9.武器は買ったら装備しよう
「いや、これほんとどうしろと……」
ポスターや下着に至っては武具ですらない。
積まれたガラクタの山を眺めて、ミケはため息をつく。
「いやぁ、やっぱ賭けってダメね。地道に稼ぐのが一番だわ」
「お前が言うか。どの口が言うか」
「いだっ、だから痛いって!!」
頭を鷲掴みにされて暴れるメイ。
何でこいつはこう、余計なことを言うんだろうな。
さて……これ本当にどうしようか……。
再びため息をつき、ミケは考える。
ダンジョン潜るなら武器は必要だとしても、まともなものがない。
強いて言うなら剣が使えそうだが、刃が鹿の角のような形状をしており、使いこなせる気がしない。
「あ、その剣、呪われてるので気をつけてくださいね。切れ味はいいんですけど、使い続けてると血が欲しくなるらしくて」
「いるかっ! んな物騒なもんくじ引きの景品にしてんじゃねぇ!」
ミケは叫ぶと剣を地面に叩きつける。
「えー、いいじゃない、強そうだし」
「ほほう、まずはお前で切れ味試してやろうか?」
「まあまあ落ち着いて。ほら、これなんかどうです?」
ユルグは二人――ミケとメイの間に割って入ると、ミケに巨大メイスを差し出してきた。
そのメイスの長さはミケの肩くらい、頭部にいたっては人の頭よりも大きいというものだった。
少なくとも人間が扱うものには見えない。
「いや、さすがにでかすぎるだろ。つーか、人間用の武器じゃないだろ、これ……」
言いながら、それでもミケは受け取ると軽く振り回してみる。
どう見ても人間用の武器には見えなかったが、持ってみると見た目ほどは重くなく、バランスがいいのか片手で扱おうと思えば扱えるほどだった。
「意外と軽いな」
「でしょ? 異世界の人は力が強いから、意外と何とかなるんですって」
「あー……」
言われて、路地裏での出来事を思い出す。
馬車に撥ねられても怪我一つなく、殴れば相手の男が冗談みたいに吹っ飛んでいった。
やはりこの世界に来て肉体が大分強化されているらしい。
「って、あれ? 俺が異世界から来たって言ったっけ?」
ユルグにはまだ何もいっていないはずだが――。
彼女は笑うと、ラウンドシールドを差し出しながら言った。
「だって、見てれば分かりますよ。それにほら、うちにモノを売りにくるのって、大体異世界の人かその知り合いですし」
「そりゃまあそうか」
「ほら、これも」
「これか……」
右手に巨大メイス、左手にラウンドシールド。
武具を装備しただけだが、何となく強くなった気がしてくる。
「あら。悪くないじゃない」
「ですです。格好いいですよ!」
こちらを見ながら言ってくるメイと、さらにおだててくるユルグ。
両手を合わせてぴょんと跳ねている様子が可愛らしい。
「そうか?」
そういわれるとまんざらでもない気がしてくるから不思議だ。
メイスを軽く振ってみる。
まだちょっと体が重さに引っ張られる感じがするが、慣れれば何とかなりそうだ。
「まあ、どっちみち武器は必要だったしな」
「でしょ?ほら、良かったじゃない」
メイが頭を両手でガードしながら言ってくる。
そんな彼女のほっぺたを引っ張りながらミケは言った。
「しばらく飯はお前のおごりな」
「んぐっ……」
「仲がいいところ申し訳ないが――」
シバがクジの箱をしまいながら聞いてくる。
「残りの品はどうするよ。いっぺんには持って帰れないだろう?」
言われてガラクタの山をみる。
投げ槍1年分の存在感が圧倒的だ……。
いつも疑問に思うんだが、1年分ってなんなんだろうな。
「これ、買取とかできないのか?」
「悪いが返品、買取は不可だ」
シバはその出っ張った腹を撫でながら、その顔に笑みを浮かべた。
……最後に顔うずめさせてくれないかな、その腹……。
「――が、まあ使うまで値札つけて置いておいてやるよ。運が良けりゃ売れるだろ」
ありがたいんだか、ありがたくないんだかよく分からないことを言ってくる。
ふと外を見ると日は既に落ち、あたりは暗くなっていた。
「さて、用事も済んだし戻るか」
「んじゃまたな」
「気をつけて~」
店の中から手を振ってくれる猫の親娘。
……なんか映画でこんなシーン見たことある気がするな。
「じゃ、戻るわよ。あたし達の家に」
「だな」
前を歩くメイは、心なしか楽しそうに見えた。