魔法使い士郎
変身はしません
柳士郎は本人が概ねチートだ。
容姿端麗、眉目秀麗、頭脳明晰。
それは遺伝に由来していたとしても。
武に親しみ、軀を鍛え。
音色に癒され、奏を嗜む。
自然を愛で、人の作りし物も愛しみ。
どの師からもその道に進まぬのを惜しまれるほどの才を見せ、剣に至っては既に師をはるかに超えている。
無論、其れなりの努力故の結果である。
出生時より前世の記憶を有していた士郎は、幼少期、恐怖の中にいた。
身体は動かず、言葉もわからない。
頼みの魔術は魔力すら感知しない。
肌にあたる衣の質から良家に生まれたのだろうと察するも、城壁に囲まれた王都に居るのか、魔境を臨む僻地に居るのか。
優しく彼を育む家族に、果たして魔物から身を守るすべはあるのだろうか。
せめて、自分が剣を握れるほど育つまで、何事も無く過ぎてほしい。
ただ祈るより他ない。
魔王を倒しはしたが、全ての魔物を屠った訳ではないのだ。
一体の魔物を斬った事があった。
報せを受けて 駆けつけるも、時既に遅く、故里は壊滅していた。
腕慣らしにもならぬ軽い一撃で倒した魔物ですら、村人にとっては魔王と等しき力を持っている。
累々と横たわる、よく知る人々の屍がシロキオンを勇者へと変えた。
(戦いが辛いから、剣を捨て魔術師になりたい。―――この無力は、そう願った自分への罰なのだろうか。どうか、家族を、世界を守れるようになる日まで何事もありませんように。)
身体が動くようになってからは常に自らを鍛えあげ、現世に魔物が存在しないと気付いてからも、幼き日の無力を戒めとし日々を過ごしてきた士郎である。
長じて、剣に使い所があまりない事を知り、それではと様々な事を嗜む。
死ぬほど頑張った前世ほどでは無いにしろ、余人に真似出来ぬ程には頑張っている。
それが故の、ハイステータスである。
もう充分だろう、高望みするな、と彼の親友は言う。
少し休め、とも。
諫言と心配をありがたいと思う。
しかし、この世に魔術師は自分しか居ないのだ。
厄災が起きてからでは遅い。あんな思いは二度と味わいたくは無い。
士郎は自分のチートスキルをなんとかものにしようと力の限りを尽くす。
やり方は、生まれた時から解っていた。
ただ魔力を集めるのがとても辛い。
この世の人の身には合わぬのだろう。
まるで、猛毒に蝕まれるかの如く。炎に身を焼かれるかの如く。千の矢を射かけられるが如く。他にも、他にも。
勇者の時に受けたあらゆる苦痛が甦った様な。
誰にも心配されぬ様にひっそりとこもった山小屋で、血反吐の中にのたうちながらささやかな魔術を習得してゆく。
絆創膏程度の回復魔術。
日傘以下の防御魔術。
猪口をようやく満たす水魔術。
ライターよりも不安定な火魔術。
団扇で扇ぐより儚い風魔術。
使い続けるうちに魔力も身に馴染んできたようだ。
この程度であれば、冷や汗をかく位で済む様になった。
今朝、ふとした事から新たな魔術を習得した。
破魔の魔術、光魔術。
滝のような汗と中々整わない呼吸。その場は素振りで誤魔化したが、嬉しさのあまり、結局春人に話してしまう。
春人の反応はいつも通り冷ややかだ。
士郎が魔術を使う事に反対している。
絆創膏程度の術に吐血する姿を見られてからは、幾度もう大丈夫だからと説得しても耳を貸さない。
尤も、そこまで言うなら自分にも教えろと春人が言い出した時には、士郎が反対した。
スキルを望んでいない春人に才があるとは思わない。たとえ、才があったとしても初期の魔力酔いに耐えられる訳がない。それでも望むのなら。素振り千回、走り込み十キロ、その他諸々の士郎が毎日こなすワークで軀を鍛えあげてこい。
そう告げると、春人はあっさり諦めた。
普段は人当たりの良い士郎のいつにない険しい口調に苦笑して。
だからこそ、士郎の言う、もう大丈夫だからと言う言葉を春人は全く信じていない。
最初の剣は戦隊玩具。
あっという間に悪の大幹部ショウジー将軍とフッスマー参謀を撃破。しかし、大切な剣は隙をついた四天王が一人、ママンに奪われるのであった。
絶望に打ちひしがれる勇者シロウ。
そこへ助けたオチャノマの民からシンブンソードとダンボールシールドが贈られるのだった。
めでたしめでたし。