#04-05 日本の観光
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イーリスたちが日本にやってきて一夜明けた。
一般住宅であればこうはいかないが、三人姉妹という家族構成故か広めの響家では、部屋が余っているため客人を迎えることもたやすい。
なお、両親用の寝室や書斎のある3階部分は姉妹が立ち入ることが基本ない。また、地下には父の仕事部屋という体で防音の和室が存在する。
リビングダイニングで朝食の準備をするのは静音。
音羽は静音を手伝いつつ、シルヴィアの話し相手をしている。
そして奏はというと、
「イーリス、そろそろ起きよう」
「ZZZ……」
「……目覚ましあったら起きれるんだっけ?」
残念なことに、持参されたであろう目覚ましは机の上に放置され、セットされた形跡はない。
「というか、昨日初めてきた家でここまで熟睡できるってすごいな」
そういいつつ、奏は目覚ましのアラームを鳴らした。
結構な音量でピピピピ……と音が鳴る。
「!!!?………why? Where am I……?」
「起きた?」
「Ah~、あ、カナデさんおはようございます」
「アラーム、かけ忘れてたね?」
「そうでしたか。ありがとうございます」
ごそごそと布団から出てくる寝起きのイーリス。
胸はないが、なんとも煽情的な光景である。
単にイーリスがほぼ服を着ていないというだけでもあるが。
「着替えたらすぐおりますので」
「了解」
奏が部屋を出て数分後にイーリスがリビングに現れる。相変わらずの薄着だが。
「やっぱアメリカ人って基本薄着なの?」
「え?いや、そんなことないと思うけど」
シルヴィアが否定した後に、イーリスを見る。
「……いや、そうかもしれません?」
「私が暑がりなだけですから……」
「とにかく朝ご飯よー。軽めだけど」
と言いつつも、焼き魚と味噌汁、冷奴などが並んでいる。
「今日は気合入ってるね?お姉ちゃん」
「今日ぐらいはね?」
「こちらの世界では初の日本食ですね?」
「あれ?お寿司は?」
「あれはカウントしなくてもいいんじゃ?」
朝食は二人の口にもあったようで、和やかに終わった。
今日は東京近辺で観光名所を周る予定だ。
「というかタローも彼女ほっといて何やってんだか」
玄関で靴を履きながら音羽がつぶやく。
「親戚の結婚式って言ってましたから仕方ないですよ」
「そこはあえてシルヴィ連れていくぐらいの気概を」
「いや、いきなり知らない人の結婚式連れていかれてもシルヴィアも困るだろうに」
「そこはあれだよ、お姉ちゃん」
「どれよ?」
「奏さん、日本って暑いですね?」
「そうかな?今日はまだましな方だと思うけど」
「そうなんですか?なんかこう蒸し蒸ししてますよね?」
「雨降った次の日とかもっとひどいよ」
「ひぇー……雨降らないといいですね」
「雨降ってる間は涼しいんだけどね?」
「……やっぱりちょっとぐらい降った方がいいかもですね」
目的地は無難に浅草方面である。
ひとまず最寄駅へと向かう一向。そこから電車に乗り、移動を行う。
「電車の中は涼しいですね……人は多いですが」
「今日はまだ少ない方かも?」
「そうなんですか」
「ところで、時差ボケとか大丈夫?」
「ぐっすり寝ましたからね」
「それは良かった」
30分もしないうちに目的地に到着する。
駅に着くなり、静音と奏が電話を取り出し、どこかに連絡を取り始める。
「もしもし、紫苑?今日は何時ぐらいに合流できそう?」
『おはようございます。姉さんと昼過ぎには合流しますね。すいません、突然予定が入って』
「ううん、大丈夫だよ」
『それでは後程』
「燕真?もうついてる?」
『ああ、外で待ってる。萌愛も一緒だ』
「わかった。こっちも今着いたから、すぐ行くわね」
『待ってる』
「――という事で、燕真と萌愛はついてるみたいね。紫苑たちは?」
「昼過ぎには用事終わるからそれから合流するって」
「明日香さんは今日部活だっけ?」
「そうそう。もう三年は引退だからね。」
「あー。うちはお姉ちゃん二人とも早々に部活辞めてたからなぁ」
「めんどうだったし」
「私も同じ理由」
「ちなみに明日香さんは何を?」
「ああ、えっと、弓道っていうやつなんだけど……なんていうかな、アーチェリーとは少しルールとかちがうみたい?」
「なんとなくわかりました。日本の武道の一つですか?」
「まあ、そんな感じ。向こうでも明日香が弓使ってたのはそれが理由かな?」
「なるほどー」
「ほら、あなたたち、行くわよー」
駅を出ると、強い太陽が照り付けた。
「暑い」
「それより燕真と萌愛探して」
「……見つけたけど」
「……どうしたの、音羽」
「あれだよね?」
なぜか燕真に肩車されている萌愛。
異様な様子にちょっとした人だかりができている。
「何やってんのあの人たち」
「人多いし、わかりやすいようにかな?」
「とりあえず辞めさせてくる」
静音が人垣を割って入り、燕真の頭を叩く。
「何やってんの」
「概ね萌愛が悪い」
「それはわかってる」
「なんでっ!?」
「とにかく、人集まってるから。ほら、いくわよ」
「ああ」
「あ、ちょっと、お兄ちゃん、もうちょっと丁寧に降ろして――うわっ」
すとん、と落とされるも、持ち前の身軽さでうまく着地する萌愛。
「さ、行きましょう」
「今日もすごい人だな」
「まあ、ここはいつもこんな感じよね」
「イーリス、シルヴィア。久しぶりだな」
「エンマ、久しぶりですね!」
「燕真さん、お久しぶりです」
「奏さーん」
「萌愛、なんで燕真さんの上に登ってたの?」
「え?目立つかなって」
「確かに目立ってたけどお姉ちゃんが行かなきゃスルーしてたね」
「うん」
「音羽も奏さんもひどい!」
「ほら、いくわよー。浅草寺の次はスカイツリーね」
「わーい」
「スカイツリーってどこにあるんです?」
「あそこ」
「ああ……ここからもう見えるんですね」




