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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
プロローグ
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元勇者は光を放つ

転生しました

「前世、勇者だったんだ。」

「知ってる。」

「今は魔術師なんだ。それもチートな。」

「知ってる。」

「魔王を倒して世界を救ったご褒美でね、神さまが好きなスキル持ちに転生させてやるって。」

「知ってる。」

「どんな高位魔術でも、一目で理を解し発動出来る。」

()()()()()な。」

 坂中春人はおざなりな相槌を打ってジョッキを空ける。金曜の夜、少し飲み足りないが追加注文を躊躇う。

 案の定、向かいに座る柳士郎が呟いた。

「いっそスライムになれば良かった。」

「そうだな。」

 それはどうかと思うが、反対したら絡まれるのは学習済みだ。

 そして、スライムを唱え始めたら速やかにお会計も学習済み。これ以上は背負って帰る羽目になる。

 まだ宵の口の居酒屋を後にしがないサラリーマン(春人)元勇者(士郎)を引きずって帰路に着くのであった。



 翌朝。

 納期を終えたばかりの清々しい休日。初夏の日差しが部屋を熱するはまだ何時間か先の事。待ち合わせの時間を気にしなければならない彼女も、先日振られてしまい今はいない。

 なのに、惰眠を貪れない。

『びゅっ』

 風切り音がカーテンを舞い上げ、早朝の爽やかな光が精霊達を照らす。もとい、埃を煌めかせる。

『しゅっ』

 風刃に狙われふわりと浮いた古紙が重力の助けを得て天井からひらひらと降る。

「やかましいわっ!」

 投げつけた枕は華麗に躱され、代わりに切っ先が春人の無防備な喉元で寸止めされる。

「おはよう、ハルテシオ。」

 残念イケメンに突き付けられたお玉をつまみ、春人は無言で台所を指差す。

「そうそう、味噌汁をね、うぉっ汁が無い⁉︎」

 実の所、お玉の素振り音は想定内。高級耳栓(サイレント)を発動中だ。

 だがしかし、炭化した味噌汁はヤバい。休日早朝から火災報知器を鳴らせば、多分に温厚な隣人も壁ドン必至。

 起きてから僅か数秒内の突っ込みどころの山々をスルーして二度寝の誘惑に身を委ねるか。

 失恋と残業で闇堕ちしかけている春人を救けに来た、という、士郎の相手をしてやるか。

 ひとつ伸びをしてから煤けた鍋底と闘い始めた士郎にコンビニ飯と河川敷でのキャッチボールを提案する。

 もし前世が犬だったら振りちぎれそうなくらい尾を振っているであろう満面の笑みで士郎が頷く。

 釣られて春人も笑う。

 鍋は洗剤につけ置いて、と、見れば既にピカピカだ。流石は元勇者。


 河原に着いて、「シロ、取ってこーい。」とボールを投げること数分。

 どんな悪球でも難なくキャッチし、「犬じゃないぞ!」と見事な返球を投げる士郎が早速逆ナンされ始めた。

「いや、友達と居るから。」

 女性達の視線が春人をチラ見して、士郎にすぐ戻る。

 お友達も一緒に、という誘いに、ハルは失恋したてだから、と口実ともならないような余計なお世話を口にして戻って来る。

 十人中十人が見つめる容姿と、その十人全てが恋に落ちる男っぷりに、合コンになぞ誘われた事の無い士郎である。

 気軽に遊ぶというスキルは育たず、今もまた、そつなく全ての女性にお引き取り頂いて、振りむきざまに手を振り別れの挨拶を送る。

 爽やかな笑顔にギャラリーが増えた。


「そう言えば、」

 温くなったコーラ(ポーション)の蓋を開けながら士郎が破顔した。

「今朝、ついに光魔術が使えるようになった。」

「『説明しよう。前世、士郎はシロキオンという名の勇者で、魔王を討伐したが自らもまた力尽き、死んでしまった。頑張って世界を救ったご褒美に神さまが転生させてくれた。痛い目に散々あったから、次は剣士ではなくチート魔術師になりたいという願いも叶えて。だがしかし、魔術世界では無い現世においては発動だけでチートレベルという散々たる有様なのであった。』」

「くっ。…あってるけど、誰に説明してるんだ?」

「頭がおかしくなりそうな、自分に。それで?光魔術って明かりがつくやつ?」

「それは風。精霊魔術。光魔術は魔物を消滅させる。」

「スライムでも出たか?」

「出た出た。魔族。黒い奴が。台所に。」

 元勇者の弱点は昆虫と注射だ。

 前者は聖剣を取りに入ったダンジョンで昆虫型魔族の群れに溺れそうになったトラウマ。

 後者は痛い思いは懲り懲りだと魔術師に転生したにもかかわらず、自衛の術もない赤子の砌に予防接種を次から次へと受けたからだそうな。

「まあ、夏も近いしな。殺虫剤置いてあっただろ?」

「キリングポーションの手前に出現したんだ。狡猾な。上位種だったに違いない。」

 笑ったり、半泣きになったり、世界を憂いたり。

 遠巻きにしたギャラリー達は士郎の目まぐるしく変わるイケメン顔で嬌声を上げっぱなしだ。

 写真撮影は事務所がうるさい、と言うよう、あらかじめ入れ知恵しておいたので、スマホを持ち出す輩は居ない。

 事務所って?と士郎は首を傾げていたがアイドルやモデル顔負けの容姿に疑問を挟む者は皆無だ。

 話が逸れた。

「で、光魔術で退治出来たのか?」

「避けられたけど、キリングポーションを使って退治出来た。」

 勇者のドヤ顔。

 今日は大盤振る舞いだ。

「良かったな。」

 春人はまだ朝だというのに、何処から湧いたかすっかり大集団となってしまったギャラリーを一瞥し、アレも光魔術で解散させられないものかとぼんやり思うのだった。

光魔法

害虫駆除に最適?

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