5.戦闘の後で……
「なあ、お前、異世界の人に特別な能力はないって言ってたよな。何か俺、すげー強くなってる気がするんだけど」
「だから言ったじゃない。ちょっと頑丈だって」
「いや、ちょっと頑丈どころの騒ぎじゃねぇだろ……」
殴っただけで人が宙を舞い、馬車に跳ねられても怪我一つない――痛かったが。
これをちょっと頑丈で済ます少女の神経が分からなかった。
要は肉体ががっつり強化されてるってことなんだろうな。
ミケは手を止めずに考える。
男の怯えようといい、この力は中々のものとみた!
これならダンジョンも意外とサクっといけるのかもしれない――。
そんな彼の様子を見て、メイが問いかけてくる。
「で、なにやってんの?」
「ん? これか?」
最後の一人の腕を縛り上げ、返事をするミケ。
そこには自分の服で縛り上げられた三人組が転がっていた。
縛り上げるためなのか、服は全部脱がされパンツ一丁の情けない姿になっている。
ご丁寧に猿ぐつわも噛まされていた。
「いや、このまま放っておくわけにもいかないし。なんか逆恨みとかされても嫌だろ?」
「まあそうだけど……。その財布は?」
ミケはその手に持った3つの財布をじゃらじゃらさせながら言った。
「あんま入ってなかった。まあ、金持ってたら人襲ったりしないだろうから当然っちゃ当然だけどな」
「いや、そうじゃなくて……」
「こういうのは徹底的にやらないとダメなんだよ。中途半端にやると逆恨みしてまた襲ってくるからな。追い剥ぎが逆に身包み剥がされて、しかもパンツ一丁で放り出されたとなっちゃさすがにこの街にもう居れないだろ」
「まあ、たしかに……」
釈然としない表情のメイ。
それを横目に、回収が終わったのかミケは三人を引きずりながら歩き始める。
「ちょっと、それどうするの?」
ミケはそれに返事をせず、笑いながら路地を歩いていった。
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昼下がりの午後。
太陽に明るく照らされた表通りに、人だかりができていた。
「ちょっと、なにあれ?」
「キモーイ」
「ふぐっ、んぐぅっ!?」
群衆の罵声に混じり、くぐもった男の声が聞こえてくる。
「おい、お前らどけっ!」
ようやく到着した兵士がガヤガヤと騒がしい群集をかき分けながら駆け寄ってくる。
彼らが人だかりの中心に到着すると――。
「なんだ、こりゃ……」
そこには猿ぐつわを噛まされ縛られた男が三人、パンツ一丁のあられもない姿で転がっていた。
兵士達は目を丸くし、そこに立っている看板に目を向ける。
そこにはこう書かれていた。
『これは趣味です。
思い切りなじってください(はぁと)』
「んぐぅ――!?」
男のくぐもった声が表通りにこだました……。
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「あんたって……」
「ん?」
「いや、なんでもない」
複雑な表情をしながら歩くメイ。
しばらく無言で歩き続けた二人だが、やがてメイがその歩みを止めた。
「着いたわよ」
それは石造りの町並みのなかで、完全に浮いていた。
木造で屋根には瓦、入り口には何故か巨大な招き猫が鎮座している。
そして看板には達筆な字でこう書かれていた。
――『土産物屋』――と。