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【4.衝撃(笑劇)の事実!!】

『起きて、宙花ちゃん、朝だよ?可愛い、僕の宙花ちゃん、キミの大好きなパパがキミを起こしてあげ…っ』



 頭も身体もまだ覚醒していない、早朝。


 あたしは本能のもと、布団を吹っ飛ばす勢いでガバリと起き上がり、枕元に置いてあったスマホのアラームをブチッと力任せに止め、そのスマホを向かいの壁に叩きつけ……


ようとして、ハッと我に返りそのままスマホを枕元に放り投げた。



うぅ~朝から何なんだよ、あのバカ親父め…

いつのまに人のアラーム勝手に操作して、こんな怪しい声吹き込みやがったんだ?!



 おかげで、朝からマリアナ海溝まで沈んだような最低な気分で目が覚めた。


 布団から出て、枕元に放り投げたスマホを開いて今の時刻を確認する。



「6時…あのバカ親父、なんつう時間にセットしてんのさ。ああ~ホント今すぐぶっ飛ばしたい~」



 このフラストレーションをどこにぶつければいいの!

と頭をかきむしって暴れていたら、この部屋のドアが開いた。



「ひろちゃん、もしかして起きた?」

と、爽やかな声であたしに声をかけてきたのは、我が双子の弟、宇斗たかと



「起こされたの、あのバカ親父に。あのおっさん、あたしのケータイのアラーム勝手にイジッてんだもん!」


「ああ~それはご愁傷様。あの変態、日本語通じないからなぁ」



自分の父親に対してあまりにもヒドイ言い草だが。



「宇斗、アンタそう言うけど、顔とか雰囲気とかその変態にそっくりだよ?」



 首を傾げて、ニッコリ笑ってやったら、


「ぐお~~!それは言わない約束だろーーー!俺はアイツとは血の繋がりはないんだ。俺は母さんの子だーーー!」


 そう叫んで泣きながら部屋から出て行った我が弟。



 その姿を見て、ナゼかすっきりした気分になったあたしは、姉として最低だろうか?

 いや、父さんに似てるから、アイツを苛めた感じで、うん、さっぱりした~!



 人身御供となった、弟へ心の中で合掌した後。



 心のうっぷんが晴れたあたしは、気分爽快と言う事でベッドから降りて、その小奇麗な部屋から隣のリビングへと向かった。





 今日がこの星陽学園の登校初日。



 あたしは寝癖が付いているまっさらな黒髪をガシガシとかきながら、洗面所へと向かう。



はぁ~とうとう今日からこの学園に通うのかぁ。



 また初めからクラスメートの名前やら学園の事を覚えたりしなけらばならない事に、かなり憂鬱になって思わずため息も出てしまう。


 おまけに、それ以上にあたしには、ありえない現実と、とんでもない使命が待ち受けていたのだった。



■ ■ ■



 あの、ゴールデン・ウィークのさなか、この学園を訪れた初日。

 あたしは、謙夜叔父さんから学園についてや寮での生活について、色々な説明を受けた。



 その中に衝撃の事実…

と言うか、むかっ腹が立つとんでもない内容があり、あたしはあの理事長室のりっぱなローテーブルを思わずひっくり返しそうになってしまった。



「はぁぁぁぁ!?い、意味がわかんないんだけど!!」



 目の前の親父そっくりな男に向かって、遠慮もへったくれもない大声で叫んでいた。



「も、もしかして、ひろかちゃん、廉夜から何も聞いてないの?」


「聞かないもなにも、あたしはここに転校してくれって事しか聞いてないんですけど?」



 つうか、その願い事だって渋々聞いてやったのだ。

 なのに、今、目の前のおっさんが言った内容は、あまりにもふざけた内容で、あたしは今でも信じられないくらいだ。




「確か、ここ共学になったんでしょ?」


「ああ。少子化の波に、ウチも逆らえなくてねぇ…3年前に女子も受け入れる事にしたんだ」


「なら、何で…」


「一クラスしかないんだよ」


「はい?」



 思わず出た間抜けな声に、謙夜叔父さんは苦笑しつつも丁寧に説明してくれた。



 この星陽学園は、昭和の初頭からエリートを育成する目的に建てられた学園で、幼等部から高等部まである、私立のエリート学校だ。

 昔は男子校だったが、近年の少子化に伴い、3年前から男女共学になったそうだ。

中等部と高等部はいわゆる全寮制で、その高等部は、ほとんどが中等部からの持ち上がりで、編入生は一桁しかいない。

その編入生はと言うと、スポーツ特待生と成績優秀生が有り、どちらも理事長の推薦がないと編入出来ない。

 一学年は6クラスあり、女子クラスは一クラスだけ。

 しかも、高等部のみが男女共学で、中等部は今だ男子生徒のみ。

 クラスはすべて成績順で、Sクラスが成績上位の特進クラス。

 その後、成績の良い順からA→B→C→Dと振り分けられ、女子クラスはLクラスと呼ばれている。



「高等部から女子を受け入れたんだけど、その受験生の数が半端ない位凄い人数で。最初から一クラスしか受け入れないと、募集要項にも書いたんだけど、物凄い数の希望者が殺到してね」



 それでも、教育内容の質を落とさないために、一クラス35人という人数しか取らなかったそうだ。



「この学園には裕福で将来有望な御曹子がたくさん在籍しているだろ?その女子たちのほとんどが彼ら目当てでココを受験するんだ。

もちろん、親公認でね」



 謙夜叔父さんは、そう言った後、はぁと大きなため息を吐いた。



「要するに、その一クラスしかない女子クラスは、いい男を狙っているハンターみたいな集団なんだよ。

聞くところによると、一年のウチで何人かの女子が自主退学している。

はっきりとした理由はわからないが、その女子の間で何かしらの苛めや行き過ぎた競争や闘争があるんだと思う。

ただ、女の子は俺たち男の前じゃ猫被るから、しっぽをつかまえるのが大変なんだよ。

今の現状を打開したいとは思っているけど、うまくいかなくてね」



ホント、情けない話だよ…

と、眉尻を下げて謙夜叔父さんは頭をかいた。



「でね、言っちゃなんだけど、そんな猛獣の中に、ひろかちゃんを入れるのは、危険だし、俺もキミのお父さんも大反対なんだ。それと、キミには大事な仕事があるから、女子の格好だと色々困る事があって…」


「だから、あたしに男子の格好をしろと?」



 その後に続く謙夜叔父さんのセリフをあたしが代わりに言ってやる。



「うん…キミは納得出来ないかもしれないけど」


「納得もなにも…」



 ぼそりと呟いたあたしに、

「え、何?」

と聞き返してくる謙夜叔父さん。



「納得も何も…それじゃ~あたし、彼氏できないじゃないのッ!」

と叫んで、あたしはソファーから立ち上がった。



「何それ?意味わかんないんだけど?

つうか、見てくれ平凡、よく言えばボーイッシュ、はっきり言えば男みたいななりのこのあたしが、男の格好したら、誰も近寄ってきてくれないじゃん!

せめて、スカートでもはいてたら、あ、あの子女の子なんだな!てわかってくれるけど、それさえなくなったら、あたし、どうすればいい訳?

高校入ったら、絶対、彼氏作って、ラブラブ生活エンジョイしようと思ってたのに、何で男になんなきゃなんないの!

男同士の友情なんてくそくらえだっつうの!

そんなの温めたくないし……


つうか、

あたしは胸キュンな恋がしたいんだーーーー!」



したいんだーーーー!



いんだーーーー!




と、エコーを響かせてあたしが心の中の思いを吐き出し終わった後、今まで黙っていた隣の男がぼそりと呟いた。




「…するのは勝手だけど、そんな相手見つかるの?」




 小さな声だが、爆弾並みの破壊力があるその言葉に、あたしはプシュ~と憤死し、サラサラサラ…


その場で灰になった。



「ひ、宙花ちゃん、大丈夫?」



 ソファーへと倒れた魂の抜け殻となったあたしを抱きかかえて、心配そうな目を向ける叔父、謙夜。



 あたしに爆弾を落とした張本人はと言えば、涼しい顔して、


「俺、忙しいから早くして欲しいんだけど」


と白けた目であたし達を見ていた。



 その後、あたしは怒る気力も起きず、死んだ目で謙夜叔父の学園での過ごし方などの説明を聞いていた。



 けれど、放心状態のあたしには馬耳東風、耳から耳へと見事スルーされ、彼の言葉をほとんど覚えていなかった。


 説明が終わった後、武琉クンに案内され、これまたどっかの高級ビジネスホテルのような寮へ行き、自分の部屋へと連れてこられたあたしは、傷心を癒すべく、ベッドに飛び込んでそのまま夢の世界に旅立ったのだった。



 と、まあ、そんな事がありつつ、ゴールデン・ウイークをこの寮で過ごし、明けた今日が初登校だった。



 その期間中に、ナゼか弟の宇斗が泣きながらあたしの部屋に飛び込んできた。



「ヒドイよ、ひろちゃん!何で俺を置いて勝手にこんなトコに転校してんだよ~」



 あたしを抱きしめながらよよよと泣き崩れた弟は、確かあたしと同じ公立高校に通っていたはず。



「て言うか、宇斗こそ、何でここに来たの?」


「俺もココに転校したから」


「は?」


「ひろちゃんがいない高校なんて、わさびの付いてないお寿司みたいなもんだよ~」



 またもや泣き崩れた宇斗。


……そのたとえ、意味わかるけど、あんまり嬉しくないよ?


「親父の奴、ひろちゃんの居場所、ちっとも教えてくれなくてさ。ひろちゃんの寝てる姿の写真をあげる条件でやっと白状しやがったんだぜ?」



 って、言われても…つうか。



「アンタ、いつの間にあたしの写真、勝手に撮ってんのよ」


「まぁまぁ…たった二人同士の姉弟、仲良くやろうよ」



 そのセリフに突っ込みどころ満載だったが、あたしは知り合いのいない学園で一人でやっていく事に心細さを感じていた為に、正直な所、宇斗が来て内心ホッとしていた。


もちろん、そんな事、絶対言わないけれど。



 そんな感じ(て、いいのかよ、そんな簡単に転校してきて)で、宇斗はこの学園に転校し、寮の二人部屋であたしと同室になったのだった。



■ ■ ■




「それにしても、この学園さぁ…無駄に金使ってないか?」



 共同リビングとキッチンのちょうど真ん中に置いてある、小さなダイニングテーブルに、宇斗は朝食の食器を片付けながら言ってきた。



「うん、あたしも最初そう思った」



 2LDKの風呂、トイレ付き。


 この寮の部屋にしたって、二人部屋と言いながら、6帖ほどの個室がそれぞれ与えられ、その個室に挟まれる様に個室より少し広いダイビングとこじんまりしたキッチンがあった。


 おまけにお風呂とトイレもそれぞれ別に付いている。



 ちょっとしたマンションじゃんかよ!

と突っ込みたくなる位綺麗なその部屋は、高校生が使うような代物では絶対にありえなかった。



 おまけに、ソファーやダイニングテーブルなどの家具から、テレビ、冷蔵庫やら食器類に洗濯機などの家電や食器などの生活雑貨。


 個人の部屋には机とノートPC、ベッドに本棚とクローゼットがそれぞれ付いていた。



 至れり尽くせりとはまさにこの事だろう。



 実家の自分の部屋より綺麗なその部屋に、これに慣れたら自分の家に帰りたくならないかもと密かに思ったあたしだった。



「親父の親戚って、超金持ちなんだな。俺、ちっとも知らなかったよ」


「あたしだって初耳だよ」



 ダイニングテーブルの上を布巾でふきながら、あたしは答えた。



 確かに父がどこかの会社の御曹司だったとは聞いたことはある。


 だけど、まさかここまでセレブな世界の住人だったとは……。


「でさ、ホントにその制服着るの、ひろちゃん」



 食器を洗い終え、キッチンから出てきた宇斗は、リビングにある二人がけのアイボリーのソファーの背もたれにかけてある、二着の制服を見た。



 釣られるようにしてあたしもそちらに視線をやり…

 そして、盛大なため息を吐いた。



「しょうがないじゃん。叔父さんに泣いて頼まれたし…父さんの男と男の約束の中にも、その条件が含まれてたらしいしさ」


「ちっとも意味わかんねぇよ、それ…まぁ、噂の女だらけの猛獣の檻に入れられるのは心配だけど、男だらけの中に放り込むのも心配なんだよなぁ。

ま、俺がずっと一緒にいられるから、そっちの方がいいんだろうけど」



 苦笑しつつ、宇斗は二着ある内の、大きい方の制服を手に取り、着替え始めた。

 あたしも、もう一つの制服を持って自分の部屋に行き、その制服に着替え始める。




 白のシャツに、紺色のブレザー。

 ライトグレーに紺のチェックが入ったズボン。

 グレーとクリーム色のストライプのネクタイを締めれば、完成。



 その格好のまま、部屋を出て、口をあんぐり開けてあたしを見ている宇斗の前を通り過ぎて、洗面所へ直行。


 自分のその姿をつま先から頭の天辺までしっかりと見て、あまりの違和感のなさに肩を落とす。



「なに、この違和感のなさ。似合いすぎ!

……つうか、全然何もいじらず、男の制服似合うってどういう事よ!!」



 鏡に映る自分に向かって叫んだけれど、そこに映っている平凡男子高校生が口を動かしているだけだった。



「ひろちゃん、可愛いい~!何着てもひろちゃんは、似合うし、ホント、めっちゃ可愛いわ」



 その声に振り向けば、とろける様な笑みであたしを見ている、腐った目と頭の持ち主約一名。



 そんな奴に褒められても嬉しかない!

と宇斗の前をまたもや通り過ぎて自分の部屋に行き、カバンを手にして玄関へと向かった。



「ひろちぁ~ん、写メ撮らせて~!」

という宇斗のセリフは、もちろん軽く無視させてもらった。




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