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転生勇者とおまけの剣  作者: 帽子屋
幻獣覚醒
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交渉

#一話にまとめました。

「何も取って食おうと言うわけでは無いのだが…。」

 空となった椅子を残念そうに見やり、幻獣が呟く。

 机の下で人格崩壊寸前だったヌコは、ウィラードに小脇に抱えられ既に退席している。

「(取って食いかねなかったよな?俺でもドン引きだわ。)」

 ハルがシロンに耳打ちする。

「幻獣の皆さんはどうして獣人族に、」

 口許を隠しながらようやくシロンが言葉を発する。

 流石に残飯の有様となった料理を口に突っ込まれる事はなかった。

「萌、ええと、好感を持つのですか?彼、ハルだけの嗜好かと思っておりました。」

 訊いてはいけない事をシロンは訊いてしまった。



 長かった。

 要約すると、『可愛らしい』『モフりたい』『かれらはいいものだ』。

 士郎だった頃、春人の部屋にあった少女の人形に対し同じような質問をしてしまった事を今更ながらに思い出す。

 あの時は『魔法少女ルルリンちゃんについて』という、夜を徹しての講義が始まったのだった。愛蔵版ブルーレイと放映録画版の比較上映も行われた。主題歌も歌えるようになった。

 思わず遠い目のシロンだったが、ハルにつつかれて意識を今に戻す。

「では、私の領の獣人族がここを訪れ、更に先の魔の森へ通り抜けさせていただくことは可能でしょうか?」

 やっと、本題を切り出す。

「ふむ、ただ迷い込んで来た、という訳でなさそうだな。よかろう、人の子よ。我らも問いたい事がある。」

 受けたのは、入室の際にハルに目を留めた幻獣であった。


 場を変えよう、と、その幻獣に案内されて近くの居室へ向かう。

 シロンとハルの他に六名の幻獣が続く。


 広い。が、とても、散らかっている。

 案内したこの部屋の主人は気にしていないらしく、服の山をソファーからざーと掻き集めどこかへしまってくる。

「無精もすぎるぞ。」

 ぶつぶつ言いながら、銀髪の幻獣があちこちに放置されたコップを掻き集め、やはりどこかへしまいにいく。

 勝手知ったる部屋なのか、七人の幻獣達がものの数分で部屋を部屋らしく整え、ある者は酒杯を、ある者は茶を手にくつろぐ場所を確保する。

 シロンとハルも甘い香りのする飲み物を渡されてソファーを勧められた。


「さて。儂は蒼龍の長。名を水無(ミナシ)という。」

 部屋の主が名乗った。

 蒼龍、というだけに瞳が青い。いかにも長、といったご老人なのだが、片付けは苦手らしい。

「同じく蒼龍の|(レン)。」

 先程氷弾を弾きまくっていた優しげな幻獣が名乗る。

 風貌は中性的かつ年齢不詳。

「黒龍の長、(ホムラ)。」

「黄竜の長、陽華(ヨーカ)。」

 続いて、紳士然とした銀髪の幻獣とせっせとシロンに給餌していた婦人が名乗る。

 そして頭を下げる。

「「娘が失礼しました。」」

「コーカさんの?」

 はい、と二人が頷く。

 言われて見れば煌華は焔に似ていなくもない。陽華も、若かりし頃は細やかだったのだろう。

「翔龍の長、疾風(ハヤテ)だ。」

「同じく翔龍の飛空(ヒクウ)。」

 兄妹なのだろうか。良く似ている。長髪をきっと纏め、背も良く伸び武人のごとく凛とした雰囲気の二人である。

 が、諦め悪くヌコの空席を最後まで眺めていた二人でもある。

 最後にもう一人。

「緋龍の長、(アカネ)。」

「若作りだが、我らの最長老だ。」

 水無が余計な一言を付け加え、緋色の瞳で睨まれる。

「シロンです。隣の荘園の領主をしています。」

「ハルです。」


 互いに名乗りを終えて。


「ほう。領主とは恐れ入る。」

 疾風が目を細める。

「一応、成年しております。それで、」

「まあ、そう急くな。我らは人間を信用しておらぬ。お主に悪意の無い事は、解る。だが、お主の言葉を鵜呑みにして今までと同じ轍を踏むのは…」

 苦い顔で幾人かが頷く。

「幻獣戦争、ですか。」

 昔々あるところで、と語られる程、遥か古に人と幻獣の正面戦争があった。

 いや、あったらしい。

 人の世では、既におとぎ話の扱いでシロンも詳しくは知らない。

 だが、長寿種の幻獣達なら彼ら自身が関わっていても不思議無い。

「あれは、酷かったな。勝手に魔物扱いで攻め入って来て。」

 疾風が更に苦虫を噛み潰したようになる。

「その後も色々あったのですよ。黒龍の若い子達が騙されて連れ去られた時には、この人がそれはもう怒り狂いましてね。」

 陽華が焔をチラ見して、さらりと不穏な事を言う。

 当の焔は素知らぬ顔で茶をすすっている。

 なんだか闇深そうな話なのでシロンとハルは曖昧に頷くに留める。

「数こそヒトに劣れど、我々は一騎当千。何か事あらば、そちらも無事には済まぬ。逆鱗を持つ者もおるしの。」

 スルーしたのに、水無が念を押す。


 ヒトに対して確執がある。

 敵意もあり、武力もある。

 双方、関わらずに済ませる方が互いの為ではないか?


 そう、言わんとしているのだろう。


 ゆらり、とシロンの背後へ回った蓮が細目を開ける。

「っ!」

 まるで背を突き飛ばされたような感覚に、ハルが立ち上がり蓮を睨む。

 殺意、などという生易しいものではない。

 この悍ましい気配を、シロンはよく知っている。

 ヒトと相容れぬモノ。

 ―――魔族の気だ。


 手中のコップから一口飲む。

 彼らは、茶でヒトをもてなす。

 ただただ襲って来たかつてのシロキオンの敵とは違う。

 異質な生き物だとしても、この世界に馴染もうとしている。

 自らの正体を明かしてまで、誠実にヒトと関わろうとしているではないか。

 そう思い、シロンは笑みを浮かべる。


「ここで笑うか。空恐ろしい子だの。今、片付けておくか?」

 と、水無。

 どうも、このご老人は一言余計である。

「老害は黙っていろ。うちの煌華が手を焼いた魔術士だぞ、簡単に片付くものか。」

「そう、なの?ちょっとだけ戦ってみたい…」

 飛空が唇を舐める。

 ぱんっ、と茜が手を叩いた。

「きりがない。つまりは蒼龍も黒龍も翔龍もこの小僧が気に入ったのだろう?」

 一同、暫し考えてから、なるほどと頷く。

「では、手を貸してやればよい。その得体の知れぬモノも良く懐いておる。まだ幼くとも、器の大きな漢なのだろうさ。」

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