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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
序章 変わらない、いつもの世界
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#00-07 新しい居場所


特定の部屋が用意されているわけでもないので、風紀委員会は開いている会議室を借りて行う。そして、開始時刻は少し過ぎているのでドアは閉まっている。


「入りづらいなぁ……」


その時ポケットのスマートフォンが震える。


「着信?」


画面に表示されている名前は、


「――紫苑?」

『あ、あの奏さん。えっと、ですね……委員会の事なんだですけど』

「あー……えっと、そのことだけど。とりあえず来たことは来たよ、会議室」

『え!?そうなんですか!?』


ドアの向こうから人が走る音が近づいてきて、勢いよくドアが開いた。


「うおおおお、ほんとに来てくれた!」

「でかした河田!そしてありがとう静音様!」

「これで夏まで安泰だな!」

「ええっとぉ……」

「奏さん、とりあえず入ってください。あと先輩たちはもう少し静かにお願いします」

「ああ、すまん」


いつもより強気な姿勢の紫苑に戸惑う先輩方だったが、すぐに気にすることもなく紫苑に手を引かれて中に入ってくる奏に視線を向ける。

奏が置いてあるホワイトボードの前まで移動すると、同学年の河田君(名前は不明)が立ち上がる。


「申し訳ない、響さん。急に押し付けてしまって」

「あの、そのことなんですけど、もう決定なんですか?」

「あとはこの書類を生徒会に提出するだけです……響さんがどうしても無理とおっしゃるならなかった事にするので」

「夏までなの?」

「は、はい!通例では夏に交代になるけど………」

「そっか、どうしよっかな」


紫苑が横からすかさず夏までの活動予定を差し出す。


「……これぐらいだったら委員長なくてもいいんじゃないの?」

「それがそうもいかなくて……しかし、我々では響先輩の跡を継げるほどの統率力がなくてですね」

「そんな大したものが必要かな……というか姉さん何やってたの」

「静音さんが委員長になってから、校内の問題の6割が解決されたそうです」

「……なにやったの?」


奏が紫苑の方を見ると、紫苑が目を逸らす。


「まあ、それは後で姉さんに文句を言うときについでに聞こうかな……」

「お願いします、響さん。引き受けて下さい!形だけでもいいので!」

「そうだよな。響さんが委員長になってくれたら、士気も上がるし」

「いや、私一人でそんな」

「もう一切仕事しなくてもいいですから!居てさえくれれば!」

「――先輩たち奏さんと話したいだけじゃないですよね?」


紫苑の冷たい視線が2年生男子委員を射抜く。


「まあ、やるからにはちゃんとやるけどさ……書類頂戴」

「え?は、はい!」

「えっと、名前書けばいいのね?この副委員長の欄はどうすれば?」

「それは、委員長が決まってから決めようかと。決まったやつには来年も風紀委員をやってもらうことになりますけど」

「……じゃあ、出してくるね」

「ちょっと待ってください!」


部屋を出ようとした奏を紫苑が止める。


「今、副会長の欄に私の名前書きましたよね!?」

「いいでしょ?」

「いいですけど……というか私が断れると思ってるんですか?」

「思ってない。ま、出しに行くのは後でいいよね?委員会するんだから議題があるのかな?河田君。私、今就いたばっかりだから何にもわかんないよ?」

「あ、今度資料を渡しますね!それじゃあ、挨拶運動と、3月までのイベントにおける風紀取締りについて俺の方から話しますね――――」


委員会自体は20分ほどで終わった。

ほとんどの委員が自分の役割をしっかり理解できているせいで余計な時間がとられることもなかった。思ったよりも楽そうだと、安堵の息を吐くと、机のプリントを掴んで奏は立ち上がった。


「じゃあ、私はこれ出してくるね。えっと、河田君、何かあったらまた聞きに行くから」

「は、はい!あれだったら、アドレス教えるのでいつでも!」

「……奏さん、家に静音さん居るんですからそっちに聞いた方が速いと思いますよ」

「あ、それも、そっか」


河田の奏とお近づきになろうという野望は意図して紫苑に阻まれる。


「くそう、池内さん滅多にしゃべらないキャラだったのに。奏さんに近づこうとするとすごい勢いで阻んでくる」

「というか、ほんとに。連絡事項以外で声聞いたの初めてだわ」

「1年のクールビューティーが響さんが来た途端満面の笑みだもんな。びっくりした」

「というか響さんと言葉を交わせてる時点でお前はこの学校の全男子よりグレードが上になったぞ、河田!」

「マジか。2組のチャラリア充よりか!?」

「おう!そんな奴、目じゃないね」

「というか、先輩。前委員長に妹がいたのは知ってましたけど、今日初めて見ましたよオレ!」

「あ、オレも!」

「当たり前だ。響さんの存在は静音様によって情報封鎖されてたからな!だが我々2年は何かと拝顔する機会が多いのだ」

「ただ、橋上の奴がずっとへばりついてるせいでまともに会話まで行けないしな」

「突貫で告白しようとした奴が消されたっていうのは聞いたことあるけど」


「あ、この部屋の鍵とかって」

「大丈夫です!この河田が返しておくので!お疲れ様でした!ありがとうございます!」


何人かが河田に続いて奏に挨拶をする。

その光景に、なんだか懐かしい空気を感じた奏は少し微笑みを浮かべながら「お疲れ様」と返して部屋を出た。

その隣には当然の様に紫苑がいる。


「あんまり先輩たちを甘やかしちゃだめですよ」

「え?どういう事?」

「……いえ、やっぱいいです。奏さんは私が守りますから」

「よくわかんないけど、よろしくね?」


紫苑の頭にそっと手を置き軽く撫でる。


「じゃ、生徒会室にいこっか」

「は、はい!」


生徒会室の扉をノックし、開けると会長は不在、副会長と書記が残って作業をしていた。


「あれ?響さん、どうしたの?」

「藤原君、これよろしく」

「え?……風紀委員長になるっていう噂ほんとだったんだ」

「響さん、生徒会長にも推されてたし。すごいよね」

「藤原、その書類って会長のサイン要るんだっけ?」

「いや、いらない奴。確かに受け取ったよ、響さん」

「じゃあ、用も済んだし帰りますね」


何か会話を試みようとしていた藤原だったが奏は迷わず部屋の外へ出る。


「帰りますか?」

「紫苑、この後用事は?」

「無いです」

「じゃあ、ちょっと部室に寄ってから遊びにいこっか」

「はい!でも部室に何をしに?」

「ちょっとね」


生徒会室がある3階から2つ階段を下り、文芸部の部室の扉を開く。

中にはそれなりの数の部員がいるが、特に何をしているというわけでもないようだ。


「ああ、響さん。ちょうどよかった。部長の件なんだけど」

「ちょうどよかったです。私もその件についてなんですけど」

「次期部長、引き受けてくれるかい?」

「いえ、私部活辞めるので、それでは」

「え!?ちょっと、それはどういう!?」

「あ、それでは私も辞めます」

「池内さんまで!?どうしたの急に!?」

「まあ、それほど思い入れもないですし。風紀委員長もしなくちゃならないので」

「奏さんに同じく。私は副ですが」

「それでは、受験がんばってくださいね、北条先輩」

「お疲れ様でした」


紫苑が戸を閉じる。

扉の向こうは大混乱が起きているようだったが、奏はすっきりした表情をしていた。


「よっし、あとは夏まで委員長するだけだね!」

「奏さん、どこ行きますか?」

「んー……甘い物が食べたい」

「じゃあ、何かスイーツのお店に入ってお茶しましょうか」


世界は少し変化し、前へと進む。


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