13.ゴブリン VS ゴブリン
「おい。」
言いながらメイの頭を抑え、自身も身を低くする。
「なんだありゃ」
「あれは――ゴブリンね」
「いや、それはみりゃ分かるけど」
「なんか、穴掘ってるみたい」
「穴?」
メイはいつの間にか取り出した双眼鏡をのぞいて言った。
彼女から双眼鏡を受け取り、ゴブリンたちの方を見ると、そこには穴掘りに精を出すゴブリン達の姿が映っていた。
「てことは、この罠はあいつらが作ったってことか」
「でしょうね」
うなずくメイに双眼鏡を返し、ミケはメイスを握りなおした。
彼はそのまま中腰になると、ゴブリンのいる方へ歩き始める。
「ちょっと、何する気?」
「ああいうのはさっさと潰しておいたほうがいいだろ。放っておくとこの辺罠だらけになりそうだし」
「ちょっと待ちなさいって」
メイは彼の服のすそを掴んで引っ張ると、再び草の陰に隠れた。
彼女はそのまま双眼鏡を押し付けてくる。
「ほら、あれを見て」
「これ以上何があるって――」
言われて文句を言いながらも渋々と双眼鏡を覗くミケ。
そこでは別の冒険者に気づいたのか、毛の生えたゴブリンが武器を構えて何かとにらみ合っていた。
その視線の先にはなんと、毛のないゴブリン数匹が武器を構え対峙していた。
――次の瞬間、毛のないゴブリンの突き出した槍が毛の生えたゴブリンに突き刺さる!
「うおっ!?」
思わず驚き、ミケは声を漏らした。
毛の生えたゴブリンも負けじと手に持った槍や棍棒で応戦する。
――数分後、そこには毛のあるなしの差はあるものの、既に動かなくなったゴブリン達の死骸だけが残されていた。
生き残ったゴブリン達(毛なし)が完全に立ち去るのを見届けて、その場に近寄った。
「なんだったんだ、ありゃ」
「モンスターでも内輪もめなんてあるのね……」
「いや、内輪もめって言うには大分やりすぎだと思うが」
中途半端に掘られた穴を埋めながら考える。
地面に転がっている死体は、毛の生えたゴブリンと毛のないゴブリンの2種類がいた。
「内輪もめっていうか、種族が違うんじゃないか、こいつら。毛が生えてるのと生えてないので」
「まあいいじゃない、なんだって。楽できたし」
頭空っぽな回答が帰ってくる。
頭空っぽの方が人生楽しめるっていうが、こいつはもう少し頭に色々詰め込んだほうがいいと思う。
知識とか教養とか常識とか。
「だといいんだけどな」
罠にモンスター同士の抗争――。
ゲームだったら楽しめるのかもしれないが、これは現実で失敗すれば最悪死ぬこともありうる……。
暗くなってきた天井を見上げていると、気分まで暗くなってくる。
「って、マジでなんか暗くなってきてないか?これ」
明らかに最初の階層にいたころより暗くなってきている。
夕暮れも過ぎて薄暗くなってきたという感じだ。
メイは懐中時計を取り出して時間を確認すると、空を見上げてこう言った。
「っといっけない。もうこんな時間ね。今日はもう戻るわよ」
「おい、どういうことだ?
ダンジョンなのに夜とかあるのか?
てっきり魔法的な何かで明るいんだと思ってたんだが」
「魔法的な何かってなによ。まあ、間違ってはいないかもしれないけど……」
ミケが後を追いながら疑問を口にする。
メイは歩みは止めずに天井を見上げると、その疑問に答えた。
「仕組みはよく分からないけど、ダンジョンって外の明るさとリンクしてるのよね。朝になればダンジョンも明るくなるし、夜になれば暗くなる。月が出てれば少しはましだけど」
「なんか凄いのか凄くないのかよく分からないな。それ」
外の明かりを採り入れてるっていうことだろうか。
あるいは太陽光発電みたいな感じで太陽が出てないと明るくできないとか――。
考えながら歩いていると、メイに腕を引っ張られる。
「ほら、本格的に暗くなる前に出るわよ!」
「へいへい」
考え事を中断され、不満げな声を上げるミケ。
二人は来た道を引き返すべく、小走りで駆け出したのだった。