3.毒蛇
武器とか甲冑の説明を文字でするって結構難しい
ショーケースから身を乗り出して左の方へと目をやると拍手と喝さいを受けながら3名の甲女が人混みの中を通り抜けてきた。
甲冑の金属同士が擦り合う音と拍手が道に響く。
先頭を歩く甲女は黒くそして重厚な甲冑と防御のためというよりは目立つための大きな鶏冠がついた兜をかぶっている。立派な鶏冠ではあるが身長が他二人の首元程度の身長しかないため、鶏冠分を入れても一番小柄であるようだ。
右手に持った大きな両手斧、半月状の大きな一枚刃をしたバルディッシュが目立ち、より一層小柄に見える。金属光沢が辛うじて残ってはいるが全体的に擦り傷と何かしら強い衝撃を受けたために凹みが生じている。堂々と歩いてはいるが歴戦の猛者というより敗走中の兵士という印象を受ける。
甲冑の上には雨潜高校のイメージカラーである藍色と黒2色のタバード。右上半分が藍色、左下半分が黒色と斜めに色が分かれているのが特徴的だ。
ところどころ汚れてはいるが破けてはいない。傷に強い木綿を使っているのだろうか?タバード中心部の胸あたりには水滴をモチーフにした白色のキャラクターが描かれ、まん丸と黒く塗りつぶされた目がこちらを覗いている。
両隣を歩く雨潜高校の甲女もこれまた重厚な鎧を着ているが、同様に薄汚れた甲冑を着ておりこれまたみすぼらしく見えた。
こちらから見て左の甲女は兜から綺麗な金髪が馬の尻尾のように兜後ろから肩ぐらいまで降りていた。
右隣りの甲女は雨潜高校のタバードと同じ柄が描かれたヒーターシールド、丸みを帯びた逆三角形のような形状をした盾を持っている。表面のざらつきから見て木製だろうか?なんだかキョロキョロと周りを見渡し、小柄な甲女に引っ付いているのが印象的だ。
人ごみを抜けた三人が道路中央で止まる。
小柄な甲女が兜に開けられた横一線の眼孔からあたりを見回すと、兜をかぶっているとは思えないほどの声量でしゃべり始めた。
「今日は本当にいい天気。あのにっくきロウレッツのやつらをぶちのめすのにいい日だわ!みんな見ててね!けちょんけちょんにしてやるんだから!」
バルディッシュの柄を持ち空高く掲げ観衆に宣言する彼女。半月状の刃に太陽の光が反射する。
周りのお父さん達は『いいぞ!その意気だ!』『今日は頑張れよー!』とビール片手に喝采を送っている。
「ここ最近負け続けちゃってるんだけどねー」
「ちょっと、菫!うるさいわよ!」
菫と呼ばれた隣の金髪の子につってかかる彼女。
「委員長さん落ち着いてください!そ、それよりここの駄菓子屋が最後のお店ですよ?ど、ど、どうしましょう」
「せいかもうるさいわよ。どうもこうも仕方ないでしょ。私たち3人しかいないんだから!やるっきゃないのよ!」
今度はヒーターシールドを持った甲女につってかかり始めた。ヒーターシールドを前に出して何故か味方からの“口撃”を防御する彼女も負けじと応戦し始めた。
「だ、だって今日のロウレッツさん達20人引き連れてくるそうですよ!そこにいるお父さんが言ってました」
「一人一人ぶっ倒せばいいだけでしょ!?やつら数が多いだけで1対1なら余裕じゃない」
「そう言ってわざわざ3対3にしてもらった時一人も倒せなかったよー」
「菫は静かに!」
「で、でも本当…ひぃい、委員長さん!き、来ましたよ。ロウレッツさん達来ましたよ!」
3人の視点が、そして観衆の視線が彼女たちの正面に向かう。
先ほどよりも大きな歓声と拍手。そしてその音に交じって鉄と鉄が擦れ当たり合う甲冑の音が聞こえてくる。
人混みが割れたと思うと、旗手を先頭に整列した甲女達が続々と表れる。
春風に靡くは聖ロウレッツ学園の紋章。水色一色の生地でできた旗には金色のカブト虫の甲羅が刺繍されている。甲羅の横からこちらを覗くカブト虫の顔も描かれておりなんとも可愛らしい。
約10名程だろうか、聖ロウレッツ学園の甲女達が全員人混みを抜けた。護られるかのように中心いた甲女がゆっくりと前へと歩き出す。
彼女の兜には青色の羽が一枚、長さにして50㎝はありそうな立派な羽が伸びている。遠目から見てもその羽は綺麗に整えられ、春風になびいていた。黒地の兜や鎧には銀色の装飾が施され立ち振る舞いから見てもどうやら彼女が指揮を執っているようだ。
「これは一体どういうことだ?」
その彼女が立ち止まったと思うと雨潜高校の甲女達に話しかけた。
「なんだ?このみすぼらしい3人が私達の相手か?くだらない。聞いた話よりも弱そうじゃないか」
兜によって表情は見えないが呆れているようだ。
「うるさいわね!何よその羽?孔雀のつもり?!名前負けじゃなくて姿負けしてるわよ!さっさと剣を抜きなさい!バルディッシュの錆にしてやるわ!」
「い、委員長さん。殺し合いじゃないんだから錆にしちゃうのはまずいですよ」
今にも暴れだしそうな雨潜高校の甲女をおどおどした甲女が後ろから羽交い絞めにして止めている。
「20人とか聞いたけど10人ぐらいしかいないじゃない!?そろそろロウレッツにも疲労が見え始めたってわけかしら!?」
「お前たちには20人もいらないだろ?私たちも暇ではないのだ」
「随分強がるじゃない!ほらさっさとやるわよ!」
「まだ甲女審査官が到着していない。無秩序な乱闘をしに来ているわけではないのだ。頭に血が上りすぎてそれすら忘れたのか?」
「う…うるさい!練習試合なら問題ないでしょ!?審査官が来る前に全員戦闘不能にしてやるわ!」
青羽の甲女が空を見上げた。何かしら考えているようだ。
「練習試合であれば問題はないな。おい、ナナミ。前へ」
「はっ、白砂様」
ナナミと呼ばれた甲女が青羽をつけた甲女の横に出てくる。兜には縦に大きなスリットが何本も入っており、そして兜の上には蛇の形をした鶏冠。口を開けた蛇が牙を剥き出しにしていた。
「お前なら一人で十分だろう。ここは任せたぞ。全国大会も近い。ここで少しでも経験を積んでおけ…“毒蛇のナナミ”期待しているぞ」
「はっ、ありがとうございます」
その甲女は一礼すると、前へ出てきた。彼女の特徴的な兜はどこかで見覚えがあった。
『おーい!毒蛇のナナミ、手加減するなよー』
『毒蛇のナナミに勝てれば即全国出場もんだぞ!いいチャンスだぜ』
観衆のヤジに動じない”毒蛇のナナミ”と呼ばれた彼女。
“毒蛇”…“ロウレッツ学園の毒蛇”…。ああ、そうかあの子か!
「もしかして去年の全国甲女大会個人戦に出てた子かい?」
裕子ちゃんに場もわきまえず、つい聞いてしまった。
「そうですよ。最終成績は13位でしたが全国に十数万人の甲女がいると考えるとトップレベルの実力ですね」
「そいつはすごいねぇ。そんな人相手にして雨潜の子達は勝てるのかい?」
「いえ、正直無理だと思いますよ…。」
それもそうだろう。1県だけでも数千人の甲女がいるのだ。そこを勝ち抜き、そして勝ち抜いた者同士の全国大会でトップレベルの成績…並大抵の甲女では太刀打ちできないのが普通だ。
「あらあら、そしたら今日からうちのお店はロウレッツ学園所有になるのが確実だねぇ」
悲しいことだけども、甲女試合で負けてしまったのなら仕方がない。頑張って練習して、またうちの店を取り返して欲しいねぇ。
「そろそろ始まりそうですし、ここは近いから向こうの方で観戦しますね。美咲、向こうにいきましょう」
「はーい!おばあちゃんまたねー!」
「はいよー。またねー」
裕子さんと美咲ちゃんに手を振って見送る。
甲女達に目を戻すと雨潜の小柄な甲女が“毒蛇“に食い掛っていた。
「な、何が毒蛇よ!このバルディッシュで牙ごと切り落としてやるわ!」
「い、委員長さん落ち着いて!この人全国大会出場者ですよ?3人で一斉にかからないと…」
「そうだよー真琴ちゃん。人数だけなら勝っているからねー」
「腕前も勝ってるわよ!せいか!菫!二人とも抜刀!」
「は、はい!」「はーい」
オドオドしている甲女は腰に掛けてあった棍棒。
太い木の棒に金属板を巻き付けて固定しただけのシンプルな武器を取り出した。金属板部分には一定間隔で小さな凸が加工してあり、殴った際の衝撃を一点に集中できるよう工夫してある。
金髪の甲女は両手剣。グロスメッサーだろうか?片側にしか刃がなく先端部分が峰の方へと湾曲しているのが特徴的で肉厚な刀身は“切る”というより“叩く”のに向いている。甲女試合でもよく見かける武器の一つだ。
「では、私も武器を抜くとしよう。全員で掛かってくるがいい」




