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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
プロローグ
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妖剣ハルテシオ

出会い編

 坂中春人はごく普通の子供だった。

 同年の子供達より一回り小さな体躯と親の贔屓目に見ても薄気味悪さを感じさせる風貌。

 それは見た目だけのことであり、むしろ他人よりもフレンドリーな分、友達は多かった。

 小柄で軽い身体なので鉄棒は得意だが、サッカーなどの団体球技は苦手。

 計算は得意だが、本を読むのは嫌いだ。

 背が高くなりたくて何でも食べるように心がけているが、ピーマンだけはどうしても無理。

 成長するにつれ目つきの悪さから不良に絡まれる日々を過ごすことになるが、ローティーンの頃は親はおろか、祖父母の代までほぼ同窓という狭い田舎町に住んでいた事もあり、振り返れば幸せな少年時代を過ごしていたと思う。



 転機は進学を間近に控えた春休みだった。

 親の仕事の関係で急に都会へと引っ越し、友人の誰もいない学校へ入学する事になった。

 流石に不安を覚えながら、新しく住む街の公園をぶらつく。

 遊んでいた同年とおぼしき少年達が、薄気味悪い少年をちらちらと見やる。

 普段の春人なら、自分から遊びに入れてと話しかける処である。

 しかし、その時は新生活への不安と、それを上回る悩みを抱え、一層陰鬱な表情を浮かべてベンチに座るだけであった。

 そんな春人から妖気じみた気配を感じたのか、少年達はボソボソと言葉を交わしてから姿を消す。

 どこか、他所の公園へ移動したのだろう。


 ここ数日、春人は病を患っていた。

 それはいわゆる厨二病と言う、麻疹のような病だと理解はしている。

 自分の在るべき世界がここではない、在るべき姿はこれではない、己は何者なのだという強い焦燥。

 目が疼くとか、封印の魔物が暴れるとか、そんな生易しいものではなく。

 また、半身を千切られるような幻痛と、意に反してこの型に整えてられたというやるせない無念も。

 果たしてこれは成長痛と、思春期のコンボで済まされるものなのだろうか。

 おそらく、そうなのであろう。

 住環境とホルモンバランスの変化が原因だ。

 スマホの検索結果で無理矢理自分を納得させる。


 その時。


「随分探したよ、ハルテシオ。きっと()ると思っていた。」

 見知らぬ少年が、その歳に似つかわしくない大人びた物腰と物言いで近づいて来て、春人の両手を握った。

 長らく異邦の地を旅していて、漸く同胞に出逢えたような。

 いや、それ以上に。

 まるで、生き別れた家族と再会したような。

 万感の想いがこもった、手。

(この手は良く知っている)

 何故か分からないが、そう、思った。

「神の御前に立った時、確かに君を握っていたからね。まさか人に転生していたとは思っていなかったけど。そういえば君を貰ったのも成年の祝いだったな。今日僕は誕生日でね。ああ、再会は必然なのか。」

 呆然とする春人を置いてきぼりにし、少年は独り語りを続ける。

「ハルテシオは小さいな。やっぱり折ってしまったせいだろうか。かといって、今から継ぎなおす訳にもいかないし。ふふ、小さくても流石に妖剣と渾名されただけあるね。実に不穏な姿だ。ああ、ごめん。悪気は無いよ。ただ、懐かしくて。二つ名を持つわりに、君は全く見た目だけで普通の剣だったよね。あの時は氷魔術を載せてしまって、本当にすまなかった。おかげで僕達は危機を脱したけど、君はあっさり折れてしまうし。魔王討伐に継いだ剣を振るう訳にもいかなくて、小刀に砥ぎなおして貰ったら、益々兇悪な刃物ぶりになっちゃって。」

 楽しそうに笑う。

「でも。結局、最期も君に救けられた。君が()たから魔王にとどめを刺せ、僕も死霊にならずに済んだ。ありがとう。人の生は楽しいかい?困っていることはないかい?僕に出来ることならお礼に何でもするよ。僕は君と語らえてとても嬉しい。」

「ちょ、ちょっと待って。喋っていたのは君だけだ。一体なんのお礼だって?」

 漸く春人は言葉を挟んだ。

 少年は不思議そうに春人を見つめ、やがて何かを納得する。

「そうか。前世の記憶は無いんだね。…僕と君で魔王にとどめを刺した。それから僕は君で自分を倒した。魔王の瘴気でほとんど魔物と化していたから。多分、死んだ時に刺さっていたから一緒に転生の場に向かったんだろう。」

「…お前は誰なんだ?」

「シロキオン。かつて勇者と呼ばれていた、君の持ち主。現世では柳士郎という。」

 シロキオン、柳士郎と名乗る少年の言う通り、確かに懐かしい。今語られたハルテシオ、春人の前世とやらもひどくしっくりくる。

 しばしの沈黙の後、春人は心からの言葉を発した。

「僕は坂中春人。前世が勇者のパンツじゃなくて安心した。」

「ぶふっ。ハル、良くそんな事思いつくね!うーん、鎧はとっくに壊されていたし、軀も半ば腐っていたみたいだから、服ももう残ってなかったかもなぁ。世界を救った時に全裸って、めちゃくちゃ黒歴史じゃない?あははははっ。」

 転生して初めて士郎は心底から笑った。


 そうして、春人は転居して早々に友人を得たのであった。

勇者は全身瘴気に纏われており、パリコレよりよっぽど露出は少なかったです。

でも衣類は確かに全て朽ちていました。

元勇者の右靴下、などという転生者はおりませんのでご安心下さい。

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