配電室の女の子
夏のホラー2017が始まるということで、ホラーに挑戦してみました。
「なあなあ、今からちょっと肝試しでもしねえか?」
カラオケ帰りの男女6人の中の一人がそう提案した。
6人は彼氏彼女同士の3組。
「面白そうだな。丁度恋人同士で3組出来るからな。」
「いやよ、私そういうの苦手なんだから。」
嫌がる女に、もう一人の女が耳打ちをした。
「二人きりになれる、チャンスじゃない。あんたたち、なかなか進まないんだから。」
「そうだけど、やっぱり二人きりは怖いよ。」
「仕方ないなあ、それじゃみんな一緒ならどう?」
「それならなんとか・・・」
「じゃあ、思い切り彼氏にしがみついているのよ。」
そういうと女は、
「この子も、みんなと一緒ならいいって。」
「俺も苦手なんだけどなあ。まあ、いいや。それでどこに行くんだ?」
「この辺で行くなら、あそこしかないだろ。」
「あのつぶれた、遊園地か。」
「そっ。なんかいろいろうわさもあるし、おもしろそうじゃん。」
「やめたほうがいい。」
黙って聞いていた、女がそう言った。
「ほら、この子もそう言ってる。だからやめよ。この子霊感強いんだから。」
「それじゃ、多数決で決めよ。」
多数決は3対3になったが、結局いくことになった。
そして6人は、閉園した遊園地にたどり着いた。
し~ん
その遊園地は、やけに静まり返っていた。
遊園地の前にある道路には、自動車すら通る気配もない。
耳を澄まして、やっと遠くのエンジン音が聞こえる程度だ。
「なんか、不気味ね。」
「確かに。」
「ねえ、やめようよ。」
「大丈夫だって。」
「ほら、いくぞ。」
やめたほうがいい、と言った女は後ろから黙って後ろをついてきている。
6人は、ゆっくりと進んでいく。
がさがさ
「きゃ~!」
「どした。」
「いま、がさがさって・・・」
「木の枝が、揺れた音だろ。怖がりすぎだ。」
「で、でも・・・」
「ほんとびびりすぎなのよ。」
「でも、俺は一瞬びくっとしたよ。同じだな。」
こんな、軽口をたたいているうちに、6人はジェットコースターのところにきた。
「たしか、ジェットコースターの噂があったよな、なんだったっけ。」
「事故があって、誰に聞いても違う答えが返ってくるだったけ。」
「いや~、怖がらせないでよ。」
「なんだそりゃ。答えが違うからって何だっていうんだ。」
怖がる女と強がる男がそこにいた。
「ごめんごめん、そんなにこわかった?」
「うん。」
「今は、何を言っても怖がるんじゃないか?お前も強がらなくてもいいぞ。」
「だれが、強がってるっていうんだ。」
「すまんすまん、それじゃいこっか。」
6人は、また歩き始めた。
そして、もうすぐ観覧車というところで、
「えっえっ、なにいまの?」
怖がっていた女が、声を上げる。
「どした、なんか出たのか?」
「いま、声がした。子供の声。」
「そんなばかな。」
いままで、黙っていた女が、
「みんな、ここから逃げて!はやく!」
と女が叫ぶ。
ただ事ではないことを、察したほかの5人も逃げようとした。
「出して。」
6人全員が、この声を聴いた。
6人は、我先にと逃げた。
そして、入り口にたどり着いた。
「みんな、だいじょうぶか。」
返事をしたのは、4人。
最も怖がっていた女の姿がそこにはなかった。
十数年前
女の子は、遊び相手が欲しかった。
あっ、あの子と遊ぼう。
そこには、泣いている男の子がいた。
「ねえ、なんで泣いてるの。一緒に遊んであげるから泣き止んで。ねっ。」
「うん。」
二人は楽しく遊んでいた。
時間がたつのも忘れて。
「うわ~っ、綺麗な夕焼け。」
女の子は夕焼けを見てそう言った。
「ほんとだ~綺麗な夕焼けだ~。」
男の子も夕焼けが綺麗だといった。
「もう、太陽が沈んじゃう。ぼく、帰らなきゃ。」
「そう、帰っちゃうの。だったら、最後にいいもの見せてあげる。」
「えっ、いいものってなに?」
「いいものは、いいもの。ついてきて。」
「うん。」
男の子は、女の子の後をついていく。
そして、そこには薄暗い階段があった。
「この階段のしたに、いいものがあるんだよ。」
「なんか、暗いね。」
「いいものは、暗い所に隠さなきゃ。いこ。」
「うん。」
男の子は、なにも疑わず素直に女の子の後についてゆく。
階段の下には、鉄でできた扉がある。
「この中にいいものがあるんだよ。開けてみて。」
「うん。」
男の子は、少しだけ寒気がしたが、恐る恐る扉を開けた。
中は真っ暗だった。
「ねえ、こわいよ。」
「もう少しだけ中に入ったら、いいものがあるよ。」
男の子は、一歩、二歩と、前にゆっくりと進んだ。
ばん!
いきなり扉が閉まった。
「ねえ、真っ暗だよ。開けてよ。」
「だめよ。」
「意地悪しないで開けてよ。」
「だめよ。君はこれからずっと私と遊ぶの。」
「いやだよ。開けてよ。ここから出してよ。」
男の子がいくら叫んでも、もうだれも答えてくれなかった。
「すみません、私の息子知りませんか?〇〇というのですが?」
「ちょっと、待ってください。」
「迷子センターにはいないようです。〇〇ちゃんですね。私たちも探します。」
〇〇ちゃんという男の子は、とうとう見つからなかった。
そして、
「ねえ、誰かいないの。ねえってば!」
誰の返事もない。
おんなは、携帯であたりを照らしてみた。
どうやらそこは、配電室のようだった。
コンクリートの壁は、火事でもあったのか焦げたところがある。
もっとよく目を凝らして、あたりを見てみた。
コンクリートの壁に、朽ちて穴が開いているところを見つけた。
そこには、ケーブルが通っていた。
壁との隙間にケーブルが通っているようだ。
なぜか、穴が気になり照らしてみた。
ケーブルのほかになにかがある。
よく見てみると、丸い何かがある。
始めは何かわからなかったが、それは頭蓋だった。
頭蓋のほかにも、骨が散らばっていた。
「ぎゃ~!!」
女は、驚き叫んだ。
すると、誰かが女の服を引っ張る。
女の体は、びくっと反応する。
まだ誰かが服を引っ張る。
「おねえちゃん」
女を呼ぶ子供の声がした。
優しそうな子供の声だ。
女は少しだけ安心した。
だがそれは、すぐに恐怖に代わる。
『なんで?どうしてこんなところで子供の声がするの』そう考えると、女の体は震えだす。
体の震えはとまらない。
止まらないどころか、自分でも信じられないほどがくがくと震えている。
女は上を向き、両手を胸のあたりで組んで呟く。
「こんなのありえない。これは夢、これは夢、これは夢」
そう呟く女の耳に子供の声は聞こえてしまう。
「おねえちゃん」
下から聞こえる女を呼ぶ子供の声は、なんだか悲しそうに聞こえた。
その優しくも悲しそうな声の持ち主を、少しだけ見てみようと女は思った。
だが、震える体は思うように動かない。
なんとか、首だけを曲げ下を見る。
そこには、服をつかむ子供がいた。
「おねえちゃん。ここから出して」
そう言うと、子供が上を向く。
その顔は、まるでゾンビのように腐っていた。
それを見た女の体の震えは止まり、全く動かせない。
「知らない人連れてきちゃったんだ。悪い子。」
いきなり女の子の声がした。
それと同時に、ゾンビのような子供は消えた。
だが、女の体は固まったまま動かない。
コツコツコツ
と歩いてくる足音が聞こえてくる。
そして、女の視線の端に小さな靴が見えてきた。
女は、なんとか靴の見えるほうに視線を向けた。
そこには、冷たい目で女を見つめる女の子がいた。
「ふ~ん」
女の子は、まるで品定めでもするように、女を見つめる。
冷たい目の女の子は続けて喋る。
「おねえちゃん、ここから私の友達を連れていく気なの?だったら、お姉ちゃんも閉じ込めちゃう。」
えっえっ、どういうこと?
女がそう思うと同時に、目の前が真っ暗になる。
そして、女はそのまま気を失ってしまった。
肝試しに来ていたほかの5人は、女を自分たちで探したが見つからず、翌日警察に捜索を頼んだ。
警察の捜索の末、配電室から一日でこんなにも衰弱できるのかと誰もが思うほど、衰弱しきっていた女が見つかった。
女が見つかったのは、朽ちたコンクリートの壁の向こう。ケーブルが通っている壁の向こうから見つかった。
だが、壁には穴があるものの小さすぎる。
どうやればこんなところに入れるのかと、誰もが首をひねった。
そしてそこには、数人の子供の骨とみられる死骸も見つかった。
この、閉園した遊園地では、出来たばかりのころ配電室で火事があった。
そして、配電室に迷い込み、とじこめられて、亡くなった女の子がいたらしい。
その、配電室はちょうど、観覧車の下にある。
どうでしたか?少しは怖かったでしょうか?