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3.異世界のモノを売りに行こう!

「まったくもう、お昼回っちゃったじゃない!」

「いやぁ、悪い悪い」

「んで、そっちのすまーとふぉん? を売る、でいいのかしら」

「いや、これはダメだ。飼い猫(ニケ)の写真が入ってるからな」

「ああそう。」


 心なしか、さっきよりも距離が離れている気がする――物理的に。

 さっきの猫自慢がよほどこたえたのだろうか。


「それじゃそっちの音楽の方?」

「そうなるな。まあ、別に音楽聞けなくてもそんなに問題ないし」


 実際、通勤時間くらいしか聞いてない。

 入っている曲はパソコンで管理しているので、元の世界で買いなおせばいくらでも復元できる。


「それじゃ、売った金額の5割を貰う、でいいかしら?」


 メイが笑顔でさらっと無茶を言ってくる。

 5割ってお前、どんだけぼったくるつもりだよ。


「いや、それはねーだろ。つーか、そもそも何で売った金額で出さないといけないんだ? 宿代はモノが売れたらでいいだろ」

「えー、じゃあ3割」

「いや、だからな……」


 こいつは人の言うことが理解できないんだろうか。

 こちらの言うことを全く無視してメイは話を続けてくる。


「でもさー、あんた、どこで売れるかなんて知らないでしょ。それに、こっちの相場なんて分からないだろうから買い叩かれても分からないでしょうし」

「それは確かにそうだけど……」

「そういうリスクを考えると、3割なんて安いものでしょ?」

「ってもなぁ……」


 痛いところを突かれてうなるミケ。

 何処で売ればいいのか、相場はどうなっているのか。

 そもそもよく考えたらこちらの通貨がどんなものかさえ知らなかった。

 例えば代金としておもちゃのお金を渡されたとしても気づかないだろう。

 それを考えると、こいつを仲介するのは悪くはない。

 悪くはないが――。


「んー、じゃあ0.5割でどうだ」

「ケチねー。せめて2.8割!」

「0.7割!」


 小数点にまで争いが広がる。


「2.5割!」

「0.8!」

「――!」

「――!」


不毛な争いの末、結局、1.9割(端数切り上げ)、宿が決まるまでの宿泊付きで決まったのであった。

陽はすでに空高く昇っていた……。


/*********/


 外に出ると、ちょうど昼頃なのか肉の焼けるいい匂いがあたりを漂っていた。

 祭りでもやっているのか、あるいはそれが日常なのか、通りは人であふれている。


「まったく、すっかり日が昇っちゃったじゃない!」

「いやー、腹減ったな。 先に何か食べてかないか?」

「ダメよ、大体あんた、お金持ってないじゃない」

「そこはほら、奢ってくれるとか」


 その言葉に呆れたのか、メイはジト目で彼を見るとはき捨てるように言った。


「年下の女の子にたかるとか、ないわー」


 まあ半分冗談だけど。

 しかし――改めてあたりを見渡すと、異世界に来たという実感が沸いてくる。

 ぼろい石畳の道に木と石造りの建物、ここまではもとの世界でも見れる光景だ。

 だが、直立したトカゲ人間だの角がはえた人間だの――中には剣や斧などで武装した集団もいた――は、元の世界ではあり得ない光景だった。

 よく見ると普通の扉の前に鉄柵があったり、窓に鉄格子がはまっていたりしている。

 また、いい匂いのする方を見ると露店が乱立しており、肉の串焼きが銅貨10枚、何かの定食っぽいものが銅貨30枚だったりと高いのか安いのかよくわからない値段で売られていた。

 辺りをきょろきょり見ながら歩いていると――


 どけどけ、危ないぞ! 邪魔だどけ!!


 どこからか叫び声が聞こえてきた。

 石畳を蹄がたたく音があたりに響く。

 異世界っぽくて風情があるなぁ……などと思っていると、ふと目の前からメイの姿が消えて――代わりに馬の顔が勢いよく飛び込んできた!

 そして次の瞬間、馬はミケのいた場所を勢いよく通り抜け――当然、ミケは勢いよく弾き飛ばされたのだった。


「バカ野郎!! 気を付けろや!!」


 朦朧とする意識の中、なぜかこちらを責める罵声が遠ざかって消えていった……。


「いっつー……」


 一瞬意識を失っていたのか、気づくと壁にもたれかかっていた――ただし、頭は少し壁にめり込んでいたが。

 全身が漏れなく痛い。

 まあ、馬車に撥ねられて生きているだけ運がいいのかもしれないが……この痛みが続くなら死んだほうがマシかもしれない。

 それでも少しの間じっとしていると、徐々に痛みが引いてきた。

 立ち上がろうと手を突いたところに、上から声がかかる。


「おう、災難だったな。立てるか?」


 見上げると、見るからに小悪党といった風情のおっさんがこちらに向かって手を差し伸べている。

 ミケは一瞬迷ったが、その手を借りて立ち上がることにした。


「助かる」

「なに、いいってことよ。兄ちゃんも気をつけな!」


 言いつつおっさんはズボンの埃を払ってくれる。

 やっぱ人は見た目だけで判断したらダメだなと反省する。


「んじゃ、がんばれよ!」


 おっさんはミケの肩を軽く叩くと、そのまま路地裏へと歩いていった。

 少しの間をおいてようやく気づいたのか、メイが駆け寄ってくる。


「ちょっと! あんた、大丈夫なの?」

「ああ、全身漏れなく痛いけどな。 奇跡的に骨が折れてたりとかっていうのはなさそうだ」

「誰もあんたのことなんか心配してないわよ! 異世界のモノは無事なんでしょうね!?」


 こいつは……。

 俺の心配じゃなくて金の心配かよ、と思いつつポケットの中を確認する。


「――って、あれ?」


 ない!?

 音楽プレイヤーとスマートフォンが入っていたはずのポケットは、今や完全に空っぽになっていた。

 慌てて他のポケットも確認するが、何処を探してもそれらは見つからなかった。


「スられたのよ!」

「そういうことかよっ!」


 メイは叫ぶとミケの手を取り裏路地に向かって走り始めた!

 こちらが気づいたことを察したのか、おっさんも狭い路地を駆け始める。


「くそっ、結局は見た目どおりじゃねぇか!?」

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