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16.寝て起きて、起きて寝て

「ん、むぅ。もう朝か……」


 ミケが目をこすりつぶやく。

 窓から差し込んだ朝日が彼の顔を照らしていた。


「ほら、今日もダンジョン潜るわよ。さっさと準備準備!」


 薄いカーテンの向こう側からメイの声が聞こえてくる。

 (つか、何でこんな眠いんだ……?)

 まだ醒めていない頭で考える。

 確か昨日は寝付けなくてスケジュール引いてて、それで……。

 薄い掛け布団をどけようと掴むと、何故かやわらかい感触がした。


「ん?なんだこりゃ」


 不思議に思って布団をめくる。

 そこにはボロ布をはだけたクマ耳の少女が、安らかに寝息を立てていた。


「どうしたの?」


 着替えが終わったのか、カーテンを開けるメイ。

 彼女の視線は、ミケの横に居る少女に釘付けになっていた。


「あんたって……」

「いや、これはだな。ほら、あれだ。知ってるだろ?」


 わなわな震える彼女に向かって言い訳をしようとするが、あまりに咄嗟のことで何も出てこない。


「不潔よ!人の家に女連れ込んで!」

「いや、まずは話をだな」

「しかもそんな小さな子!? あんた、ロリコンだったわけ? いい人っぽかったからおいてやってたけど、これまでよ。さっさと出てって! ていうか死んで。10秒以内に出ていかないと、あたしが燃やす」


 ゴミでも見るような目でこっちを見るな!

 悪いことしてないのに、なんだか惨めな気持ちになってくる。


「だから違うっての!」

「じゃあなんなのよ。年端もいかない少女があんたの横でぼろきれ一枚で寝てる理由を説明できるならしてみなさいよ。ほら、早く。じゅう、きゅう、はち……」

「えーっとだな」


 いつの間にかフライパンを手にしているメイから視線をそらし、昨日の夜のことを思い出そうとする。

 昨日は確か寝付けなくて、スケジュール引いてたら猫が襲われてて……。

 いや、猫じゃなくてこいつだったんだっけか。


「昨日の夜、猫だと思ったらこいつが襲われてて、とりあえず拾ってきた」

「いや、意味分からないし」

「つまりだな、昨日の夜、外見てたらこいつがさらわれそうになってたんだよ。んで、俺が助けて保護したってわけだ」

「でもそれって、一緒に寝てる理由にはならないわよね」


 ぐっ、鋭い……。

 何で女ってやつはこんなときだけ鋭いんだろうか。


「ほら、布団一枚しかないだろ?

 昨日少し寒かっただろ?

 床で寝るのはしょうがないとして、布団なしで転がしとくのは可愛そうジャン?」


 慌てて言い訳をするが、思わずカタコトになる。

 実際のところ何で一緒に寝ていたのか思い出せないので、何を言っても嘘っぽくなってしまう。

 と、その騒ぎでようやく目を覚ましたのか少女が身を起こし、寝ぼけているのかミケの腰の辺りに抱きついてくる。


「あふぅ」

「ちょ、おい!?」


 ミケは慌てて少女を引き剥がすが、時はすでに遅し。


「死ね」


 フライパンが勢いよく振り下ろされる。


 カコォーン!


 少女が抱きついているせいで避けることもかなわず、ミケはもう一度布団に沈んでいったのだった。


/**********/


「いつっ」


 頭に鈍い痛みを覚えて目を覚ます。

 まだぼやけていてよく見えないが、何かやわらかいものに挟まれているのを感じていた。

 と同時に、雨に打たれた犬のような匂いが鼻をつく。


「げほっ、なんだこりゃ」


 むせながら、顔の上に覆いかぶさっているものを手でのける。

 赤いくせっ毛が顔をなぞった。

(髪の毛……?)

 目をこする。

 目の前には昨日助けたクマ耳少女の顔があった。

 顔が目の前にあるっていうことは、この頭の下のやわらかいものは……。

 慌てて飛び起きると、 少女がこちらを心配そうに見上げていた。


「あの、大丈夫……ですか?」

「ああ、いや、大丈夫だけど」


 こちらを見上げる少女と、つまらなそうにこちらを見ているメイ。

 俺は膝枕をされていたわけで、つまり顔に当たっていたやわらかいものは……。

 想像して、顔が赤くなるのを感じる。


「なに顔を赤くしてるのよ」


 メイはジト目でこちらをみながら言ってくる。


「あんたが二度寝してから、ずっとああだったのよ。起こそうとしても唸られて近づけないし」

「そうだったのか。ありがとな」


 頭を撫でてやると、少女はとても気持ち良さそうに目を閉じた。

 何となく撫でてしまったが、髪はしばらく洗っていないのかぺたぺたしていた。

 こうなりゃ一回も何回も同じか、と撫で続けながらミケは言葉を続ける。


「二度寝っていうか、無理やり寝させられたんだけどな」

「あんたが紛らわしいことするからでしょ。ていうか、まだ説明らしい説明を聞いてないんだけど」

「いや、だから言っただろ?誘拐、化け物、拾った」

「もーちょい詳しく」

「ってもなぁ」


 言いながら頭をかこうとしてタンコブをこすってしまい顔をしかめる。

 詳しくって言われても、そもそも自分自身状況をよく分かっていないので難しい。


「あのっ」

「ん?」

「あの、昨日は助けて頂いてありがとうございました」

「まあ、当然のことをしたまでさ」


 格好つけて言ってみる。

 実際のところは猫が襲われていると勘違いしただけなのだが、わざわざ言う必要もない。


「しかし、結局なんだったんだ、あいつは」

「すみません……。わたし、何も覚えてないんです。気がつくとあの人と、あの化け物に追われていて」


 昨日のことを思い出したのか、少女は声を震わせながら続ける。


「わからないんですけど、戻りたくない。絶対に戻りたくないって思ったんです。でも、必死に逃げたけど捕まっちゃって。もうダメ……って諦めたときに、貴方様に助けて頂いたんです」

「嘘はついてないみたいだけど……」

「 ――まあ、とりあえず」


 ミケは少女の方を見るとつぶやいた。


「風呂と服が先だな」


 ボロ布に空いた穴から、少女のやわらかい肌がのぞいていた。

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