表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/31

17.お名前は

「そういや、名前はなんていうんだ?」

「はい?」


 メイに髪を拭かれていて聞こえなかったのか、聞き返してくる少女。

 少女はメイと一緒にシャワーを浴びてメイの服を着ていた。

 サイズが大きすぎて、服を着ているというよりも服に着られているといったほうがいいくらいぶかぶかだった。


「いや、まだ名前を聞いてなかったなって思って」

「そういえばそうね。あたしはメイ。こっちの変態っぽい変態がミケ。あなた、名前は?」

「名前……?」


 二人から視線を受けて少女はしばらく戸惑っていたが、泣き笑いのような表情で言った。


「名前……。すみません、思い出せません……」

「記憶がないんだったよな」


 追いかけられる前の記憶がないといっていたから当然といえば当然か。

 ミケは泣きじゃくる少女とそれをなだめるメイを見ながら言う。


「じゃあ、名前考えるか」

「え?」

「そうね、このままじゃ不便だし」


 その提案が意外だったのか少女は泣くのをやめて、驚いた顔でこちらを見る。

 とはいえどうしたものか。

 クマ娘だからクマ子……さすがに安直か。

 クマ美、ベア子……どうにもクマから頭が離れない。

 メイもなにやら考え込んでいる様子で、しばらくの間、沈黙が続く。


「そうよ!ガウなんてどう?」

「ガウ?」


 野性的な名前……ていうか、名前なのか?それ。


「そう。昔の言葉で、クマのことをコン・ガウっていうのよ。確か。」

「うーん……」


 少女の方をみて考える。

 クマ耳、クマ尻尾、そして腰まであるくせっ毛。

 見た目は野生っぽい印象を受けるし、まあ合ってなくもないか。

 ただ、あと一押しっていう感じがする。


「ガウ、ガウねぇ」

「なによ、いい名前じゃない?」

「いや、悪くはないんだけどな」

「がー……う?」


 少女が名前をつぶやく。

 それを聞いたミケが顔を輝かせた。


「そう、それいいんじゃねぇか?ガーウ!」

「えー、ガウちゃんの方が可愛くない?」

「ガーウ……。ガーウ、ガーウ!」


つけられた名前を何回もつぶやく少女。

つぶやきながら、段々と表情が明るくなっていく。


「気に入ったか?」

「はい!ありがとうございます! メイ様もありがとうございます」

「いや、いいんだけどさ。そのメイ様っていうのやめない? なんかむずがゆくって。メイでいいわよ。普通に」

「はい、メイさん!」


 名前も決まったし、後は服を買うだけか。

 ぶかぶかな服をぱたぱたさせて喜んでいるガーウ。

 その様子を見ていると、まるで小さな妹でもできた気がしてくる。


「ミケ様」

「ミケ様、だってー。様ってガラでもないでしょうに」


 笑いをこらえながらメイが言ってくる。

 本人は隠しているつもりかもしれないが、思いっきり聞こえている。


「あー、俺も様付けはやめてくれるか? そうだな……」


 ガーウはこちらを見上げ続きを待っていた。

 自分はなんと呼ばれたいか……。

 少しの間考え、色々試してみることにする。


「お兄ちゃん」

「お兄ちゃん?」


 軽く首をかしげ、言われたことを繰り返すガーウ。

 疑うことを知らないその視線が、なぜか心に痛い。


「にぃにぃ」

「にぃにぃ……?」


 疑うことを知らないって恐ろしい!

 ミケは調子に乗ってさらに続ける。


「ご主人さm」

「いい加減にしなさいよ!」


さすがに見かねたのか、メイがミケの頭を思い切りはたく。


「いっつー、お前、わざわざタンコブはたくことはないだろ!」

「いや、あまりにキモすぎて。あんた、めっちゃにやけてたわよ」

「ご主人、大丈夫ですか!?」


 ガーウはミケの頭を撫でようとするが、身長が足りずよろよろと背伸びをしている。

 そんな少女の頭を逆に撫でながら、ついでの自分の頭もさする。

 タンコブは小さくはなってきてはいるものの、まだその存在を主張していた。


「ほら、バカやってないで早く行くわよ。そろそろお店が開く時間だし」

「店?」

「ええ、だってガーウの服買わないと」

「ずいぶんと気前がいいんだな」

「何言ってるのよ。あんたが出すのよ、あんたが」

「んなっ!?お前、俺の懐具合知ってるだろ?」


 ガーウには聞こえないようにメイにささやく。

 小銭入れの中にはガチャのお釣りの金貨が2枚と、あとは銀貨が何枚かあるだけだった。

 服がどれ位するのかは知らないが、女の子の服というだけで何となく高い気がする。


「大丈夫よ。普通の服ならそんなに高くないし。大体、あんたが拾ってきたんだから、あんたが責任持ちなさいよね」

「まあ、そりゃそうだけどよ……」


 そのやり取りをみて何かを察したか、ガーウがこちらを見て言ってくる。


「あの、わたし、そんな服なんて大丈夫ですよ。布が一枚あればなんとかなりますし」

「いや、さすがにそれはない」


 あのぼろきれ一枚の姿で歩かれたらこっちが捕まりそうだ。

 いや、こっちでもそういう法律があるかは知らんけど。


「んじゃ、さっさと俺の呼び方を決めて買いに行くか」


 個人的にはにぃにぃが一押しだが、ご主人様も捨てがたい。

 しかし、せっかく妹っぽいのだから……いや、メイド服着せたらいけるんじゃないか?

 悶々とするミケにメイが言う。


「あら、呼び方ならもう決まったじゃない」

「あん?」


 メイにつられて、ガーウの方を見る。

 ガーウはきょとんとしてこう言った。


「ご主人?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ