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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第4章 境界の海、2つの夏
53/65

#04-01 夏の始まり




奏と紫苑が失踪して、そしてその後戻ってきてから2週間ほど経過した。

こまごまとした異変はいくつも起きているが、どれも片手間に片付けられるようなものばかりで負担は感じていなかった。


そして、夏休み前。学期末のテストを終え、奏は暑い教室の机の上でぐったりしていた。


「暑い」

「知ってる」

「奏さん、ちょっとシャツ開けすぎではないですか?お胸が……」

「え、ボタン一つしか外してないはずなんだけど……ああ、ボタン取れてる」

「前々から思ってたけど、奏って着やせするタイプだよね」

「そうかな?」

「というかその体――女の私でもこう、むらっとする何かが」

「何言ってんの?というかソーイングセットもってない?」

「持ってますけど、胸のボタンって着たまま付けれるものなんでしょうか……」

「あんまりそれよくないからやめた方がいいと思うけど……」

「そうなの?尋」

「普通は人が着ている服に針は入れないからね。生きてる人には」

「あー、そういう……まあ、いいか」

「風紀委員長がそれは良くないですよ。後で縫い付けますから着替えてくださいね」


飯田に叱られつつ、奏ははーいと返事をする。

担任が教室に入ってくると、すぐに成績表を返し始める。今季の成績と期末テストの結果だ。全員から上がるブーイングを無視して、担任が名前を呼んでいく。


「飯田―」

「はーい」


奏たちの仲間内で最初に呼ばれるのは飯田百々である。


「良く頑張ったな。かなり点数上がってる。この調子でいけば志望校も大丈夫だろう」

「ほんとですか!」

「まだ少し足りんから、油断は禁物だがな」

「精進します」


笑顔で席に戻る飯田。

名前の順では、橋上尋が次に呼ばれる。やや難しい顔をしながら成績表を受け取り、開いた尋がその場で硬直する。


「うぇ!?」

「おお!?どうした、橋上。先生、なんか間違えたか!?」

「いや、その、自分の順位に驚いただけです」

「ああ、お前も今回かなり良かったからな。なんか予備校でも通ってるのか?」

「え?いや、奏に全部見てもらっただけですよ?」

「なるほどなぁ……じゃあ、響、次」


呼ばれたので取りに行くと、担任が神妙な顔つきになる。


「響、お前には一つ言いたいことがある」

「なんでしょう?」

「テスト前に入院とか失踪とかいろいろあって、テスト中も20分もたたないうちに寝てたよな?」

「ええ、そうですね」

「何で全教科100点なんだ!?」

「さあ?でも、今回の試験、そんなに難しい問題でしたか?全教科通してそれほどひねった問題もなかったように思えたんですけど」

「ぐふっ」

「それと、先生の世界史のテスト、どう考えても配点がおかしいので全教科100点というのは変だと思いますよ?世界史の満点は103点ですよね?」

「……はい、そうです。ごめんなさい。正確には世界史以外は100点で世界史は103点です」

『先生が謝った!?』

「あー……じゃあ、次、日向」

「はい」

「日向も頑張ったなー……響きほどじゃないが学年2位だぞー」

「あれの後では感動も掠れる気がしますが」

「ごめんね、楓音」

「いえいえ。さすがに全教科満点というおかしなことはできませんって」

「私もできるとは思ってなかったんだけどなー。あ、でも、みんなの勉強見てたから総合的に自分の勉強時間は増えてるかもね?」

「なるほど、我々が教えを請えばその分奏さんもレベルアップしていくと……」

「そうなの?」

「つまり、次のテストまでに奏さんがこのクラス全員に講義を行えば、奏さんの成績は100点を超える……?」

「超えないでしょ!なにいってんの、楓音!?」


楓音がおかしくなり始めたの揺さぶって直し、奏は席に着いた。

その後は、奏としては最後の風紀委員会である。

あまり所属している意識はなかったが、紫苑に後を譲ることを表明した途端拍手喝采で送り出された。ちなみに、後任の副委員長は音羽である。


「いやー、なんかさぁ、お姉ちゃんがトップの組織って宗教じみてるよね?」

「そう?」

「そうでしょうか?」


隣の紫苑とともに首をかしげる。


「まあ、隣に狂信者がずっといるからね……」

「音羽さん、私は狂信者ではないですよ」

「そう、なの?」

「単純に心酔しているだけです。愛です」

「ははは……お姉ちゃん、これ大丈夫なの?」

「大丈夫なんじゃない?というかもう慣れた」


紫苑に腕を組まれながら奏は校舎を出る。

暑い暑いと文句を言っているが、そういうなら紫苑を引き離せばいいのに、とともに歩く音羽と瑠衣は思ったが、口には出せなかった。

なお、萌愛は反対側にへばりついている。


「そんで、お姉ちゃん。夏休みはどうすんの?」

「どうしようかなぁ。とりあえず、来週の頭にはイーリスとシルヴィアが来るでしょ?」

「そうでしたね。今日が木曜ですから、あと、4日ですか。楽しみですね」

「あ、その日お兄ちゃんに車だしてもらいましょうか?」

「いや、そんな、悪いよ」

「あーでも、お兄ちゃんの車小さいからそんなに人乗れないんだよね……」

「あ、大丈夫。ここは私に任せてよ!」

「え?音羽、何か案があるの?」

「ろくでもないこと考えてそう」

「瑠衣、酷くない?まあ、任せて。まず、電話を掛けるでしょ?」


そういうと、音羽はどこかに電話をかけ始めた。


「あ、もしもし?私、音羽。来週の月曜日、イーリスとシルヴィが来るから迎えに行きたいんだけど、車だしてもらえる?――いいの?やったー!――お姉ちゃんと紫苑と萌愛と瑠衣も……あ、ついでにタローも行くから、大きい車お願い――うん、よろしくー」

「……音羽、誰に電話してたの?」

「え?耀史。リムジン出してくれるって」

「えええ、マジかぁ……」

「普通の車で良かったのに……」

「何でしょう、乗っていくのすごく恥ずかしいですね」

「私、リムジンって乗ったことないんですよね」

「普通ないよ、萌愛。とにかく、音羽、ちょっとこっち」

「え?何、瑠衣……その眼は、お説教だね!?」


逃げる音羽と追う瑠衣。

遠くに行くというわけでもなく、奏の周りをぐるぐる回っている。


「で、奏さん、紫音さん、今からどこ行くんですか?」

「駅前で明日香と待ち合わせかなー」

「そうだったんですか、とりあえずついてきてたんですけど、道理で奏さんのおうちと逆方向なわけだ」

「ついてくるのは構いませんけど、萌愛さん、とりあえず、音羽さんを捕獲してください」

「はーい」

「ちょ、二人がかりはずるい!」


すぐに捕獲された音羽が、両脇を瑠衣と萌愛に抑えられて捕獲されたエイリアンのような状態で奏の前に引き出される。


「とりあえず、どこかでお茶でも飲もうか?暑いし。奢ってあげるよ」

「わーい」

「ありがとうございます」

「お姉ちゃん、私、あの新商品がいいなー。CMしてる奴。あの、えーっと……まったく名前思い出せないけど!」

「わかったわかった」

「ふふ」


駅前のコーヒーショップの、少し陰になってるテラス席でぐったりしながらストローを咥えていると、ポニーテールを揺らしながら明日香が走ってきた。


「こんにちは!お久しぶりです!」

「明日香!元気だった?」

「はい!おかげさまで!」

「で、今日はどうする?晩御飯も一緒に食べれるんだよね?」

「はい!――と言いたいところなんですけど」

「予定変更?」

「いや、あの、お母さんとお父さんが是非奏さんをうちに連れてこいと、世迷言を」

「……なぜ?」

「わからないんですけど、急に私が遊びに出かけたりするようになったから、その相手を見極めたいのではないかと。それにお父さんは、奏さんのことを男だと勘違いしているみたいで……本当にごめんなさい」

「別に行くのはいいんだけど……ほら、私何のとりえもない一般庶民だし。今日の方がいいの?」

「ええ、今日はお父さん居ないので、話が面倒が半分で済むかなと」

「じゃあ、行ってみようかなぁ。明日香の部屋とか見てみたいし。やっぱり和室?」

「和室ですね。ベッドは置いてるんですけど。あ、皆さんもよかったら是非。なーんにもない家ですけど」

「いいの?」「いいんですか?」「いいの?明日香」

「はい。大丈夫ですよ。変に古い家なので、友達も委縮するというか、あまりお友達とか呼んだことなくて、来てもらえると少しうれしいですね」


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