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作者: 糵

おかしな夢を見た。舞台は学園祭。僕は可愛げもへったくれもない真っ黒な人形と話している。何を話しているかはわからない。黒い人形がニヤニヤと笑って、僕が悔しそうに顔を歪める。そんな気分の悪い夢だった。


変な夢を見た日の朝はいつもよりさらに体が動かない。ただでさえ朝は苦手としているのに、今日は1年のうち非常に面倒&クソゲー極まりない文化祭。まぁ、昨日までの準備を『早く帰りたい』という不純な思いを抱きながら積極的にやった結果当番がなくなったので僕の中であの頑張りは大いにプラスだ。

朝食を食べ、僕みたいな非リア充&カップル爆発しろ系人間的には『文化祭なんてクソッタレ』という思いしかないが、当番がないことで少し気分が浮かれていた。この良い気分で文化祭を迎えられることは非常に嬉しいことだ。朝日がまぶしすぎてとろけそうだが、文化祭が始まれば自由なのだから、空き教室で寝ていようと思う。


担任が出席を取り、諸注意の放送を聞いたらあとは自由行動なので、僕は宣言通り空き教室を探す旅に出る。

旅になると思ったが、案外あっさり見つかった。荷物やダンボール、使わない机などがおいてある教室を発見したのだ。

「ここにしよう」

そう呟くと、ドアを開け寝るためのスペース作りをする。

「ちょっとほこりっぽいけど全然許容範囲だぜ……」

僕はよく他の人から顔とセリフが一致しないことでおなじみらしいが、今日はきっと笑えているのだろう。だって楽しいもん。

色々なものが入っている段ボールを移動させスペースを作りつつ、ドアから僕の姿が見えないようにバリケードを作る。ちょっと腰を痛めそうな気もするが、気にしない。そうして、教室の奥にあった段ボールを移動させ、最後の一つを持ち上げたら何かが落ちた。

「うん?これは……」

人形が落ちてきたのだ。驚く程に黒く、目や口は縫い目だけで作られていた。そして、さらにこれは、この人形は『夢に出ていたのと同じ』人形だ。

「こいつはやばいぜ……」

驚きが隠せないが、ここで寝るのはやめた方がいいだろう。夢のようなことが起こってはいけない。段ボールの移動で僕のHPはもはや黄色だが、それを気にするような余裕のもてる状態ではない。

「骨折り損のくたびれもうけってこういうのをさすのかな?」

と言いつつ人形を置いて、教室を出ていこうとしたところ、

「さ~ってさて!お待ちかねのクイズ大会の時間だよぉ~!」

変なだみ声が教室に響いた。しかし僕の知ったことではない。はやくこの場から出ていくんだ。そうして、歩を進めようとした。しかし、それは叶わなかった。

「おいおいおいおいおに~さぁん!僕の声聞こえてるんだろ??ほらほら!僕の声、鈴が軽やかに鳴ってるみたいな声だろう?ほ~ら!RINRIN♪」

僕の耳は本格的には狂っているようだ。だって、人形と対面しているのに『会話が成立できている』。それは明らかに異常だろう。僕は異常から逃げるため、教室を出ようとする。しかし

「え?」

ドアが開かない。なぜなのだろうか。

「もう!おに~さんってばつれなーい!これが今流行りの『ツンデレ』だな!流行りに乗るおに~さんやば~い!!そんなおに~さんには~~僕から熱烈なぎゅーをプレゼントだ!」

そんな声が聞こえた瞬間、僕の視界は暗転、そして埃くささが僕の鼻腔を襲った。それによって、僕は気持ちが人形に傾いてしまった。今ならまだ逃げられたかもしれないのに、気持ちを傾けてしまった。僕は冷たい声で言う。

「離れろよクソ人形。僕は今安眠を求めているんだ。」

決まった。僕の超低音絶対零度ボイス!これに逆らうやつはいな……

「やだよ」

は?今このクソ人形はなんと言った?僕に『逆らった』??

「っていうか~僕人形じゃなくてみんなのアイドル妖精さんだから!!4649でヨロシクゥ!!」

変なやつに捕まってしまった。朝楽しみにしていた気持ちがすべて飛んだ。

「クソ人形じゃないってことはクソ妖精か、おっけーおっけーあんだすたん……」

「ちなみに名前はノイギーア!!ノイって呼んでね!」

「うるせぇクソ人形。あっ違うわ、変な名前だなクソ妖精」

「やだ~おに~さんひど~い」

なんて茶番を僕はしているのだろうか。早く寝たい。

「そうだ!おに~さんにクイズだよ!クイズに正解できたらここから出してあげる&僕の正体をおしえてあげるー!」

さらに僕に待ち受ける茶番!!勘弁してよ神様!!無神論者だけどかみさまたすけてーー!!

「お前の正体に興味はない」

「やだー!僕おに~さんにとって大切な存在なのにィ!!ちなみに五問連続で答えられなかったら、おにーさんの体一生ここだからね!ヨロシクゥ~!」

なんという爆弾発言なんだろうか。

「ふざけんなよクソ妖精」

「ノイだも~ん。じゃあ第1問!」

勝手に始めないでほしい。なんなんだ、僕に対する試練だけひどすぎないか?神様は何を考えているんだ……無神論者だけど。

「はーい、この文化祭は何回目?」

「シラネ」

「ぶっぶー!!正解は32回目でした~!不正解のおに~さんには~僕からちゅーだ!はい、むちゅーーーーーー」

……人形にキスされた。こいつは後で殺る。

「ちなみに問題はこの文化祭のことだから!ちゃんと見てればわかるよ!」

見てないから詰んだ

「見てないおに~さんの救済措置として、霊体になって見て回るのはおっけーだよ!」

「霊体?しんどるやん」

「僕のぱわーで生霊にしてあげるッ!!生霊フゥフゥ♪」


そして、ほんとうに僕はクソ妖精の言う通り霊体になって文化祭を回ってクイズの正解を探していた。なぜこんなことをしているんだろうという気持ちを抱きながら。


そして、ついにその時はやってきたのだ。

「第68問!3-5組の宣伝をしていた人の名前は?」

「石川」

「せいか~い!おに~さんおめでとう!僕クイズはおしまい~いや~長かったねぇ……しみじみしちゃう」

「ほんとだよ……疲れた……」

結局寝るつもりだった時間はすべてクイズに変わってしまった。なんて可哀想な僕……。

「でも、楽しかったでしょ?文化祭。」

突然クソ人形が真面目な顔で僕に問いかける。

「ま、まぁ……。」

確かに、自分では絶対にいかないようなところにも行ったし、楽しかった気がする。気がするだけで事実ではないかもしれないけれど。

「それじゃ~おに~さんばいばーい!」

クソ妖精は手を振りながら縮んでいき、僕の胸に入った。

「は?」

理解ができない。なぜ、クソ妖精は僕の中に入ったのだろうか。

(おに~さんが興味無いって言うからないしょのまんまだよ~)

胸の中から声がした。信じられない。

(信じられないって言ったってねぇ、これが現実だよHAHAHA♪)

「現実はクソゲー……」

(それじゃあおに~さん、アデュー!)

そうして。声は聞こえなくなった。一体なんだったのだろう。教室のドアを開けて近くの窓の外を見る。

「無駄に綺麗な空だな……。」

そう呟きながら窓を開け、遠くを見つめる。気がついたらそろそろ夕焼けが美しいグラデーションを作り出すだろうという時間。

「もっと高くて、障害物のないところから見たいなぁ……。」

そう呟いて僕は窓枠から離れ、無駄に長かった中学最後の文化祭を終えたのであった。




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