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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第4章 境界の海、2つの夏
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#04-12 計画実行




大騒ぎの宴から一夜明け、騒ぎ疲れてか若干だるい体を起こしながら、静音が目覚めた。

時刻は、11時を過ぎたところ。

いつもならば、こういう時に限り無駄に早起きな音羽や、生活リズムが一定している奏が一度ぐらいは起こしに来てもいいように思えるが、今日はそれがなかった。


自分の部屋を出ようとベッドから降りようとしたところで、隣にいる漸苑がまだ寝ていることに気付く。そういえば昨夜泊めたな、と思い出しながら漸苑を起こすことにする。


「おはよ、漸苑」

「ぅーん……。あれ?静音?」

「そうよ。おはよ」

「今何時?」

「11時ぐらいかしら」

「結構寝たね……というか、11時にしてはやけに静かじゃないかい?」

「そうね、私もそう思っていたところよ。とりあえず、音羽の部屋を見に行くわ」

「ふむ。なんか嫌な予感がするから私も同行しよう」


2人で静音の部屋を出る。

そして隣の音羽の部屋へ。


音羽の部屋に入ると、概ね予想通りの光景があった。

布団の上で寝ているシルヴィアとベッドの上で重なって倒れている音羽と瑠依。恐らくあの後もしばらく騒いでいたのだろう。瑠衣はトランプを握ったまま寝ている。


「まだ寝てるか」

「という事はだよ。後何人かいて、紫苑と奏ちゃんぐらいは絶対起きてると思うんだけど。その気配がないね?」

「そうね。ヤバいわね」


音羽を雑に起こした後、すぐさま奏の部屋を開ける。

この部屋には奏と紫苑が寝ているはずだが……二人ともすでに起きているのかその姿はなかった。


「……漸苑、ダイニング見てきて」

「任された」


静音は奏の部屋の隣の客室――イーリスと七海の部屋を開けた。

そこには早起きが苦手なイーリスの姿すらなく、いよいよ嫌な予感が的中したことに気付く。

そして、ダイニングに降りると、


「静音、どうやら、いないようだよ。靴も見てきた」

「あーあ……この場合って、警察?それとも遥人?」

「遥人でいいんじゃないかな?」



とある会議室の一室。よく似た3人の少女が会議をしていた。


「どうも安定しませんし、魔物の発生率も大幅に上がってますねぇ……」

「アザレアにもわかりませんか?」

「ええ、まあ……というか、リオン。あなたにわからないことは基本的には私もわかりませんよ?」

「まあそうなんですけど、ベースは一緒ですし……カメリアはどうです?」

「ダメですね。ルイズ連れてあちこち走り回ってるけど、何もわからないわね。星影は?」

「あら?そういえばどこに行ったのかしら」

「いつもの気まぐれでは?」

「うーん……少なくとも100km半径にはいないようですけど」

「珍しいですね、竜の谷にでも行ってるのでしょうか?」



朝。

良く晴れた夏の朝の公園に、12人の制服を着た人影がそろっていた。


「さて、皆よく集まってくれました」

「当たり前ですよ。こんな面白そうなこと、オレたち抜きでされたら逆に怒ってましたよ」

「そうですね。今回ばかりは辰哉に同意します」

「それで、奏さん。今回はどういったスケジュールで?」

「まず、私と明日香が直接乗り込みます」

「了解です」

「その後向こうからゲート開くから、紫苑とイーリスでこちら側開けて?」

「わかりました」「お任せください」

「じゃあ、それまでは捕まらないようにね?」

『了解です』


奏が明日香に目配せをした瞬間、二人の姿が掻き消えた。

最大限のバフを掛けた二人の姿が人類の目に映るはずもなく、一瞬で海岸まで出る。

位置的にはおそらく東京都と千葉県の境目当たり。そこでためらいもなく奏は召喚の魔法陣を開くと、海に向かって体を躍らせた。

勿論明日香もそれに続くが二人が海に落ちるようなことはなく、魔法陣から飛び出した黒紫の竜が二人を拾うと、音を越えた速度で東へと飛び去った。


余談だが、千葉県のテーマパークで城の上を飛び去る竜の姿があったとかなかったとか。


「久しぶりね、星影。元気してた?」

「ええ、元気よ。まさかまた呼ばれるとは思ってなかったけど」

「そう?明日香が一回嵐を呼んでたはずだけど?」

「本当?聞いてないわね。今度会ったら羽を毟っておくわ」

「あはは……お手柔らかにね?」


あっという間に目的地の霧の中へと飛び込んだ星影は、突然その速度を緩めた。


「なにか結界みたいなのがあるけど」

「私が裂くから気にせず進みなさい」

「ええ、わかったわ」


不可視の壁のような何かに当たろうとしたとき、一瞬奏が刀を抜き、それを裂いた。


「お見事です」

「とりあえずこれではいれるわね?」

「ええ、というかもう入ったわ」


霧が晴れ、目前には大陸が現れた。


「ここどのあたり?」

「トラドの街の南、旧ゼリ領の南側っていった方がわかりやすいかしら?」

「へえ、魔人領も結構綺麗になったんだね」


以前の荒廃した様子はなく、ところどころに草花が咲き、心地よい風の吹く風景に安心感を覚える。


「良かった。うまくいってるみたいね」

「まあ、最近は少し歪が出来てるけど、その原因も今わかったし……まさかつながるとはね」

「うん。こっちでもいないはずの魔物が湧いててちょっとまずいし、こっちの様子も気になったから見に来たの」

「へえ、それはご苦労様ね。で、あなたたち二人だけ?」

「ううん、残りも呼ぶから待ってて」


そういうと、明日香と二人で魔法陣を形成し始めた。



『あー静音さん?言いたいことはわかってるよ。今対処中』

「ちょっと油断したらこれよ。びっくりだわ」

『ほんとにやらかしてくれるよね……今、瑛大たちが向かってるから』

「何とかなる?」

『どうだろうねぇ……』



『こちら奏、今からゲート作るよ』

「了解です。こちらも受けます――という事です皆さん。時間稼ぎお願いします」

「任されましたぁっ!」


瑛大、翔、洋の三名を高い練度と連携で弾きながら残りの8人が吠える。

イーリスと紫苑という主戦力が抜けたが、それにしてもたった3人で抑えるにはきつい戦力だ――という事で、


「戦力投下!」

「あ、卑怯だぞ!瑛大!」


東京に来ていた見知った顔の戦士たちが一斉に強襲を掛けた。


「大丈夫だ、辰哉」

「いやいや、数的にはヤバいぞ?しかもいつもの雑魚じゃないんだぞ?正気かよ、翼」

「このぐらいなら、何という事はない」

「――これでもか?」


青い炎を纏った燕真が戦場に乱入し、その後、

瑛大が真紅のオーラを、翔が金のオーラを纏いそれぞれ、剣と盾を構える。


「うわ、なにあれ、つよそう」

「小学生並みの感想だな」

「海翔、愛美、燕真さんを抑えろ。オレと美咲で瑛大さん、リゼットは悪いが一人で頼む」

「任せろ」「ええ、いいわよ」

「もちろん、今度は上手くやるわ」

「勝たなくてよろしいならさほど難しくはありませんわ」


「私と七海さんは雑魚狩りだね」

「ええ、まあそうやけど……それ言うたことで敵意がすごい向いてるで?」

「七海さん、口調口調」

「おっと」


「紫苑さん、どれぐらいで開きますか?」

「あと2分ってところですね。開ければ一人で維持できますので、イーリスさんを護りに回します」

「わかりました。行くぞ!」


翼がそう声を掛けた瞬間、萌愛・七海・翼・愛美が白い炎に、美咲・海翔が紫黒の炎に、リゼットが碧緑の炎に包まれる。


「おい、お前らなんだそれ。ずるくないか?え?っていうかなんでオレ以外全員使えるの?」

「あとでイーリスか明日香にでももらえ!油断するな!」


「ちっ、愛美の神儀典装は初見だから能力がわからん!」

「だから私がここに居るんですけどね!」

「おっと、オレのも初見では?」

「忘れてた!」

「ひでぇや」

「だが、今ここで切り捨てれば」

「いや、死にますからね?……っと」


海翔が黒紫の盾で燕真の攻撃をはじくと、その直後、強い衝撃が燕真の剣を襲った。

あまりの衝撃に剣を取りこぼす燕真。


「!?――反射能力か!?」

「ご名答。星降盾・逆鱗です」

「だがここまでの威力はなかったはずだが?」

「それは私の能力です。制限は大きいですが、ダメージ量の操作が私の無限珠・無量の能力です」

「……パワー型のオレには最悪の相性だな」


「ところで、翔さんのは誰の神儀典装なんですの?」

「音羽だよ」

「うわ、最悪ですわね。勝てる気がしませんわ」

「そう言いつつ、ねえ、こっちの攻撃全然通らないんだけど!?」


凄まじい光を散らしながら連撃を浴びせている翔だったが、不思議とリゼットにはかすりもせず、すべてがその剣で受けられている。


「なんで!?」

「イーリスの神儀典装ですので、もちろん守りに特化しますわね。まあ、わたくしのは剣ですので」


リゼットが剣を地面に突き刺すと、魔力の茨が突如生え、翔を襲った。


「キャンセルした分の攻撃もできますわ」

「最悪の相性!」


「おいおい、向こう二人メタって、こっちはシンプルにやりづらい組み合わせかよ!」

「御託は結構です」

「うわっあぶなっ!」


すれすれで美咲の剣を躱し続ける。

さっきからずっと瑛大からの攻撃はすべて翼が受け、スイッチして美咲が飛び込んでくる。

何ともやり辛い組み合わせである。


「そろそろ2分か」

「は?何が――!?」


翼がつぶやいた瞬間、ゲートを維持していたイーリスから何らかの魔法が放たれ、領域内にいた瑛大たちのみが吹き飛ばされた。


「よっしゃ、撤退だぜ」

「辰哉何にもしてないじゃん」

「いや、オレだってしんぎなんちゃらもらってればもうちょいだな……」

「いいから入って」


一瞬で身をひるがえしゲートの向こうへと消えていく元7番隊の一同。


「ちょ、ま」

「ご安心を、3日ほどでもどりますので」

「いや、そもそも向こう行くことを許容してない……」

「では、失礼します」


最後に紫苑がゲートをくぐると、その場所は派手に爆発を起こし、土煙が晴れるころには、ゲートは消滅していた。


「――えーっと、こちらシルト1。目標取り逃がしました、どうぞ」

『なにやってんの?そんだけ数いたのに?』

「いや、七海と萌愛の神儀典装のせいで追加メンバー全員抑えられちゃって」

『君たちだって神儀典装使えるでしょ?』

「いや、こっち3人使えたけど、向こう7人だからね?」

『まじかよ』

「マジだよ」

『……まあ、ヤバいことにはならないと思うけど』

「いやいや、こっちの戦力どんだけ落ちると思ってんの?またオーバーワークになるよ?」

『まあ、女神4人と神儀典装持ち7人……いや、向こうで辰哉ももらうか、とにかくこの戦力がいなくなったのヤバいね』

「オレ、貰ってないの辰哉だって言ったっけ?」

『こういう時一人だけ貰わないのは辰哉かなって』

「ひでぇ……あってるけど」


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