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14.ゴブリンと猫

 帰り道。

 徐々に暗くなっていくダンジョンの中をミケとメイは小走りに先を急いでいた。


「そういや気になってたんだけどよ」

「なによ」

「俺は元の世界に帰りたいからダンジョンに潜ってるわけだけどさ。お前のはどんな望みなんだ?」


 その言葉に歩みを止めたメイに、ミケが追いつく。

 彼女は再び歩き始めると、前を向いたまま答えてくる。


「決まってるじゃない。お金よ、お金!」

「金ねぇ。なんっつーか、ありがちだな」


 まあ、確かに金は大事だが。

 金があればブラック企業なんか辞めて一日猫と遊んでいられるし、家を買って猫屋敷にすることもできる。

 世の中金が全てとはいわないが、金で解決する問題のほうが解決しない問題よりも圧倒的に多い。


「お金があればあのガチャも、このガチャも!

 ぜーんぶコンプリートできるのよ!」


 だめだこいつ、早く何とかしないと。

 いや、もう手遅れか。


「よりにもよってそれかよ……。まともな答え期待した俺がバカだった」


 まあ一番のバカはこいつだが。


「それだったら別に金じゃなくても、世界中のガチャをコンプリートでいいんじゃねぇか?」

「バカね。それじゃ意味がないのよ。あくまで自分で揃えるところに意味があるんじゃない」

「いや、わからんし。つーか、自分の金でやれ」


 そういやこいつ、俺の勝手に金使ってガチャしてたよな。

 ミケの視線に何かを感じたのか、メイは言葉を止めて再び歩き出す。


「なあ――」

「あ、ほら!アレ見てアレ! こんなとこに可愛い子猫が!」

「何ぃ!?どこだ!」


 慌ててあたりを見渡すミケ。

 メイが指さす方向を見ると、確かに黒い猫がこちらを見てただずんでいた。


「にゃ~……」


 猫はこちらを見て鳴くと、まるでついて来いといわんばかりに歩き始める。

 ミケは猫の後を追って歩き始めたのだった。


/**********/


「にゃー」


 目的の場所に着いたのか、猫が鳴いてごろんと転がった。

 その先には小さな人影が足を庇うようにして座っていた。


「……子供?」

「あー、うん。確かに子供だな。怪我もしてる」

「……そうね」


 反応に困り、適当に相槌をうつメイ。

 ミケもどうしたものかと頭をかきながら立ち尽くしていた。


「ゴブリンよね……」

「ゴブリンだな……」


 そう、そこには罠にかかったのか足に槍が刺った幼いゴブリンがうずくまっていた。

 黒猫が何かを期待するような目でこちらを見上げてくる。


「どうするよ……これ」

「んー、焼いちゃう?」


 さらりと怖いことを言うメイ。

 幼ゴブリンもその言葉に不穏なものを感じたのか、ビクっとして後ずさった。


「いや、さすがに後味悪くないか?」

「っても、あんためっちゃゴブリンなぎ倒してたじゃない」


 そりゃそうだが、怪我して震えてる幼ゴブリンを一方的に殴ったらすげー悪役っぽい気がする。


「しょーがねぇな……」


 ミケは頭を掻くと、幼ゴブリンの方に無造作に近づいていき――


「ちっと痛いけど我慢しろよ」

「きゅぃ!?」


 言うなり槍をへし折り一気に引き抜いた!

 幼ゴブリンは悲鳴を上げ、片足を引きずって逃げようとする。


「分かったわ!」


 メイは合点がいったように手をぽんっと叩くと言葉を続けた。


「これでもう罠にはかかってないから、後腐れなく殺れるっていう訳ね!」

「違うわっ!?」


 どんだけ外道だお前は。

 ミケは荷物から包帯を取り出すと、ゴブリンの足に巻いていく。

 特別知識があるわけでもないが、以前怪我をしたときを思い出しながら、何とかそれっぽくなった。


「本当は回復魔法とか使えればいいんだろうけどな」

「自慢じゃないけど、使えないわよ」


 なぜか胸を張ってメイが言った。

 ミケはそれを無視すると黒猫を撫で始める。


「おーしおしおし、もう君のご主人は大丈夫だからねー。おーいい子だねー」


 ミケは 一通り撫でて満足すると、立ち上がり歩き始めた。

 メイもその後に続いて歩きながら聞いてくる。


「ていうか、こんなことしてどうすんのよ」

「いや、なんだろうな。このまま放っておいても何か後味悪いし。それに猫を飼ってるやつに悪人はいないっていうしな」

「いや意味わかんないし」

「それにほら、後で何かあったときに助けてくれるかもしれないだろ?」

「そんな昔話じゃあるまいし……」


 話しながら歩き去る二人の背を、幼ゴブリンと黒猫はじっと見つめていたのだった……。

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