 殿下がお暇な方だとは思えないのですけれど」

「今日もちゃんと理由があるよ」


 王子様は毎回理由を作って私のところに来ている。大抵は我が家に咲く花を見に来たとか、珍しいお菓子を手に入れたとかのくだらないものだけど。

 今回はどんなくだらない理由を思いついたのか。


「セドリック、入っておいで」


 王子様の呼び声に合わせて、扉が開いた。


 現れたのは赤茶色の髪に濃い緑色の瞳を持つ少年だった。背丈からして、私と王子様と同じぐらいの年だとは思うのだが、険しい顔つきのせいでもう少し上にも見える。


「私の護衛が新しくなったから、その紹介だよ。セドリック・ヴィクス、騎士団長ヴィクス公爵のご子息だよ」

「あら……」


 置物の化身は解雇されてしまったのか。全身甲冑姿を思い出してしんみりとした感傷に浸る。


「ここ数年、王都近くの魔物の数が増えているとかでね。アドルフはそちらの仕事に駆り出されたから、代わりとして私についたのが彼だよ」

「そうでしたの。魔物が増えているだなんて、物騒ですわね」

「落ちついたらまたアドルフに戻るんじゃないかな。だから、そんな寂しそうな顔をしなくてもいいよ」


 おっと、顔に出ていたか。なんにしても、解雇でなくてよかった。あの無口な男が騎士以外の仕事につけるとは思えない。


「セドリック。彼女は私の婚約者のレティシア・シルヴェストルだよ。仲よくしてね」

「ここまで一緒に来ましたので、存じております。しかし殿下、紹介するにしてもわざわざ俺を外に置いておく必要はなかったのではないですか」

「ほら、物事には順序ってものがあるからね」


 セドリック・ヴィクス。その名前には聞き覚え、どころか見覚えがある。記憶の中と、三日前に開いた手記に、その名前が記されている。


 第三の攻略対象。騎士団長の息子で、規律に厳しく、真面目な騎士。王子様の周りをちょろちょろしているヒロインに警戒したのが、ゲームでのはじまりだった。

 穏やかで優しいヒロインにほだされていき、王子様の暗殺未遂事件を一緒に解決したことによって恋仲になる、といったシナリオだ。


 だけど、おかしい。彼が王子様の護衛になるのは、学園に入る直前のはずだ。

 ゲーム内で「殿下の護衛騎士になるのが昔からの夢だったんだ」とか語っていたから、十歳で護衛についていたとは思えない。


「お初にお目にかかります。セドリック・ヴィクスです」

「レティシア・シルヴェストルですわ。今後とも、よろしくお願いしますわね」


 まあ、考えてもしかたないか。もしかしたら物心ついたときから王子様に憧れてたのかもしれないし。

 最適解だけを選んだシナリオしか知らない私では、どこがどう違うのか検証するのはほぼ不可能。私は考えてもしかたないことは考えない主義だ。


「後は、あれを出して」


 王子様の命令で机の上に木箱が置かれる。これの中身はティーセットだろう。いつもこの箱に入れて持ってきていた。

 王様に告げ口したことを責めるつもりなのか。


「父上と話した結果、これを君に贈呈しようと思ってね」

「まあ、そんな、こんなお高いものいただけませんわ」


 カップにもポットにも光石が入っている高級品なんて、置くところがない。うっかり割ったら絶叫する自信がある。


「細工もしっかりしているし、この部屋の飾りとしても丁度いいだろう。それに、君のところに置いておけばいちいち持ってこなくていいしね」

「陛下が本当にお許しになられたのですか?」

「うん。さすがに勝手には贈れないよ。君の誕生祝いとでも思って受け取ってくれると嬉しいな」


 祝いの品と言われては断れない。

 私は不承不承頷き、お礼の言葉を返した。


「マリーを呼んでもいいかしら。厳重に保管するように言いますわ」

「さっき言ったよね、この部屋の飾りにって。君の部屋は殺風景すぎるんだよ。あの戸棚だって、空白が多すぎる。セドリック、あそこの二段目にでも飾ってくれ」


 素早い動きで高級ティーセットが戸棚に飾られる。


 確かに、私の部屋は飾りの品が少ない。宝石類に興味ないし、ぬいぐるみとかは寝室に飾っているし、剥製なんかは夢に出てきそうで怖いしで、殺風景と言われてもしかたないのはわかっている。女の子の部屋としてはおかしいと気づいてはいた。

 だからといって、あんな高価なものを飾られたら怖くて戸棚に近づけなくなる。


「君のことだから大切にしてくれると信じてるよ」

「ええ、そうですわね。殿下からの贈り物ですもの。丁重に触れずに愛でますわ」

「私が来たときには使ってもらうけれどね」


 私が使うわけではないし、ここはマリーの手腕に期待しよう。

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