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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第4章 境界の海、2つの夏
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#04-09 響家の食卓


奏たちは片づけや情報操作を手伝う事を基本しないため、戦闘終了後さっさと帰宅していた。

彼女たちが残っている方がマスコミ対応的に問題になるため、現場に残られる方が面倒だというのが遥人の意見である。見た目がよい分余計に目立つのだ。


「という事で、今日も大量のご飯を炊きました」

「壮観ですね」

「もう大きな炊飯器買おうかな?給食で使うような奴より一回り小さいぐらいの奴」

「いくらするんですかね?」


「ただいまー」「お邪魔します」


玄関から音羽と瑠依の声が聞こえる。


「お姉ちゃん、お腹空いたんだけど?」

「今からオムライスの製造に取り掛かるところだよ?」

「うわぁ、量凄いね。手伝う……けど、ちょっと先にお風呂入ってくるね」

「今、イーリスが使って……ん?戻ってきたね」

「よーし、瑠衣。お風呂行くよー」

「え?一緒に入るの!?」

「すぐに静音お姉ちゃんと漸苑さんが来るしー」


「とりあえず、これ全部チキンライスにするの?」

「大変そうですね……」


奏と紫苑が黙々と制作に取り掛かる。

なお、明日香は追加の米を炊くために、米を磨いでおり、萌愛と髪を乾かし終えたイーリスは玉ねぎや鶏肉を刻んでいっている。


「私も何か手伝えれば良かったのですが」

「リゼットは、料理苦手そうですもんね?」

「ええ、まあ、苦手ですけど、面と向かって言われるとむかつきますわ、イーリス」

「実家にはお手伝いさんとかいるんでしょう?」

「確かに居ますけど……」

「そんな気はしてました」

「うわ、なんかすごく腹立ちます」

「しかし、この量の玉ねぎを刻むとすごく匂いが染みつきそうですね……後でもう一回お風呂を借りましょう」

「そうですね、横に立っているだけですけど目と鼻に結構来てますもの」


「アルマさんは、普段お料理はするんですか?」

「明日香さん、そんなに畏まらなくても……」

「いえ、これが素なので……それで、どうなんです?」

「そうですね……うちは割と裕福な方で」

「ああ、そういう……」

「でも明日香さんもお金持ちだと聞きましたが?」

「いえ、うちは古いだけでそれほど……」

「ほんとですか?」

「ほんとです。じゃあ、なんかパーティーとかそんなのでクロエさんと出会ったわけですか?」

「確かにそうですけど」

「ふーん」

「聞いといてなんですかその反応……」


「萌愛さん、私もやってみたいです」

「え?流石にハリウッド俳優の娘に包丁持たせるのは私でも躊躇うんだけど」

「ハリウッド俳優の娘でも料理ぐらいします」

「というか、クロエさんが携わると毒物が生成されそうで――あの頃のトラウマが」

「今はしませんよ!」

「いや、私たちどれだけクロエとキクロの研究室踏み入って除染とかしてたと思ってるんですかほんとに」

「その節はご迷惑をおかけしたけど、今は関係なくない?」

「リゼットは丸焦げでクロエは鍋を爆発させるタイプだと思うね」

「風評被害!」

「というか私まで侮辱されませんでした?」


しばらくして、音羽たちが戻ってくる。

黙々とフライパンを振るっていた奏がそこでギブアップを宣言。


「音羽、疲れたから変わって」

「あいよー。味付けはいつものでいいの?」

「うん」

「あ、そういえば、ポストに手紙入ってたよ」

「何語の?」

「アルファベットらしきものではあった」

「お母さんだろうけどさぁ」


音羽が玄関に放置していた手紙を回収する。

確かにアルファベットだが、英語ではないことは一目瞭然。

消印を見るに、


「フランスかー」

「ちょうどよかったですね」

「そうだね。リゼット、ちょっと頼みがあるんだけど」

「はい、なんなりと」

「これ、翻訳してくれない?」

「えっと、このお手紙は?」

「たぶんお母さんから。あ、たぶんどうでもいいこと書いてると思うから、重要そうなワードだけピックアップして教えて」

「了解です」


二枚分の手紙をさらっと読んだリゼットは、奏に告げる。


「前半は、ヨーロッパを見て回った感想、とかそういう感じだと思います」

「うんうん、それで?」

「後半、というよりも最後の行にさらっと近いうちに帰る、と書かれています」

「マジか」


「「ただいまー」」「……邪魔をする」


「今ただいまが二つ聞こえた気がしたんだけど?」

「姉さんですね」

「なるほど、じゃあいいや。姉さん、漸苑さん、先お風呂入る?」

「燕真、先入ってきなさい。私たち時間かかるから」

「いいのか?」

「あなた風呂速いでしょ?」

「まあ、そうだが……」


「あ、姉さん。お母さん帰ってくるって」

「え?なんで?」

「なんで、ってそれは酷いと思うんだけど、静音」

「だってね、漸苑。お母さんが帰ってくると面倒が増えるの」

「この言いよう」

「それより、今回は手紙読めたのね?」

「今回はフランス語だったからリゼットに読んでもらった」

「なるほど、ありがとうリゼット」

「いえいえ」

「それで、晩御飯だけど」

「今フル稼働で作ってる」

「……炊飯器買い替えようかしら」

「それさっき奏さんも言ってました……」


繁忙期の食堂のごとき忙しさで、調理を進めていった奏たちが、ようやく自分たちの分の食事を作り始める。

三姉妹に加えて、イーリス、リゼット、明日香、漸苑と紫苑に、萌愛と燕真、それに急遽増えたクロエとアルマで総勢12人。

大家族並みの激務を処理した奏が念のため声を掛ける。


「全員食べたよね?」

「奏、私の分がまだだわ」

「あー、そうだった、じゃあ、先にお母さんの分を……え!?お母さん!?」

「なんでいるの!?」

「え!?いつの間に?!」


三姉妹総出で、というかその場にいた全員がしれっとダイニングのテーブルについている女性の姿を見て驚いた。


「なによ、もうすぐ帰るって言ったでしょ?」

「その手紙来たの今日なんだけど……」

「あら、そうだったの。それはそれとして、ご飯は?」

「え?ああ、はい」


奏が持っていたお皿を紫苑に渡すと、紫苑が律の前にお皿を運ぶ。


「あら、ありがとう」

「いえ……あの、お初にお目にかかります。池内紫苑、と申します。こちらは、姉の漸苑です」

「漸苑さんは何度か見かけたことがあるわね。妹さんの方は……ああ、奏の彼女ね?」

「お母さん、ちょっと待って」

「そうです」

「しーおーん!」


悪乗りした紫苑を珍しくやや怒った奏がリビングの外に引っ張っていく。


「今日はパーティーかなにか?」

「うーん、最近はずっとこんな感じだよ?ねえ、お姉ちゃん」

「そ、そうね」

「ふーん……ところで、一人だけ男の子がいるけど」

「あー、それは静音お姉ちゃんの彼氏」

「なるほどねー」

「扇子燕真と申します。これは妹の萌愛です」

「よろしくお願いします。音羽とは同じ学校の同学年です」

「なるほどなるほど……まったく、静音ったら。はやく紹介してくれればいいのに」

「日本にいない人にどうやって紹介しろって言いうのよ」


「(あんなことお母さんに言ったら面倒なことになるでしょ!)」

「(はい、すみませんちょっと調子に乗りました)」

「(紫苑が嫌とかじゃないけど、お母さんのことだけは気を付けて)」

「(!……はい!)」


廊下からかすかに聞こえる奏と紫苑の話し合いにため息をつきつつ、静音は母の方に向き直る。


「それで、なんかホームステイがどうとか言ってたのは」

「あ、私です。イーリス・アヴァロンと申します。アメリカから参りました。それともう一人、シルヴィアという子と一緒にお世話になっています」

「いいのよ、女の子なら大歓迎」

「あ、ありがとうございます」

「まあ、私がどうこうするわけでもないしね」

「お母さん、今回はいつまでいるの?」

「明日には出るわよ」

「はや。次はどこへ?」

「アメリカ。なんか軍事的なあれでいざこざがあったようだからそれについての話をまとめに……」

「あー……あれね?」


思い当たる節があるので静音は目を逸らす。


「じゃあ、お母さんはお風呂入って寝るから」

「お湯抜いちゃったわ。音羽、悪いけど入れなおしてくれる?」

「おっけー。じゃあ、お皿は任せた」

「はいはい。燕真、萌愛そろそろ帰らなくていいの?あと、明日香とリゼットも」

「そうだな。帰るか」「お邪魔しました!あとご馳走様でした!」

「じゃあ、私たちも」

「あ、そうだ。まだお名前を聞いてなかったわね」

「え?私ですか?えっと、奏さんの友達の丹波明日香です」

「そちらの方は?」

「明日香さんのうちにホームステイしています、同じく奏さんの友人のリゼット・ル・フォールと申します」

「はぁ……また大層な名家の子ばかりで。ルフォールさん、あなたのお父様には何度かお会いしたことがあるわ。丹波さん、あなたのお母さまにも」

「「そうなんですか?」」

「で、そっちの二人は?」

「えっと、クロエ・ヒューイットと申します」

「アルマ・ベンフィールドです」

「…………静音。あの子は昔からやらかす子だったけど」

「まあ、そういう事よ、お母さん」

「ヒューイットさんのご両親は映画でしか見たことないけれど、ベンフィールドさんのお父様には一度お会いしたことがあるわ」

「……いや、奏云々より、お母さんが何者なのほんとに」


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