#04-08 女神の遊戯<ジェノサイド>
紫苑がクロエを、捉えたまま奏の前に連れていく。
捕獲されている割には、クロエはご機嫌である。
「で、何で逃げてるの?」
「警備がうざったくて逃げました」
「はあ……なるほど?ご両親は?」
「父は仕事です。母はどこかにいるんじゃないですかね?あの人どうも苦手なので……」
「日本に来たら奏さんに会えるかも、とか冗談で言ってたんですけど本当に会えるとは思いませんでした」
「こっちもまさか見たことある娘が二人も前から走ってくるとは思わないけどね……紫苑、もう放していいよ」
「わかりました」
そこへ明日香たちが合流する。
「奏さん、何がどうなったんです?」
「明日香、ちょうどよかった。クロエとアルマよ」
「うわ、久しぶりですね」
「明日香さん、お久しぶり――って、イーリスとリゼットまで。二人は日本人じゃなかったような……」
「ええ、今は奏さんのうちに遊びに来ています」
「私は明日香のうちにお世話になってます」
「いいなぁ、私もそういうのがよかった」
「クロエ、ちゃんと帰らないと、小父様が大騒ぎするよ?」
「そうなんだよね。なんで過保護なんだろうあの人」
のんきに世間話に興じている一行であったが、奏たちの周りには騒ぎを聞きつけた人が集まっている。
「うわ」
「そろそろ移動しましょう」
「この人たちどうしよう?」
「捨てて行っていいですよ。もう撒こうとしないから、残ってる2人はついて来て」
意識のある護衛に人垣を割らせてクロエを先頭にショッピングモールを出る。
外は日差しが非常にきついが、湿度は比較的に少なくカラッとしている様子だ。
「なんか今日はじめっとしてませんね?」
「そうだね?なんでかな?」
「嫌な予感がします――明日香さん」
「あ、了解です」
明日香がバイザー型のそれを装着し、索敵を行う。
「と、く、に異常は――見つからな……いや、ちょっと待ってくださいね」
突然、明日香がアスファルトに手をついた。
「熱っ」
「……何やってるの?」
「うっかりしてました。というか、下に居ますね」
「下?」
「下水道?でしょうか、地下鉄でしょうか?なんにせよ地下に何かいますよ」
「……今日はおうちに帰ろうか」
「そうですね」「それがいいです」
紫苑と明日香が追従して頷いたところで明日香に通信が入った。
『フリューゲル3の索敵に反応アリ、地点は東京都地下全域です。交通機関への影響が懸念されるため速やかに排除を行ってください』
「……奏さん」
「とりあえず、荷物もあるし、一旦帰ろっか?」
「あ、いつもの奏さんだ」「気が楽になりますね」
リゼットとイーリスを連れてさっさとタクシーを拾う奏たち。
それを見たクロエは、
「アルマ、アレ持ってきてる?」
「いや、そもそも国外への持ち出しが出来ないから」
「じゃあ、どこかで調達しなきゃね?」
「どこかって?」
「製造元、かな?」
2人の少女と護衛(というかSP)もまた移動を開始した。
◇
奏たちが荷物を置きに帰っている間もどんどん無線のログが流れていく。
槍1:『スピアー1、地下鉄構内に潜入開始だよ』
槍2:『同じくスピアー2、入りました』
盾1:『シルト1、地下入ったぞ』
剣1:『シュベルト1-5、あと、フリューゲル3、所定位置に待機完了。万が一地下からあふれたときは俺たちが叩く』
剣2:『地上はうちとシャッテンに任せなさい』
盾1:『それはいいんだけどよ、なんでオレら下水なわけ?』
遥人:『ははっ』
盾1:『遥人あとでシバく』
盾4:『というかタロが免除されてんのが気に入らん』
盾2:『奴は今彼女と夢の国デートの真っ最中ですからね』
盾4:『オレも中二病こじらせればワンチャンあるかね?』
盾1:『ねーよ』
鈴音:『早く仕事してください』
槍2:『私たちは潜入地点の関係上中心部から少し離れてるんですけど』
遥人:『そっちにはフリューゲルがいるから問題ないでしょ』
鈴音:『さっきから連絡に応答しませんけどね』
遥人:『あれぇ!?』
「まあまあ、一旦荷物置いたらすぐ行くから」
「すごい余裕ですね、奏さん。そういうところも好きです」
電1:『エレクトロン配置完了』
電7:『ひゃー、下水とか地下鉄とかで戦うのってすごいそれっぽいね』
鈴音:『シャッテン隊、工作を開始してください』
影1:『了解』
「よし、着いた!紫苑と明日香は持ってるね?」
「ええ」「勿論」
「イーリスとリゼットは私の予備貸してあげる」
「え?」
「なんで予備とか持ってるんです?」
「ちょっと遥人さんに脅迫して」
「流石です、奏さん」
電3:『あの、ちょっとシャレにならない量の敵がこっち来てるんですけど』
鈴音:『成功しましたか』
電2:『あんまり聞きたくないんですけど、何したんですか?』
鈴音:『東京から離れられる方が面倒なので、逃がさないように追い込んでいます』
盾1:『死ぬわ!』
槍2:『うわ、物理無効ゴースト系が大量に……』
剣4:『ちょっと、こっちもやばい量出てきてるんだけど?』
準備を完了した紫苑と明日香が、奏たちを待ちながら戦況を確認する。
「だいぶ盛り上がってますね」
「悪い方向に、ですね……」
「うわ、日本の制服可愛いですね?」
「アメリカとフランスのもなかなかいいね、おっと、二人ともお待たせ」
「奏さんも来ましたし、行きましょうか?」
「ですね」
「配置は前が私とリゼット、中に紫苑とイーリス、後ろは明日香でOK?」
「「「「OKです」」」」
「じゃ、急いで入るよ。最寄駅からのまま線路の上走ろう」
電1:『エレクトロン、消耗大』
遥人:『わかった、撤退準備』
電6:『MPが足りないっす』
電4:『ですね。魔力が使えないから広範囲攻撃ができません』
盾1:『エレクトロン抜けたらヤバくないか?』
盾4:『流石に無理だぞ』
盾2:『応援ください』
槍1:『無理!』
剣1:『同じく』
剣2:『というかどれだけいたのよ、地下に敵』
鈴音:『ボス級のモンスターを倒せばある程度戦力は落ちるかと』
盾1:『ボス?』
盾2:『ああ、たぶんあれですね』
盾4:『いやいやいや、あの汚水の塊みたいなのがボス?』
盾1:『下水スライムと名付けよう』
槍2:『最悪ですね』
盾4:『控えめに言ってすごい臭いんだけど』
盾2:『どう考えても物理効きませんよね、コイツ』
電1:『エレクトロン撤退開始』
電8:『逃げれますかね、これ』
電5:『敵速いですっ!?』
電2:『うわぁ、もう最悪』
翼1:『お待たせ』
鷹1:『ホーク1、これより、戦闘を開始します』
華1:『フルール1、これより戦闘に参加しますわ』
電4:『え?誰?』
盾1:『初めて見る隊だな』
遥人:『あと二人ほど救援が行ったよ。まったく……』
鷲1:『イーグル1、暇つぶしに参加しますね』
鷲2:『米国所属イーグル隊、フリューゲル隊指揮下にて戦闘を開始します』
盾2:『つまり、米国のトップチームの3人とフランスの試験小隊の隊長さんが参加してくれてるわけですね』
遥人:『なぜか指揮権はフリューゲル1に投げてるけど』
翼1:『うわ、ナニコレ。触りたくない』
翼2:『最大火力で消し飛ばしましょう』
翼4:『浄化系の術ですね』
鈴音:『いいことを思いつきました』
盾1:『嫌な予感しかしない』
盾4:『だな』
鷹1:『うふふ、リゼット、前は任せますね』
華1:『ええ、お任せを』
鷲1:『私たちも急いでフリューゲルに合流するよ』
鈴音:『合流はせずに、こちらの指定するポイントにお願いします』
鷲1:『了解です!』
停車している電車からはもうほとんど避難が終わっているようだったが、まだ少し人が残っている状態。
奏はそんな駅のホームに立ちながら、術式を展開する。
「あ、奏!――ってなんかすごいことになってるね」
「尋、早く避難しちゃって。危ないから」
「え?」
「火力過多で人間も一緒に浄化しちゃうかも?」
盾1:『おいこら、こっちまだ普通に戦ってんだぞ!』
盾2:『え?オレらも浄化されるんです?』
翼3:『こちら3番、4番に合流です』
翼4:『ありがとう、助かります』
剣1:『いつの間に……』
翼2:『配置完了』
鷹1:『こちらも』
鷲1:『OKです』
鷲2:『ふふふ、私の古式魔法、どうやら聴いているようですね』
翼4:『つきました。展開します』
鈴音:『こちら鈴音。天頂位置への移動を完了しました。術式を開放します』
盾1:『あ、死んだかもしれん』
盾2:『短い人生でしたね』
「それでは皆様ご照覧あれ」
地下の一番深い位置で奏が声を上げる。
「女神6人の力を使った浄化術、正八面浄化結界」
地下空間を灼き尽くす様な異常な光量が発せられる。
地下の奏と地上の鈴音、その間位に4人。無駄に計算された美しい正三角形8枚によって中に封じられた魔物は出ることも叶わず、その中で消滅した。
剣2:『うちの妹がついにマップ兵器に』
槍1:『くそー、近くに居たら参加してたのに』
遥人:『シルト隊生きてる?』
盾1:『ギリ』
盾2:『死ぬかとは思いました』
剣1:『洋はどうした?』
盾2:『“浄化”術ですからね』
盾1:『不浄な存在であるアイツは……くっ』
盾4:『おいおいおいおい、勝手に殺すなよ!』
槍1:『あ、生きてた』
盾1:『装備の耐久度はがっつり削れたんだけど、心なしか装備がきれいになった気がする』
剣1:『マジか』
「まあ、こんなものかな、撤収!」
翼2+他7名『了解』
遥人:『ほんと君たち奏さんの言うことは良く聞くよね……』




