シロンの腹案
ある者は剣を持ち、ある者は槍を持つ。
ある者は串を持ち、ある者はしっぽを持つ。
ある者は、じゃれる。
「バニィ、肉は置いて。モフ、モナ、真面目に練習しなさい。」
(フジコちゃんは肉食なんだな、うん。俺も食われたい。)
長耳の美女がハルの視線を感じ、ビクっとなる。
「肉串差し上げます〜。」
「モフのしっぽも狙われているにゃ。」
「ヌコはこの前食べられたのん。」
ぶんぶんぶん。
「食ってない!」「食われてにゃい!」
シロンの両隣でハルと猫耳青年ヌコが首をふる。
荘園に来て、はや半年。シロンが側に居て、という条件付きでようやくフレンズの皆さんと同じ場に立てるようになったハルである。
それはさて置き。
「なぁ、シロ。これ、意味あんの?」
おざなりに剣を振るいながらハルは言う。
肉体労働をこなして来て、がたいの良い者もいる。
だが、そんな者ほど武器には無縁だったのだろう。素人のハルの目にも戦闘力が上がっているようには微塵も見えない。
「ハルも腕を下げない。今日は特別に混浴にしよう。練習の終わった者から入って良し!」
『うおぉぉぉ!』
「騙されるな!野郎は素振り千回突き千回だぞ。バニィちゃんたちは串やしっぽで百回だ。一振りに二十合って、どんだけ光速剣振るわせる気だよ!」
ヒトと獣人と幻獣。ある意味混浴の終い風呂。
「これ、ほんとにバニィちゃん達の残り湯なのか?」
「…入りたくにゃい。」
無色透明無臭の筈の湯が汗臭く褐色に濁っている。
「張り直そうか。」
苦笑して、シロンはウォーターを発動する。
「いや、それザブッとぶっかけてくれ。風呂に浸かる元気はねえ。」
「にゃ。」
「浸かった方が筋肉痛になり難いと思うけどね。」
「シロン様、お背中流します。」
「ヌコさん、無理するな。石鹸掴めてないぞ。」
頭から湯をかぶった後は拭くのも億劫なのか竜型に変化してぶるっと滴を振り払うハル。
「ふぎゃっ、」
ヌコの耳は頭に、ヌコ自身は逃げ場を求め壁に張り付く。
「二人とも、もう少し回数増やしても大丈夫そうだね。」
「いやいやいや。そもそも、俺たちだけ実剣なんだし?」
人型に戻り、脱衣所に設置されている冷泉の中からフルーツ牛乳を取り出すと、腰に手を当て一気に飲み干す。
服を着るのが面倒でまた竜型素っ裸モードに戻ろうかと思うが、浴室からヌコが怖々と様子を伺っているのに気づき自重する。
「とにかく、ここの人達に自衛団を任せるのは無理だろう。猪一匹追い払うのがやっとじゃないか。」
「今まではそれで充分だったのだけどね。」
奴隷解放を目指すに当たって。
「手に職も無い。学も無い。家も無けりゃ伝も無い。支度金を貰い身分を解放されたとして、すぐカモられて、露頭に迷うのが関の山だ。感謝感激も良くて数日、その後は余計な事をしやがって、と恨まれまでする。」
ハルは熱弁を振るう。
「そこでこの地に一大ケモミミランドを興し、彼らを雇用すると共に彼らの人権を世に知らしめる。潤沢な労働力で発展をとげたケモミミランドへは、支配者層へ流れた奴隷購入資金も投資還元されるだろう。」
「テーマパークでも作る気?」
「丸パクリしてもここなら訴えられないだろ?」
「リアル剣と魔法世界でかい?」
冷静に指摘され、ハルは絶句する。
転生前の記憶を辿りに辿っても、他にケモミミやしっぽの生えた人々が楽しく暮らす場所を思いつけない。
「ダメかぁ。」
「いや、方向は合っていると思う。武力解放はまず無理だ。僕たちが革命蜂起しても民意が育ってないから継続しない。」
「だな。ゲリラやテロの手法でも奴隷が犠牲にされるだけだろうし。」
「うん。だから、解放の為に購入せざるを得ない。支払うだけでは、購入数も限られる。だから、相手にも支払わせたい。」
「金か。錬金術とかでぱぁっと金持ちになれないのか?」
「金塊や宝石を作ることは出来るよ。でも、それで財を成した奴隷商はまた奴隷を仕入れる。奴隷所有者が、新たな奴隷を保持出来ないよう仕向けないと。」
「そうでした。醤油とかケモミミ饅頭とか売るか。」
「生産直売は小商いすぎるよ。一つね、腹案があるにはあるんだ。」
「おー。流石はシロンさま。」
ぱちぱちとハルが拍手を送る。
にこり、と、シロンも微笑む。
「ここを商都にしようと思うんだ。」
「つまり?」
「商都イズールとの交易拠点にするんだ。」