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15.拾ったのは猫じゃなくてクマ娘

 朧月。


 薄っすらと雲のかかった夜空を鉄格子ごしに見ていると、なんとなく寂しい気持ちになってくる。

 ただでさえ少ない街灯の明かりも消えて、ただ月の光が照らすだけになっていた。

 ……ニケは元気だろうか……。

 異世界にいる飼い猫に想いを馳せる。

 寝つきが悪いのは一緒に寝る相手がいないからだろうか、それとも――。

 ミケがスマートフォンの電源を入れると、そこには22:00と表示されていた。

 当然のことながらメールは一件も受信していない。


 時間の進む速さは元の世界と同じようだったが、その時刻までさすがに同じとはいかないようだった。

 メイの時計と時間を合わせたが、2時間ほどミケの時計のほうが進んでいた。


 ――初めてのダンジョンから戻り、コアを換金してロビーを出たのが、確か9時頃。

 それから帰り道で飯を食って、家に着いたのが9時半ぐらいか。

 ちなみに飯は海鮮チャーハンだった。

 もちろんメイのおごりで。

 米はパラパラとしていて、大量のエビやカニが入ってるにも関わらず銅貨30枚とお手ごろ価格だった。


 メイは疲れたといってシャワーも浴びずに早々にベットに潜り込み、本当に寝てしまったようだ。

 薄いカーテン越しにすーっ、すーっという寝息が聞こえてくる。

 自分も疲れてはいるのだが、初めてのダンジョンで興奮したのか頭が醒めてしまっている。


 ……まあ、いつもならまだ仕事をしている時間だし眠くなくて当然か。

 どうせ寝付けないならと、スマートフォンで表計算アプリを立ち上げる。


「ざっくりいつまでに何をやるか、仮でいいからスケジュールを引いておこう……。なんせ一ヶ月しかないんだからな」


 そう呟くと、ダンジョン攻略に必要なタスクを書き出していったのだった。


 どれくらい経っただろうか……。

 ふと窓の外を見ると、近くの家の屋根の上で何かが動いていることに気づいた。


 ――あれは ――!?


 ミケはメイスを掴むと勢いよく家から飛び出していった。


/**********/


 屋根の上に男が一人と少女が一人。

 そして大きな影がそれを見つめていた。


「いやっ、離してっ。離してください……」

「大人しくしろ、クズが!」


 男が嫌がる少女を連れ去ろうとするものの、少女も掴まれた手を振りほどこうと必死に抵抗している。

 だが体格の差か、抵抗虚しく少女は男に捕まってしまった。

 彼は片手で少女の首輪を掴むと、空いているもう片方の手で暴れる少女の腹を殴る!


「くぅっ……」

「手間をかけさせやがって」


 少女は息ができないのか、喘ぎながら地に膝をついた。

 男は白衣から注射器を取り出すと、その針を少女の首筋に当て笑う。


「嫌ぁ……」

「さぁ、これで大人しくなる。お家へ帰ろう? 愛しの我が娘よ……」


 針が少女の首筋に刺さろうかというその瞬間!


「ぐべぁっ!?」


 いきなり現れた闖入者のドロップキックによって、男は思い切り吹っ飛ばされていた。

 男は勢いよくバウンドしながら屋根を転がっていくが、落ちる間際で何とか屋根の端にしがみつく。


「なんだかなぁ。猫さらいかと思ったら人さらいかよ……いや、人かどうかも微妙だけどな」


 頭を掻きながら言うミケを、ポカンとしている少女が見つめる。

 ボロ布を纏ったその少女の頭には丸っこい獣の耳、お尻にも丸っこい尻尾が生えていた。

 遠めに猫に見えたのはそのせいらしい。


「……しかもなんか、ヤバそうなのがいるし……」


 彼を黙って見つめているもう一つの大きな影――。

 巨大なくちばしに翼、だがその体は強靭なライオンの四肢を備えていた。


「グリフォン、そいつを殺せ!!」

「キュルァァァッ!!」


 屋根のふちにしがみついた男が声を上げる。

 それに反応した化け物の叫び声が暗い夜空に木霊した。


 グリフォンはその強靭な腕を振り上げると、ミケ目掛けて振り下ろす!

 ミケはその一撃をなんとかメイスで受け止めるが、力負けして後ろに倒れ込んでしまう。


「うおっ!?」


 グリフォンがもう片方の腕を振り下ろしてくるのを何とか身をひねってかわす。

 倒れているミケの顔の横に巨大な爪が突き刺さる!

 爪は屋根をえぐり、破片が彼の顔をつぶてとなって襲った。


「キュア、キュルァァァッ!!」


 その顔に向かって威嚇の声をあげるグリフォン。

 ミケの顔にその臭い唾液がかかる。

 グリフォンはその鋭いくちばしで、ミケの体をついばもうとしてくる。


「てめぇ、調子に乗ってんじゃ――ねぇっ!!」


 ミケは 叫ぶと同時にグリフォンに向かってメイスを振り抜く!

 グリフォンはしかし羽ばたいてその一撃をあっさりとかわすと、そのまま空に留まる。

 空と地で睨み合うグリフォンとミケ。


 しかし、こいつは分が悪いな……メイスでグリフォンをけん制しながら考える。

 相手は空を飛べる。

 敵は好きなときに攻撃できて、危なかったら空に逃げることができる。

 それに対しこちらは敵が攻撃してきたときしか反撃のチャンスがない。

 メイスをぶん投げてやろうかとも思うが、それをしてしまうと攻撃も防御もできなくなってしまう。


 相手もこちらがそれなりに手ごわいと感じたのか、一気に攻めてはこずに間合いを保っている。

 しばらくの間互いにけん制しあっていたが、戦いの音に気づいたのか徐々に辺りが騒がしくなってきた。


 ―― おい、あれはなんだ!!

 ―― モンスターが何でこんなところにっ!?

 ―― 駄目だ、空飛んでやがる!

 ―― 誰か魔法使いか弓使い呼んで来い!


 騒ぎが騒ぎを呼び、下の方が一気に騒がしくなる。

 松明の明かりがこちらに近寄ってくるのが見えた。


「ちっ、これはマズイか……」


 いつの間にか屋根の上に這い上がってきた男が辺りを見渡してつぶやいた。

 彼はミケに向かって口を開きかけたが、ミケの方が早かった。


「覚えておいてやるよ」


 男はしばらく口をパクパクさせていたが、何も思い浮かばなかったのだろう。

 苦い表情を浮かべてグリフォンに跨り、飛び去っていった。


 あっちだ、追えー!

 松明の明かりがグリフォンを追って遠ざかっていく。


 次第に騒ぎが離れていくのを感じながら、ミケは残された少女に向かって言った。


「……とりあえず、うち来るか?」


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