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10.ダンジョンロビー

 朝6時。

 ぶらりと街中を散歩して帰ってきたミケを出迎えたのは、これから冒険にでも行こうかという格好をしたメイだった。


「何やってんのよ、こんな朝っぱらから」

「いや、何って散歩だけど」

「ニャー」

「にゃー?」


 メイが不思議そうに声のしたほう――こちらの足元を見る。

 そこではトラ柄の子猫が目を丸くして上を見上げていた。


 昨日、路地裏にいた猫には悪いことをしたと思い探していたが、残念ながら再会することはできなかった……。

 だからという訳ではないが、それとは別の猫を見つけ撫でくり回していたら懐かれたらしく家まで着いてきていた。


「ほーら、ご飯ですよー」


 ミケはテーブルの上にあったサンドイッチを手に取ると、子猫に与え始める。

 ――中にタマネギやイカなどが入ってないのは確認済みだ。

 子猫はよほどお腹が空いていたのか、勢いよくサンドイッチをむさぼり始めた。


「ちょっと!それあたしの朝ごはん!」

「いーじゃねぇか、別に減るもんじゃねぇし」

「いや減ってるし。思いっきり減ってるし!」


 細かいやつ。

 飯はしばらくメイの奢りという約束なのだから、これくらいで文句を言わないで欲しい。

 子猫は食べ終わって満足したのか、にゃあと鳴くと陽の差すほうへと消えていった。


「ああもう、ほら、早く準備して!」


 メイはそう言うと、こちらに荷物を放ってくる。

 手に取ってみるとそれは若干重みのあるリュックサックだった。

 中にはよくわからない薬瓶や包帯などが入っている。


「準備ってなんのだよ」


 リュックサックの口を閉じながらミケは疑問を口にする。

 こっちの世界に来たばっかりで、まだ用事と呼べるようなものはなかったはずだ。

 メイはこちらを見ながらきょとんとした表情で言った。


「何って……行くんでしょ、ダンジョンに」


/**********/


「ここが……」


 家から歩くこと、およそ20分。

 二人は目的の場所についていた。

 樹々に覆われた巨大なドーム。

 昔は白かったであろうその色も、今ではすっかり灰色が混じり、苔がむしている。

 その巨大さに気圧されたのか、ミケはその入り口の前で立ち尽くしていた。

 メイも何か感じるものがあるのか、いつものように急かしてこない。

 二人して入り口で突っ立っていると、ミケ達を元気のいい女の子がぐいぐいとドームの中へ引っ張り込んだ!


「はいはーい、お兄さん達、冒険者? ボサッと突っ立ってないで入った入った!」


 ドームの中は見た目どおり広く、いくつものカウンターとそれを囲む冒険者たちで賑わっていた。

 彼女はミケの腕を掴むと、そのまま服をめくり上げてくる。


「お兄さん達、ここは初めて? ほい、左の二の腕見せてね。」

「お、ぉう」


 何が何だか分からずにされるがままのミケ。

 素肌が露わになった彼の二の腕を見て少女は言った。


「うん、紋章なしのランク0。初心者だね、君達」

「君は……受付か?」


 お団子ヘアーに白いチャイナドレスのような服装。

 少女はメイと同じくアオザイを着ていた。

 ここの制服なのだろうか、カウンターの奥には同じような服装をした人達が冒険者達の相手をしていた。

 ――少女とメイを比べてみると、メイの服の方がスカートのすそが短く、動きやすそうになっているのは冒険者用だからだろうか。


「そっ、まだ新人だから初心者担当だけどね。チャン=ミン=トゥラン。気軽にトゥランって呼んでね」

「俺はミケ。んで、こっちのちっこいのが……いてっ」

「メイよ。よろしくね」


 ミケの足を踏みながらメイ。

 彼は足を引っこ抜き、逆に踏み返そうとしながらトゥランにたずねた。


「んで、ダンジョンに潜りたいんだけど、どうしたらいいんだ?」

「入場料は銀貨1枚です……が、その前に説明とか聞きたいですか?」

「まあ、そりゃあ初めてだしな。 説明してくれるならそれに越したことはないが」


 顔をしかめながらミケが言う。

 メイはその横で勝ち誇った顔をしながら彼の足を踏んでいた。

 トゥアンは書類やパンフレットをカウンターの上に並べてぺらぺらと書類をめくりながら言ってくる。


「その前に登録料として銀貨五枚、頂きますね」

「はいよ――っと」


 後ろからぶつかられて小銭入れを落としそうになる。

 ホールはかなり大きかったが、それ以上に大勢の人たちが集まっていた。


「なんかやたら人が多い気がするんだけど、こんなもんなのか?」

「あー、テトが近いですからねぇ」


 机の上に並べられた銀貨を回収しながら、トゥアンが答える。


「テト?」

「ええ、お祭りみたいなものですかね。元々は新年を祝う期間のことなんですけど。ダンジョンの50F以降は普段は入れないようになってるんですけど、テトの期間だけ封印が解けるんですよ。それでテトが近くなるとそれ目当てで冒険者が増えるんですよね~」


 テトねぇ……。

 つまり、いいタイミングに来たっていうことなのか?

 メイの方を見ると、興味なさそうに髪をいじっていた。


「ほら、お前も――」

「あら?メイさんは――2年前に既に登録されてますね。そうしましたら、ミケさんだけこの書類に記載をお願いします」

「ふふん」

「うわ、うぜえ」


 やたらドヤ顔なメイを横目に、書類に必要事項を記入していく。

 どうでもいいが、言葉が通じるのはどういう仕組みなんだろうな。

 ……考え出すときりがない。


「はい、ありがとうございます。これが登録証になります」

「さんきゅ」


 免許証ほどの小さなカードを受け取って財布にしまう。

 財布といってもこちらには日本円しか入ってないので持ち歩く意味はないが……。

 ちなみにミケは今、いつものスーツ姿に巨大メイスと盾という一見シュールな装備になっている。


「んじゃ説明させて頂きますね。まず、このダンジョンはモノリスダンジョンと呼ばれています。最奥になんでも願いを叶えてくれるモノリスがあるっていう伝説がその由縁ですね」


 彼女は近くにあった黒板に絵を描きながら、話を続ける。


「実際に今の王様はモノリスで願いを叶えて王になったとも言われています。モノリスを求めて今でも多くの冒険者達がダンジョンの奥を目指しているんですが……。いつもは50F以降は封印されているんですよね」


 トゥアンは言いながら50Fのところにばつ印をつける。

 そのまま10Fごとに線で区切ると、彼女は続けた。


「ダンジョンには10階ごとにボスがいて、最初は倒さないと先に進めないようになっています。ボスを倒すと左の二の腕に紋章が刻印され、次からはボスと戦うことなく次の階層に進めるようになっています。逆に一度ボスを倒すと、二度とボスのいる部屋にはいけないんですけどね」

「なるほど。ボスってどんな奴なんだ?」

「それは――戦ってみてのお楽しみです!」


 視線をこちらから逸らしてトゥアン。

 そんな命を賭けた楽しみはいらない――っていうか。


「知らないんだな?」

「いや、ほら、ネタバレすると怒る人多いですしー」

「別に怒らないから教えてくれよ」

「えーと、そうだ! あともう一個重要な話があります」


 トゥアンは書類をバサバサと漁っていたが、やがて目的のものを見つけたのか一枚の紙を引っ張り出す。

 その紙をこちらに見せながら、彼女は続けた。


「えっとですね、ダンジョン内のモンスターを倒すと、モンスターのコアを落とすんですよ。そのコアをここで買い取っているので、ダンジョンを出る際は必ず全部売ってから出てくださいね。コアは放っておくと再生して危険なので、ダンジョン外への持ち出しは固く禁止されています」

「了解、んなもん持って帰ったって危ないだけだしな」

「はい、これがコアの買取リストです。全部のモンスターが載ってるわけじゃないですけど、主要どころは抑えてますよ」


 トゥアンから紙を受け取り、ふと疑問に思う。

 コアを買い取ってどうするんだろ……。


「なあ」

「はい?」

「これって、ここで買い取ってどうするんだ?」

「さあ……私も詳しいことは知らないですけど、ダンジョンを浄化するためだっていうのは聞いたことがあります。なんでも、王都に送って浄化してるとかなんとか」

「ふーん……」


 浄化ねぇ。

 なんかいまいちピンと来ないが。


「あとは、あちらのクエストカウンターで依頼を受けることができます。ある程度ダンジョンに慣れてきたら挑戦してみてくださいね」


 奥の方にある大きな掲示板を指差してトゥアン。

 掲示板には大小様々なメモがところ狭しと貼られていた。

 クエストか……なんかゲームっぽいな。

 考えているといきなり背中を叩かれる。


「話も終わったみたいだし、早く行くわよ!」

「いや、ちょっと待て、まだ俺の分を払ってないっ!」


 すでに支払いを済ませたメイに押され、ミケも慌てて銀貨を取り出してカウンターに置く。


「いってらっしゃーい」


 能天気なトゥアンの声を背に、二人はダンジョンの入り口を降りて行ったのだった。

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