ハルの検証
シロンの腹案を聞いて。
「幻獣の棲と魔の森に隊商を通すってか?」
ハルが返す。
「そうだ。イズールと繋がれば沿海諸国も近い。今までの交易路では保ちの悪い海産物も取り扱える。帝都まで関も少ない。」
通過する領毎に関で税を徴収される。正規の交易路であれば三公四伯の領を抜けるので交易品の値は跳ね上がる。
「おさらいすると。珍しいものが、早く安く手に入る。しかも、帝都へ持ち込んでも税金が格安。」
「そう!」
「そんなうまい話にならないのは幻獣と魔物が陣取っているからだよな?」
「魔物じゃない。魔の森に住むのは獣人だ。人と敵対しているだけで、交渉出来ない相手ではない。獣人メインの隊商なら、脈はある。」
「待て待て。魔の森はそれでいいとしても、幻獣エリアはどうする?俺であの怯え様だぞ?獣人が通るのは無理だろ。」
「怖いだけだ。僕だって黒い悪魔と渡り合えたんだ。なんとかなる。」
「台所の覇者と同じ扱いかぁ。そら自分よりデカイの出たら気絶もするわな。」
げんなりとしつつ、少しだけヌコに同情するハルである。
「で、幻獣サイドはどんな感じなんだ?来訪者ウェルカムなのか?」
「家に蟻の通り道が出来たらどうする?」
「殺虫剤まくか巣穴に水を流し込む。砂糖の置き場も変えるかな。」
「今までチャレンジした隊商はそんな感じで殲滅されました。」
「シロよ、その辺俺任せにしようとしてない?」
「幻獣上位種の本気を見せて?」
あざと可愛くシロンがねだる。
「『シロはショタスキルを獲得した』。」
考えても特に名案は浮かばないので、とりあえず棚上げにする。
「じゃあ、幻獣ゾーンと獣人ゾーンを抜けたとするぞ。で、だ。魔の森の獣人は人と敵対しているんだよな?で、手前は幻獣さんちだから、自ずと敵対しているのはイズール側って事になる。獣人隊商が入都出来るのか?商売出来るのか?」
「商都、つまりは商売の都市だ。儲けになるとわかったら拒絶はしないと思う。この交易路を使いたいのはイズール商人も同じ筈だ。」
「…お前が俺つえーで無双した方が簡単そうだな。」
「今更、魔王になる気は無いよ。」
さらりとシロン。出来ない、とは言わない。
「相変わらず真摯な路を行くんだな。今度こそ俺に殺されるなよ?」
「君に殺された覚えは一度も無い。」
「そうか。」
「そうだ。」
そうして。領民総出の武術の稽古と相成るわけである。
隊商は荒野を進み森を抜ける苛酷な道行きである。
残る者も、征する価値ありとなれば襲撃も想定せねばならない。
たがら鍛える。
だが。
剣を振るわせれば怪我人多数。それが剣に擬した木片であっても、である。
まず、自分の脚やら背やらを打って自滅する。
隣で振るわれる木片に殴打される。
すっぽ抜けた木片に死角から襲われる。
張り切り過ぎて、筋を違える。
力み過ぎて、転ける。
シロン様のお言葉であれば、艱難辛苦。
武具を杖にし広場に集まる領民の皆様。戦わずして既に満身創痍である。
広域回復魔術をひと掛けしてからシロンは今日も鍛練を促す。
「ニコエスさんは健在だったか。」
「気になっていたんだけど、どういう意味?」
「にこにこドS。生徒会やサッカー部周りでのお前の渾名。」
「酷。」
「いや、酷いのはお前だ。いくら鍛えても村民が戦士にジョブチェンジ出来ん。」
「む。我らシロン様の剣とにゃる!」
『うおぉぉぉ。』
「皆さん、お耳ぺったり、しっぽしょぼりんですが?」
領民の皆様がハッとして背筋をただす。しかし、しっぽの垂れ具合は如何ともしがたい様だ。
「うん、気合い充分だね。さ、みんな。今日も先ずランニングから始めよう!」
ニコエスさんの号令が下る。
「ハルとヌコはそれ背負ってね。三日分の旅荷相当。」
「うへぇ。」
シロンブートキャンプの成果か。
一番体格のよいクマゴロさんが嬉しそうに武具の山を積み上げる。
「シロン様、これも試してみてくだせえ。」
クマゴロさんは鍛治のスキルを得た。
「シロンさま〜、ファイヤー出来たのん!」
モフちゃんは魔術を覚えた。
「シロン様!人参垂れに漬け込むと肉が柔らかくなりますわ!」
バニィさんの肉料理が串から離れた。
「シロンさま、ヌコにぃ連れて行きますね。」
ズルズルズル。
モナちゃんの筋力は上がった。
「おかしいなぁ?」
敬愛するシロンの為、皆は出来る範囲で頑張るコツを覚えたのだった。




