4.毒蛇の構え
どうでもいいですが今年Mount & Blade 2が発売ですね
相手が武器を抜いたのを見計らって毒蛇も武器を抜いた。
彼女が抜きたる剣はクレイモア。
遠目からでもわかる真っ直ぐかつ細身な刀身が特徴的な剣で、先端に行くほど細くなっている。扱いやすく甲女初心者から熟練者まで愛用者が多い武器だと覚えている。
毒蛇のナナミを3人で囲む雨潜高校。ようやく甲女試合が見れるのかと観衆がより一層騒ぎ始めた。
「ふん!甲女試合前にケガしないよう気をつけなさいよ!」
「ご心配ありがとう、バルディッシュ持ち」
“毒蛇”がクレイモアを構える。
両手で柄をしっかりと持ち、右胸の前で真上へと剣先を向ける構え。上段、中段、下段へと手早く切り替えられる構えであり、3人に囲まれていてどこからどんな攻撃が来るかわからないこの状況において適切であろう構えだ。流石と全国出場者と言わざるを得ない。
対して人数に勝っている雨潜高校はじりじりと”毒蛇”を囲んでいく。ヒーターシールドを構え、バルディッシュを振り上げ、グロスメッサーを突き出し、いつでも攻撃できる構えだ。
「いくわよ!」
正面にいた小柄の甲女が走り出し、バルディッシュを重量任せに振り下ろす。それを見計らっていたかのように懐へ詰める毒蛇。横へと振ったクレイモアを腕の付け根…脇下を目掛けて斬り付ける。対してバルディッシュは刃ではなく柄の部分が肩へと当たる。
バルディッシュとクレイモアでは刀身の厚さが違いすぎるためクレイモアでバルディッシュを受けるのは不利だ。
重量任せに振り下ろされるバルディッシュは剣よりも破壊力があり、クレイモアのような細身の剣で受けると刀身が折れる可能性があるからだ。そこで敢えて懐に潜り込み、柄の部分を甲冑で受けると一瞬で判断して行動した。流石だと感心してしまう。
クレイモアと甲冑がぶつかり合う音と短い悲鳴が響く。
「いつっ!」
装甲の薄い部分へと攻撃を受けた小柄な甲女がバランスを崩す。その期を逃さず毒蛇が顔面に正拳突きを食らわせ、後ろへと大きく吹き飛ばされた。
「鬼さんこちらー」
今度は金髪甲女が毒蛇の背中向けてグロスメッサーを振り下ろす。毒蛇は身体をねじって振り返り、勢いそのままにグロスメッサーを真横に弾く。弾かれたグロスメッサーは軌道だけ反らされ、空を切り地面へと振り下ろされる。
グロスメッサーによってアスファルトが砕け火花が飛び散ると大きな歓声が沸いた。
それもそのはず。振り下ろされる剣を弾くのは容易ではない。
しかも相手は振り上げた剣を振り下ろすので勢いと破壊力が高くなる。それをただでさえ重いグロスメッサーを細身で軽いクレイモアで弾くのだ。振り下ろされる剣の勢いと剣の重量と相手の腕力、それら全てに勝る腕力が必要になる。柄と剣先を持ち、受け止める方が簡単だろう。それをしないのはやはり刀身の問題からだろうか。
毒蛇はクレイモアを勢いそのままに振りかぶり、そのまま金髪甲女の兜を横から叩きつける。金属と金属が当たるにしては鈍い音が響き、その衝撃で金髪甲女が吹き飛ぶ。
「ひぃい、菫ちゃん!」
おどおどしていた甲女が叫ぶ。次はお前だと言わんばかりに毒蛇が体を彼女に向け、にじり寄っていく。その気迫に押されたのかヒーターシールドを突き出してはいるものの腰が引けていて傍から見るとなんとも情けない体勢だ。
毒蛇は右手で柄を左手で刀身を掴み、腕を曲げ顔の前に掲げるよう構える。
基本的なハーフソードの構え。この構えの名前、なんと言ったかな。
『出たぞ!”毒蛇の構え”だ』
『”毒蛇”の本領発揮だな!雨潜のねーちゃん、頑張れよー!』
この構えと取ったとたん観客から歓声が沸き始める。
そうだ、”毒蛇の構え”だ。リーチと引き換えに柄を両手で掴むような通常の構えでは戦えない近距離で戦うための構え。
武器の長さからして盾持ちは詰めようとするだろう。その対処用だろうか。
「ひ、一人じゃ無理だよー!」
詰める毒蛇、雨潜側の盾持ち甲女は少しずつ引き下がっていく。
「その短い棍棒で勝つとしたら私の懐に飛び込むしかないぞ?どこまで下がるつもりだ?一生届かない距離に居るつもりか?」
「そ、そんなこと言ったって~」
下がるのをやめ、盾をしっかり構え直す彼女。その体は震えているように見えた。
彼女にも『詰めても勝てるかわからないが、詰めなければ確実に負ける』ということはわかっているのだろう。ただ踏ん張りがつかないだけで。
「そ、そりゃ~!」
盾を構え、棍棒を振りかぶり毒蛇へと踏み進む彼女。毒蛇はその瞬間を逃さなかった。
剣を盾に突き刺すように構えを変えたと思いきや、そのまま刀身を両手で掴んで振り上げる。
「ひっ!」
その姿を見て盾を上へと向ける彼女。その対処は正しい。盾に当たった後、柄を掴んで剣を奪ってもいいし、隙ができた頭に向かって棍棒を振り下ろすこともできただろう。
だがそれは、“完璧に相手の攻撃を受け止めきれた場合“に限る。
彼女は失念していたのだろう『剣に無駄な部位は無い』という事実を。
振り下ろされるクレイモア、それを防ごうとする盾。
「ぎゅ!」
鉄と鉄がぶつかり合い、鉄がひしゃげる鈍い音と短い断末魔のような声が通りに響き渡る。
その音の発生源は盾でもクレイモアの刀身でもなく…甲女の兜とクレイモアの”鍔”だ。
剣を鈍器として使ったのだ。
柄と刀身の付け根から伸びた2本の鍔は安物でなければ刀身と同じ素材で作られている。甲女規約にそった剣であれば確実に同じ素材だろう。
刀身で切りつけると、甲冑に当たる範囲は“線”だが鍔の場合は“点“であたるため衝撃力が一点に集中する。しかも鍔付近に剣の重心があるため普通に振り下ろすより重量がある分、衝撃力が増す。その一撃を頭へとマトモに受けてしまった盾持ちは…。
マトモに衝撃を受けてしまった彼女の兜は額部分が大きく凹み、スリット部分がつぶれている。兜全体の形も衝撃で歪んでしまっている。
「ぎゃー!ま、前が見えません!どこですか、こっちにいるんですか!?」
当の本人は元気そうだが、兜が変形してしまったために前が見えなくなっているようだ。盾を持ったまま両手を出してうろうろと彷徨っている。
「ど、どこ…?いたっ!や、やめてください!この、この」
電柱にぶつかったのかと思いきや敵だと勘違いしたのか電柱を盾で殴りつけている。
毒蛇が脇を抑え四つん這いになっている小柄な甲女に話しかける。
「…ふん。もう終わりのようだな」




