8.クジ運のない奴ら
店に戻ると、交渉が終わったのかメイが笑顔でこっちに手を振っていた。
「んで、いくらになったんだ?」
「んふー、なんとね」
メイははちきれんばかりの笑顔で言ってくる。
よほど高く売れたんだろうか。
「金貨30枚よ。30枚! 1年は暮らしていける金額よ!!」
「いやぁ、メイちゃんには参ったね。降参だよ」
こちらも何故か笑顔でシバ。
ふむ――。
「その30枚っていうのは、何の値段なんだ?」
「何の値段って言うと?」
「ほら、物理的な部分の値段とか、音楽が聞ける部分とか」
「ああ、それでいうとアレだな。ちゃんと動いていて音楽が聴けるっていうところと、見た目の綺麗さだな」
音楽プレイヤーをクルクルひっくり返しながらシバが言う。
「音楽の値段って、入ってるか?」
「あん?音楽の値段だと?」
「ああ、その中にはざっと1000曲の異世界の音楽が入ってる。こっちの世界では未公表だろうから、音楽自体もそれなりに売れるんじゃないのか?」
ミケの言葉に考え込むシバ。
異世界の音楽――作曲家とかアイドルとかだったら喜んで買うだろう。
「つまり、何が言いたいんだ?」
「つまり、だ。音楽一曲あたり、例えば銀貨一枚の価値があるとすれば、銀貨1000枚の価値がさらに眠ってるっていうことだ」
「要は金貨10枚上乗せしろっていうことか?」
「まあ、平たく言うとそういうこった」
「んーむ……」
なにやら考え込むシバ。
メイが1年暮らせる金額っていっていたが、いくらくらいだろう。
自分の年収が300万ちょいだから、一年暮らせる金額――金貨30枚で300万、金貨1枚で10万円くらいと考えておけばいいか。
「確かにな、よしっ! 兄ちゃんのその根性に免じて金貨5枚分、上乗せしてやろう」
「やったー!おっちゃん大好き!!」
メイが勢いよくシバに抱きつく。
そんな様子をミケは羨ましそうに眺めていた。
「ほれ、金貨35枚だ。しっかり数えな」
ミケは差し出された金貨袋を受け取ろうとしたが――メイが横からかっさらっていった。
彼女は金貨袋をシバに突き出すと、そのままとんでもないことを言った。
「おっちゃん、これ全部でクジ引くわ!」
「うぉい!?」
「あいよ。」
「いや、あいよじゃなくて!それ、俺の金!」
シバは金貨袋を受け取るとくじ引きの箱を机の上に置いた。
ミケが金貨袋に手を伸ばすが、シバはそれを隠してしまう。
「もう支払い終わってるからな。くじ引きは返品不可だ」
「ちょっと待て、おいっ!?」
にらみつけるが、飄々とそっぽを向かれる。
「おい、お前の取り分は1.9割だけだろう。何で勝手に全部突っ込んでんだよ」
ぐわし、とメイの頭を掴みつつミケが言う。
彼はお釣りの金貨2枚を受け取ると、しっかりと手の中に握り締めた。
「だってほら、一等賞は金貨500枚よ! これはやるしかないでしょ!」
徐々に頭を締め付ける力が強まっていくことに焦ったのか、メイは手をわたわたさせながらよく分からない言い訳をしてくる。
「ほら、あたしクジ運強いし! この間も商店街のクジで3等賞取ったし!」
「ほう?これの3等賞はなんなんだ?」
「投げ槍一年分だな。」
「いらねぇ!!」
「ちなみに2等は異世界の魔剣だ。 キーワードを唱えると、刀身がなんか暖かくなる。」
暖かくなるだけかよ……。
何で剣にそんな機能を付けようとしたのか――燃える炎の剣を作ろうとして失敗したとか?
「んじゃ引くわよ。」
気合を入れているつもりか、腕をぐるぐると回してから箱に突っ込む。
メイはしばらくごそごそと迷っているようだったが、カッと目を見開き一気に腕を引き抜いた!
「これよっ!!」
「3等だな。投げ槍一年分。」
「いらねぇっ!」
本当に3等引きやがったよこいつ。
クジ運あるんだかないんだかよく分からんやつだな、おい。
「次は俺が引く。」
そう言うとミケは箱に腕を突っ込み、適当に掴んで引き抜いた。
こうなったらなんとか一等を引いて金を稼がないと……。
「5等だな。おい、なんか適当に持ってきてくれ。」
「適当にって……。」
結局、1回金貨3枚で11回くじを引いたが、結果は惨々たる結果だった。
・3等:投げ槍1年分
・4等:バリスタ
・5等:巨大なメイス、ラウンドシールド、よく分からない形状をした剣、ナイフなどなど
・6等:女性用下着
・7等:雑貨(――何故か映画のポスターが混じっていた)
ちなみにバリスタはコーヒーを入れるほうではなく、馬鹿でかい石弓の方だった。