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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第3章 朱き炎鱗、空を翔る翼
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#03-06 白い寝台



外傷という外傷は見られないものの、依然として意識の回復しない奏。

奏ほどではないとしても、精神的に強いダメージを受けている紫苑。


運び込まれた先の病院でベッドの上に寝かされている。

静音たちが海で遊んでいるほぼ同刻。時間的には昼過ぎといった時間。鈴音の計らいで2人とも同じ病室に寝かされている。


先に目を覚ましたのは紫苑で、起き上がると、あたりを見回す。


「ここは……病院、でしょうか」


そして、カーテンで仕切られた隣にもう一つベッドがあることに気付く。


「!――奏さん!?」


カーテンを開くとそこで眠っていたのは見知った顔。

慌てて、そちらへ向かおうと裸足のまま踏み出すと、自分の思った以上に体が重く前につんのめった。


「!?」


奏のベッドのほうに倒れる。

しかし、何とか気合で奏に直撃することは避けた紫苑は、驚いて自分の体を見た。


全身に、うっすらと黒い靄のようなものがまとわりついている――そんなきがする。

K-グラスを掛けていないにもかかわらず、こんなものが見えるのは異様な気がしたが、自分の眼前にある奏の体にはもっと濃いものがまとわりついている。


「これは私の目がおかしくなったのでしょうか」

「ん……?」

「え、あ」


さっきかまで眠っていた奏の瞼がゆっくりと開く。


「シオ、ン?」

「すみません、起こすつもりはなかったんですが」

「気にしないで」


体を起こそうとした奏が、自分の体の重さに困惑する。


「これは……」

「奏さん……?」

「一時の感情で行動するもんじゃないね……まさか、こんな風になるなんて」


無理やり体を起こした奏は紫苑に向かって笑って見せる。


「何があったんですか?」

「何がったんだろうね……でも、本気で殺そうと思ったんだ」

「本気で、ですか」

「そう。紫苑、ごめんね。なんか移しちゃったみたいで」

「いえ、気にしないでください。なんか私もいくつかスキル獲得したようですし……まあ、大変不本意なんですが」

「不本意?」


枕元に置かれていた自分の端末を手に取って、自分のステータスを表示させて見せる紫苑。

そこには、奏と同じように“堕天”や“大罪歓呼”のスキルが追加されており、“叡智月輝”というみなれないユニークスキルもある。


「やっぱりこんなスキルないほうが……」

「いえ、そうではなく……この“叡智月輝”のスキルなんですけど、“色欲”系のスキルの派生形らしくてですね……」

「え?」


顔を真っ赤にして紫苑が顔を伏せる。


「なんでこんなスキルを取ってしまったのか、自分では理解はできるんですけど、受け入れがたくて……」

「ふふふ、紫苑かわいい」


持っていた紫苑の端末を枕元に置くと紫苑を抱き寄せた。

そして、布団の中に引きずり込むと、超至近距離で顔を合わせて問いかける。


「ねえ、どうしようか」

「えっ?あ、あの、どうしようか、とは!?」


今着ているのはお互いに薄い病衣のみ。

奏の感触と熱と匂いに包まれた紫苑は懸命に理性で己の欲望を抑え込んでいた。


「これから。私はもう戦えなくなっちゃった」

「……奏さんはどうしたいんですか?」

「私はまだ戦いたいかな。紫苑は?」

「奏さんの隣にいることが私の使命ですから」

「……そんな大げさな。でも、ありがと。私も紫苑が隣にいてくれるとうれしい」

「えぅ……」

「でもどうすればいいのかな……」

「穢れ、ですからね」

「やっぱり、お祓いとか?」

「そういうの効くんでしょうか」

「やってみる価値はあるかもよ?」

「試しに行ってみますか?」

「そうだね。期末テストまで少し余裕はあるし、早めに片づけておこうか」

「どこの神社で試すんですか?」

「伊勢」

「えええ!?いきなりですね」

「そこが一番いいかなって。じゃあ、出発しよっか」

「え、あの、行動力ありすぎでは……時間的に今日お祓いしてもらうっていうのも難しいと思いますし……」

「じゃあ、予約――できるのかわかんないけど、そんな感じで」

「奏さん、実は何も考えてないですね?」

「でもまあ、私はついていきますけど」

「そう?」


奏が起き上がろうとして気づく。


「……でもこの格好じゃ、だめだよね」

「そうですね」

「でも、私は姉さんにしばらく入院してろって言われる気がするんだ」

「そうですね、私もここにいなければそういうかもしれません。というか私も同じことを言われる気がします」

「……逃げよっか」

「……逃げましょうか」


見える範囲で置かれているのはKグラスと自分の携帯のみ。

それをつかむと、Kグラスの電源を入れる。


その瞬間強い衝撃が体に走る。


「うぇ……気持ち悪い」

「だ、大丈夫ですか?!」

「紫苑こそ、顔色悪いけど」

「とりあえず、ここ5階なんですけど」

「飛び降ります」

「……大丈夫なんですか?」

「ステータス的には加護のほうが大きいから問題ないよ。でもこれじゃないと外歩けないでしょ?」

「そうでしたね」


窓を開けると、同じくKグラスを起動した紫苑が飛び降りる。奏は器用に窓のふちにぶら下がると、窓を閉め紫苑を追った。


「それで、どうしましょう?」

「とりあえず、東京駅まで行く」

「わかりました」

「あと、どこかで服を買う」

「……そうですね。これじゃ、目立ちすぎですね」

「あ、でも財布がない……」

「一度家に戻って着替えましょうか……」

「うん……」


体自体はかなり重く、動かすのは辛いのだが、ここで動かずにはいられないので多少無理をしてでも走った。

強化された敏捷性で走れば、すぐに自宅へとたどり着く。案外病院が近所にあったというのも大きい。


「奏さん、私着替えと荷物を取ってきます。駅で待ってますね」

「うん、わかった」


荷物を適当に鞄に詰める。

金銭面では危険手当というお金が3か月分あるため余裕どころの話ではない。

最後に着替えを済ませて、家を出る。

グラスの電源を切っているほうが体調はいくらかましだが、良いとも言い切れない。


一応、人目を気にしながら駅まで移動し、改札の前で待っていると紫苑がやってくる。


「ごめんなさい、少し時間がかかりました」

「大丈夫だった?」

「家を出ようとしたところで母が帰ってきまして……なかなか苦労しました」

「ふふ、私たちの服と靴を隠しておけば脱走しないと思った姉さんたちの負けだね」

「ですね?」


そして二人の少女は駅の雑踏の中に消えていった。


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