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悪役令嬢を目指します!  作者: 木崎優
第四章

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第二十九話 各々の価値観

 よくわからない感じで決闘は終わった。子爵家の男の子から配当金を貰い、ルシアンと話しているヴィクス様を尻目にクラリスたちと合流する。

 感極まってぽろぽろと泣いているマドレーヌを宥めて、とりあえずお茶でもしようということになった。


 そういえばこの三人で街に出るのは初めてだ。颯爽と歩くクラリスと、泣いているマドレーヌを宥めているアドリーヌ。それからクラリスの横を歩くサミュエル。


 邪険に扱われてふるふる震えていたのに、サミュエルはクラリスから離れようとしない。やたらと話しかけるわけでもないので、最終的にクラリスが折れた。空気のように扱うと宣言していたけど。


「それって、僕がいないと駄目ってことですか?」

「お黙りなさい」


 変なところでポジティブなサミュエルだった。



 お茶会の場に選ばれたのは、以前王太子が紹介してくれた喫茶店だ。クラリスは何度か来たことがあるらしく、ここを選んだのもクラリスだった。

 お茶とちょっとした茶菓子を頼んで、雑談に花を咲かせた。

 サミュエルはじっと黙ってクラリスの横に座っている。どこかの誰かを彷彿とさせる光景だ。多分気のせいだろう。


 雑談の内容は決闘についてだ。


「ペルシェ様はヴィクス様を愛していらっしゃるのですね!」


 マドレーヌがそのことについてしか喋らないのでそうなった。


「わたくしは他の方を娶れとは言いたくはないわ。わたくしだけを見てくださる方でないと嫌よ」

「僕は、クラリス様だけで……その、満足ですよ」

「お黙りなさい。喋る許可を与えた覚えはなくてよ」


 クラリスに睨まれてぷるぷると震えたサミュエルは、ちらちらとクラリスをうかがいながらも口を閉ざした。


「パルテレミー様をあれほど慕っているマドレーヌにはわかるのではないかしら」

「え? 私? ……私はシモン様が選んだ方でしたら快く受け入れますわ。シモン様が好きになった相手ですもの。きっと私も好きになってしまいますわ」

「……あなたと話の合う日は来るのかしら」


 少しだけ遠い目をしたクラリスは、頬を染めるマドレーヌからアドリーヌに標的を変える。

 そういえばアドリーヌの色恋話を聞いたことがない。好きな人とかいるのだろうか。


「アドリーヌ。あなたはどう思うの?」

「え、私は……当人がそれでよしとされているのでしたら、それでよろしいかと」

「面白味のない回答ね」


 つんとしたクラリスの反応にアドリーヌの顔が引きつる。そして、クラリスの視線が私に向いた。


「レティシアはどうですの? ルシアン殿下が他の方を娶るとは思えませんけど」

「私は――わからないわ」






「あら、どうされましたの?」


 次の日、私は色々なことを聞きたいなと思って、各人の部屋を訪問することにした。

 最初はマドレーヌ。好きな相手の好きな人なら自分も好きになるという、中々理解を超えたことを言っていた。


「まあ、その話ですの? シモン様が選ばれたのなら、快く受け入れるだけですわ」

「嫌ではないの?」

「私が嫌がったとしても、シモン様は自分の選んだことを曲げるような方ではございませんわ。でしたら、良いところを見つけて好きになって、皆さんで幸せになるのが一番ですもの」


 お茶を一口飲んだ後、マドレーヌは「それに」と付け加えた。


「私はシモン様をお慕いしておりますので、お側にいられるだけで満足ですのよ」


 そう言うと、マドレーヌは赤く染まる頬に手を当てて恥じらうように身を捩った。どうやら「慕う」と言ったことで照れが生じてしまったらしい。


 私はお茶を飲み終えて、お暇することにした。あまり長居すると他の人を訪ねる時間がなくなってしまう。

 扉を出る瞬間、マドレーヌが小さな声で呟いた。


「私が元々好きな方でしたら、きっととても素敵だと思っておりましたの。……ですので、実は少しだけ残念に思っておりますわ」


 ん? と首をかしげると、マドレーヌはにこにこと笑って「私、レティシアとルシアン殿下が仲睦まじくされているのも好きですので、頑張ってくださいませ」と激励してきた。



 次に訪れたのはアドリーヌの部屋だ。アドリーヌは目を丸くしながらも私を歓迎してくれた。


「一夫多妻について?」

「ええ。アドリーヌはどう考えているのかと思ったのよ」

「……これまでこの国は長らく一夫一妻でおりましたので、ペルシェ様の言に反感を抱く方もいるかもしれません」

「そうなの?」

「ええ、まあ。……レティシアはルシアン殿下が第二夫人を迎えるとなったら、どうされますの?」


 それは昨日聞かれて「わからない」と答えた質問だ。

 一日経っても、私の答えは変わらない。


「……ここだけの話ですが、私は第二夫人となるべく育てられました」

「そうなの? 婚約者がいたとは知らなかったわ」


 アドリーヌからこれまでその手の話を聞いたことはなかった。婚約者のこの字もなかったので、てっきりそういう相手はいないものと思っていたのだが、違ったようだ。

 第二夫人、ということは婚約者とは少し違うのかもしれないけど。


「婚約者ではないですわ。そもそも、相手の方はこの話を知りませんもの」

「……よくわからないのだけど、どういうこと?」

「……ルシアン殿下の第二夫人となるように言われていましたの」


 恐る恐るといった様子で出てきた名前に、私は目を瞬かせた。まさか私が嫁ぐ前からそういう話が出ているとは。

 アドリーヌはこほんと小さく咳払いすると、話を続けた。


「勘違いなさらないでくださいね。ルシアン殿下の寵をどうこうという話ではなく、レティシアをお支えする役目を賜っていた、というだけの話ですわ。極少数の間で成された話ですので、ルシアン殿下もご存じありませんし……ルシアン殿下もレティシアも望まないのであれば流れる程度のものです」

「……そう」


 程度、というがそのために育てられたとも言っていた。そんな、なれるかなれないかわからないものために頑張ってきたというのは、どうなのだろう。

 アドリーヌは優秀だ。中級クラスから上級クラスに上がれるほどの実力を持っている。


「反抗したいとかは思わなかったの?」

「とんでもありません。私は次女ですもの……許される限りの教育を受け、上級クラスにも入れたのは、その役目を担っていたおかげですわ」


 アドリーヌは上に姉と兄がいる。家督は兄が継ぐことになっていて、姉は良縁に恵まれてすでに嫁いでいる。

 他家の子どもの扱いについてはよくわからないが、上級クラスにいる人の大部分が長子や第二子なことを思えば、アドリーヌの境遇は本人の言う通りそう悪いものではないのかもしれない。


「私が覚え学んできたことをレティシアに授けることもできますし、望むのであれば第二夫人として支えることもできます。……ですので、一夫多妻を反対もしなければ、賛成もしない心づもりですの」



 世の中には最初から第二夫人になることを決められた人もいる――それを知った私は、そのままクロエの部屋を訪ねた。

 クラリスは反対派だということはわかっているので、今回は省いた。


「一夫多妻、ですか。まあ理に適ってはいると思いますよ。この世界は出生率よりも死亡率が高いので……ひとりでも多く産もうと考えるのは不自然ではないかと」

「……でも最初から第二夫人となるようにっていうのは少し違うのではないかしら」

「この国ではあまり多くない話ですが……他国、とくにローデンヴァルトではよくある話ですよ。あそこは子供が多いので、早いうちにどんどん決めるそうです」


 そういえばディートリヒがそんな話をしていた気がする。良縁ほどすぐになくなってしまうから、色々な手を使ってねじ込んでいたとかなんとか。

 そのことを考えると、ディートリヒにも国に置いてきた婚約者のひとりやふたりぐらいはいるのかもしれない。


「クロエは夫がもうひとり望んだらどうするの?」

「別にどうもしませんね。母に孫の顔を見せたいとは思うので誰かと結婚はするかもしれませんが、わざわざ仲睦まじい夫婦になりたいとは思っておりませんので。……そういう意味では、娶っていただいてそちらとよろしくやってもらえると助かるかもしれません」


 クロエは相変わらずだ。彼女が誰かと恋に落ちる図がまったく想像できない。頬を染めて、潤んだ瞳で相手を見上げるクロエ――何か裏があっての演技なのではと疑ってしまいそうだ。


「私も結婚したいとは思っておりませんから、参考にできそうな話はできませんね。……クロエの子供が男子だったら話は別ですけど。その場合は私以外の方を娶るだなんて許しません」

「……モイラ、私の子の自由も認めてやってくれ」

「クロエがそうおっしゃるのでしたら、仕方ないですね」


 ちなみにモイラは私が来たときにはすでにいた。暇さえあればクロエの部屋に遊びに来ているらしい。

 お茶を用意したのもモイラで、茶菓子もモイラが持ち込んだものだそうだ。



 やはりこの世界では一夫多妻は普通なことのようだ。女神様の教えに子を産み育めとあるのだから、当然といえば当然だ。

 クラリスが反対派なのは教会嫌いをこじらせすぎた結果だろう。


 寮を出て、裏庭や中庭などを歩く。仲睦まじく寄り添い合う者もいれば、友人同士でわいわいと遊んでいる者もいる。色々考えるために外に出たのだが、悪くない選択だった。ほどよい喧騒というものは考えごとをするには丁度よい。


「何してるのかな?」


 うんうんと唸りながら歩いていた私を呼び止めたのは、ディートリヒだった。

 ついでにディートリヒにも聞いてみることにしよう。

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