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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第4章 境界の海、2つの夏
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#04-02 花の屋敷


明日香に続いて炎天下の中しばらく歩くと、立派な屋敷?が見えてきた。


「まさかとは思うけど、これ?」

「はい、これです」

「すごいですね……」


高い塀に囲まれたそこからは屋敷の姿は見えない。だが、塀の広さからして結構な大きさだろう。まさか都内にこんな大きな屋敷があるとは。


「この土地自体は戦前ぐらいから所有しているみたいですね」

「それにしてもすごいよー……奏さんと音羽は動じてないみたいですけど」

「いや、大きいなとは思ってたけど」

「ほんとですか?」

「なんで瑠衣は私とお姉ちゃんを疑うの?」

「いや、音羽も音羽で冷静すぎるし……」

「私が冷静だとおかしいみたいな言い方……」


「紫苑はどうですか?」

「都心から外れてはいますが祖父母の家はこんなものなので大きさ的には特に」

「そうなんですか」

「裕福さでいうと恐らく扇子家には勝てないですし」

「そ、そんなことないですよ?」


“門”というべきそれを通って、中に入ると、屋敷の全貌が見える。

見事な日本庭園の奥に平屋の日本家屋が建っていた。


「うわーすごくきれい」

「ほんとに人が住んでる家なんですか?」

「あの、私ここに住んでるんですけど……」


玄関に入ると、奥から女性が出てくる。

顔立ちが明日香に似ているので恐らく血縁者だろう。母親というには若くも見えるが。


「ただいま、お母さん」

「おかえりなさい、明日香さん。そちらの方たちは?」

「友達。友達の奏さんと紫苑さん。それと、音羽さんと瑠衣さんと萌愛さんです」

「初めまして、お邪魔させていただきます」

「いえいえ、明日香が友達を連れてくるなんて珍しい。本当にいたんですね?」

「お母さんは、私をなんだと思っているんです?」


明日香に連れられて広い畳の部屋に通された。

お客さんを通すための部屋らしい。床の間には見事な花が活けてある。

そして、しばらくして、お手伝いさんと思しき女性がお茶と茶菓子を持ってきてくれた。

なお、明日香の母は当たり前のようにそこに座っていた。


「お父さんは“奏さん”のことを男性だと思っていたようですけど、こんなにきれいなお嬢さんだったとは」

「だから言ってるでしょ?」

「改めまして、明日香の母、丹波美知枝です。娘がお世話になっております」

「丹波、美知枝……ああ、華道の」

「あら、御存じなんですか?」

「えっと、祖母に連れられて展覧会を見に行ったことがあります」

「そうでしたか」

「あ、こちらも改めまして、響奏と申します。これは妹の音羽です」

「音羽です。よろしくお願いします」

「池内紫苑です」「神崎瑠衣といいます」「扇子萌愛です」


奏のあいさつに続いてそれぞれ名前を告げた。


「あの、お母さん。みんな比較的普通の家だから……」

「明日香、別に家の大きさとかご両親の職業とかで友達を選べなどというつもりはありませんよ?ただ、普通の方がこの家を見ると萎縮するものです」

「まあ、それはわかりますけど……」

「というか、響さんの御宅はうちなんかよりも古い歴史を持っているおうちですわ」

「へ?そ、そうなんですか?見た感じ普通のおうちでしたけど」

「あら、そうなのですか?」

「えっと……父はまだ正式に家を継いでいるわけではありませんので」

「そうでしたの。ということはやはり、あの響さんでよろしいのですか?」

「ええ、そうだと思います」

「御婆様、響トキさんに連れられてた女の子の面影があると思いまして」

「あの時はまだ小学生だったと思います」

「お父様は、今何を?」

「何してるのかわからなくて調べてたんですが、世界中で講演を行って日本文化を広める活動をしているらしいです」

「それは立派なことですね。よければうちの主人もつれて行ってくださいな」

「あ、あの、お母さん。説明をお願いしたんだけど。音羽さん以外固まってるから」


なぜか話が弾み始めた明日香母と奏にぽかんとしている明日香と音羽以外の3人。


「知らないの?一度、招待していただいたことがあるのよ?」

「え?何の話なの?」

「箏の奏者の響(とき)さんと尺八の奏者の響宗弦さん。お二人が奏さんの御婆様と御爺様よ」

「そ、そうなんですか?確かに名前をお聞きしたことはあります」

「有名な奏者よ。お父様の透さんも有名だけど」

「まったくわかりませんでした」

「まあ、私たちの世代にはなじみないかもね?」

「私と奏お姉ちゃんは御婆ちゃんから箏習っていますよ」

「え、音羽が御箏ってなんかイメージが」

「なんでよ!」

「尺八の方は誰かお継ぎになるんですか?」

「わかりません。私たちも特に祖母の名前を継ぐとかそういう予定はありませんし……」

「お父さんは男の子作って継いでもらうって言ってますけど、最近はお母さんが仕事で日本にいないことが多くて」

「そうなんですか」


「奏さん、そういう特技素敵だと思います」

「そう?」

「私も三味線なら弾けます」

「そうなんだ。紫苑も結構多才だよね。今度一緒にやろっか?」

「ほんとですか!?久しぶりなので少し練習しないと……」

「尋がね、実は笛とか太鼓とか少しできるんだよ」

「それはなんか納得です」


「明日香、あなた何か楽器はできましたか?」

「そもそも触れる機会が少なかったので……」

「少し習っていればこの会話に入れたのかもしれませんね」

「私も何かやってみようかな……」

「ふふ、そういうのはいい傾向ですね。お父さんは嫌がるかもしれませんが」

「そうですか?」

「麗しい少女たちの和楽器演奏、心惹かれるものがありますね」

「お母さんが見たいだけでしたか」


「ああ、そうだ。来週の月曜日にハリウッド俳優の方が来日されるらしくて。その歓迎イベントにお花を展示することになっているのですが、皆さんご一緒にどうですか?」

「来週の月曜日はダメそうです」

「お母さん、来週の月曜日はアメリカから友達が来るから」

「そうなんですか。偶然ですね。同じ飛行機かしら?」

「流石に違うと思いますけど……」

「同じ飛行機でも席とかは全然違うでしょうしね」

「そうですか。残念です。日本好きな方なので、是非演奏を、と思ったのですが」

「流石に人前で演奏できるほど巧くはないので……しばらく練習もしていませんし。父が帰ってきていれば行ってくるように伝えておきますね」

「お父さん、月末だからそろそろ帰ってくるだろうし」

「お願いします」

「お母さん、人の友達とビジネスの話しないで」

「あら、ごめんなさいね。そうだ、夕食、是非食べていってください。用意させておきますので」

「いいんですか?」

「お母さん!」

「いいじゃない。ゆっくりお話を楽しみなさい。邪魔してすみませんでした」


そういって笑いながら明日香の母は部屋を出ていった。


「ごめんね、奏」

「全然問題ないよ」

「でも、奏のおうちも結構有名な家だったんだね?」

「私たちはあんまり関係ないけどね」

「奏さんと音羽の御箏聞きたいなぁ」

「うーん……まだ覚えてるかなぁ」

「音羽もしばらく触ってないもんね?」

「機会があれば是非聞かせてください」

「そう期待されても……」

「奏さんと音羽さんのことですからすぐに弾けるようになったんじゃないですか?」

「流石にそんなことないよ」

「御婆ちゃん御箏のことになるとすっごく厳しいからね」

「ちなみに静音さんは?」

「姉さんも一緒に箏やってたけど途中からピアノとかギターとかやってた」

「姉妹の中で音楽センスが一番あるのは静音お姉ちゃんだね。絶対音感持ってるし。奏お姉ちゃんは歌かな?」

「音羽は?」

「え?じゃあ、ダンスとか?」

「体動かす方が得意ってこと?」

「まあ、そうともいう」


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