#04-03 空の港
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明日香宅訪問から、数日が経過し、イーリスとシルヴィアが日本にやってくる日になった。
2人は2週間ほどこちらに滞在する予定である。
そして、現在、奏・音羽・紫苑・明日香・大郎の5人は炎天下の中、迎えを待っている。
「暑いよー、お姉ちゃん」
「うーん。さすがにこれはちょっと堪えるね」
「大丈夫ですか、奏さん。お水飲みますか?」
「ううん、今は大丈夫。ありがとね、紫苑」
「というか、紫苑さんとお姉ちゃん、日傘に二人で入るってどうなの?逆に暑くない?」
「そうでもないけどなぁ」
「奏さんの近くにいると熱くはなりますが」
「紫苑ってば最近理性はずれ掛けてませんか?」
「そうでしょうか?」
「そうかな?」
「男相手だったら文句の一つも言ってたかもしれないけど、女同士だから妹としては何とも言い難いなぁ」
「私としては見てるだけで結構眼福なんですけど」
「え、明日香さんもそっちの趣味?」
「いや、そんなつもりはないんですけど……二人ともここまで綺麗だから、保養になるといいますか」
「あー、それは何となくわかるかも?ねえ、タローどう思う」
「オレに聞くな!」
約束の時間の5分ほど前に萌愛と瑠衣が慌てた様子で駆けてくる。
「すみません、遅れました!」
「ごめんなさい!ちょっと寝坊しちゃった」
「まだ大丈夫だよー」
「この暑い中ダッシュってきつくなかった?」
「しんどいです」
「あ、でも、向こうの交差点で長い車見ましたよ!」
「長い車?――ああ、たしかに長いね」
よくテレビとかで見るリムジンだった。
それは、奏たちの前に停車する。
周囲にいた人間たちがざわつき始める。
そして、中から耀史が降りてくる。
「やあ、元気?」
「暑いです」
「あー、そうだよね。さ、乗って。飲み物も用意しているから」
「うわ、中広いですけど……これ全員乗れます?」
「大丈夫、10人乗りだし。今、8人でしょ?」
「まあ、最悪耀司さんとタローを捨てていけばいいか……」
「え?オレが手配したのに?」
全員が乗り込んだ後、リムジンは出発する。
やけに高そうなフルーツジュースを飲みながら、耀史が大郎をいじっている。
「アメリカの彼女かー、羨ましい限りだねぇ」
「耀史も彼女ぐらいいるだろ!?」
「いや、オレは仕事忙しいし、遥人のあの調子を見てると若干結婚したくなくなってきた」
「でも、金あるし、顔も悪くないからモテるだろ?」
「どうかなー、ねえ、奏さん的には、オレはどう?」
「耀史さんはちょっと……」
「音羽は?」
「あはは、ないかな」
「紫苑さん……は、いいや。明日香さんは」
「うーん……」
「萌愛さんと瑠衣さんは?」
「「ないです」」
「……まあ、ざっとこんな感じよ」
「まあ、洋の馬鹿と違って嫌われてはないんだろうけど」
「何気に、奏さんのセリフが一番ダメージでかかったけどね」
「そうですか?」
「というか、皆して速攻でNG出したよね?」
「明日香はそうでもないみたいですけど?」
「え?ああ、まあ、嫌ではないですけど……」
「実質NGみたいなもんでしょこれ……」
「もう傷口広げないうちに話題変えようぜ、耀史さん」
◆
日本へと入国の手続きを済ませたイーリスとシルヴィアは、初めて来る異国の地に少しの不安を覚えつつも、興奮でうずうずしていた。
普段は比較的静かなイーリスも、今ばかりはテンションが非常に高い。
「きちゃいましたね、日本」
「そうですね。うーん、なんだか落ち着かないです」
「さっきまですごく眠かったんですけど、タローに会えると思うと眠気も吹き飛びました」
「それは良かったです」
荷物を受け取り、ゲートを出るとそこには多くの人が待ち構えていた。
理由はわからないが、みな誰かを待っているらしかった。
ほかの乗客たちとともに一瞬たじろいだものの、こちらが標的ではないようなので、人の垣をそっとすりぬける。
「あれ?誰か有名人でも来るんでしょうか?」
「同じ飛行機に乗ってたんですかね?」
「そんな様子はなかったと思うんですけど……まあ、いいです。とりあえず、カナデさんを探しましょう」
「そうですね!」
キョロキョロとあたりを見渡すと、奏の姿はすぐに見つかった。
背が少し高めで、スタイルは良く、何より紫苑が近くに寄り添っている姿はかなり目を引く。
そちらに向かって駆け寄ると、奏たちも気づいたようで、こちらに歩み寄ってくれた。
「カナデさん!」
「イーリス、いらっしゃい」
イーリスのハグを奏が受け止める。
「会えてうれしいです」
「私も」
「なんだか、この優しい暖かさというか柔らかさというか、すごく懐かしい気がします」
少しの間抱きしめて満足したのか、イーリスは隣の紫苑へと標的を移す。
「シオンさん!」
「え?私もですか?」
一方、大郎はというと、テンションが限界に達したシルヴィアに抱き着かれて、全力であわあわしていた。
その隣で音羽が爆笑しながら写真を撮っている。
「タロー!タロー!」
「わかった、わかったから落ち着けって!」
「これが落ち着いていられますか!」
「いや、落ち着いてくれよ」
「あっはははははは!」
「笑ってんじゃねぇ!というか、写真撮んな!」
「イーリス!」
「明日香!初めまして!?お久しぶりです?」
「わーい、イーリスだ!」
仲が良かったイーリスと明日香も感動の再会?を果たし、ハグをしていた。
ひとしきり再会を喜んだあと、リムジンに戻ることにする一同。
そのとき、背後の人垣が突然盛り上がり始めた。
「あれ?なんか盛り上がってるね?」
「あれじゃないですか?ハリウッド俳優が来日するとか」
「ああ、明日香のお母様が言ってたやつか」
「なんかすごい盛り上がってるね?――瑠衣、見に行く?」
「えー……あの人混みに入る勇気がない」
「あー、たしかに。前には行けなそうだもんね」
「なんだか巻き込まれそうだから早く移動しようか?」
「そうですね」
「よーし行こう!大郎、荷物持ってあげなよ?」
「それぐらいわかってるよ、流石に」
全員でリムジンに戻り、乗り込む。
「ふむ、荷物が思ったより多かったから結構きついね?」
「ほらー、耀史。ダッシュね?」
「え?ひどくない?」
「紫苑、もっとよってあげて。あれだったら上に座ってもいいよ?」
「望むところです」
「あ、なんか解決しそう」
「やった」
「ふふ、相変わらずカナデさんとシオンさんは仲良しで良かったです」
「だよね。二人を見てるとこっちも満たされる」
「わかります」
「……お二人もわりと重症なのでは?ねえ、萌愛」
「うーん……女同士っていうのはわかんないけど、奏さんと紫苑さんはそういうもんだという認識なんだよね。瑠衣もじきに慣れるんじゃない?」
「何それ怖い……」




