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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第3章 朱き炎鱗、空を翔る翼
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#03-03 死中求活<バッドムーヴ>

一度夢で見た光景が続いていた。

必死で何とかしようと、あがいた。

しかし、目の前の光景は変わらなかった。



奏たちの戦闘が始まってから30分。

乱れる気流と、異常な熱のせいで空路が使えないため、車で到着したシュヴェルト隊は急いで萌愛のマーカーが表示されている地点まで走っていく。

周囲の魔物の数は減っているが、まだまだ多い。


「萌愛!大丈夫か!」

「お兄ちゃん、ここはいいから急いで奏さんの方へ。さっきから全員瀕死なんだ……」


ノイズが酷く掠れてはいるが、奏達を表すマーカーは赤く点滅しているように見える。


「ここの敵はどうするつもりだ」

「私だけで何とかする――“我と共に踊れ、無限の刃よ”」


白い炎に包まれた萌愛を見て、燕真が頷き、駆ける。

龍に近づくにつれてどんどん上昇していく温度。

額に汗が浮かぶ。


そして、ついにその姿が見えた。

それと同時に、見たくなかったものも目に入る。


「奏!」「紫苑!」

「大丈夫か!?」


瑛大と翔は衝撃に吹き飛ばされたのか、龍から離れたところで気絶している。

大郎を庇ったらしい洋は、深い切り傷を負い、腕も折れている。庇われた大郎も到底無事と言える状態ではない。

明日香は離れていた場所にいたせいか、直撃は避けられた様だが、戦闘を継続できる状態ではない。

そして、奏と紫苑は――奏が紫苑を押し倒すようにして重なり、巨大な朱い鱗に貫かれていた。

2人分の血が流れ出て煮えたぎる地面に静音と漸苑が動揺しながら駆け寄る。


「静音、まだ生きてる。オレがひきつけるから回復を頼む」

「……利里。あとは任せたわ。全員見てあげて。漸苑は怪我人を守ってあげて」

「わかった」

「どうせ私じゃ回復できないもの」


短剣を抜き切っ先を向ける。


「私のかわいい妹を傷つけたんだもの。殺すわ」

「“静麗剣・渦燕”――いくぞ、静音」

「盾役は私が引き受けるから、2人は攻撃を!」


杏理が飛び出し、龍のブレスを弾く。


「あっつ!?」

「杏理、無理しないで!」

「これぐらい!」

「喰らえ!」


燕真による一閃は今までで一番有効なダメージを与えられた。だが、再生が速いのは相変わらず。HPが減少していても傷はすぐ治り、行動を開始する。

吼えたと同時に外殻が爆ぜ、そこに乗っていた鋭い鱗が四散する。


「これか!」

「燕真、こっちに!」


硬い鱗がない今が攻め時なのだが、とてもそんな余裕は持てない。


「どうやって攻める!?」





利里によって傷口がふさがれた奏は紫苑を抱きしめたまま地面に横たわっていた。


「ダメだった」


なぜ負けたのか。

今まで負けたことがなかったわけでは無いが、実際に大切なものが傷ついている今となってはその敗北を許すことはできない。


前方では姉たちが必死の戦闘を続けている。

戦況は芳しくない。燕真の能力が切れれば勝ち目はないだろう。


「私は勝てないのかな」

「私はここで死ぬの?」

「私は姉さんを紫苑を護れないの?」

「私はこんなところで諦めるの」

「私はアレに殺されるの?」

「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――「私は――」


女神の力は護るための力。

でも、アイツを殺せないのならばそんなものはいらない。

気を失っている紫苑を一度強く抱きしめると、隣に転がっていた自分の剣を取り、無理やり立ち上がった。

絶対に殺す。

私と紫苑を傷つけたアレを絶対に許さないし、絶対に殺す

。そもそも、私があんなものに負けるはずがない。

私が負けて良いのは紫苑だけ。

だから――絶対に殺す。


「私は――負けないよ。紫苑」


――“怨嗟”を取得しました。

――“殺意”を取得しました。

――“悪意”を取得しました。

――“傲慢”を取得しました。


――スキルが統合されました。

――《EX》“大罪歓呼”を取得しました。

――《EX》“堕天”を取得しました。

――《U》“黎明耀星”を取得しました。


――“堕天”を発動しました。それにより、一時的に“神格”の効果を無効化します。

――“穢れ”による効果で呪詛Lv.5が発生します。

――“黎明耀星”を発動しました。

――“穢れ”による効果で呪詛Lv.5が発生します。

――“大罪歓呼”を発動しました。“黎明耀星”の効果を35%上昇します。

――“穢れ”による効果で呪詛Lv.5が発生します。


初めて負の感情に自分の身全てを任せる。

いつもより体が重く感じるが、いつもより速く感じる。

そして何より、負ける気がしない。


「か、奏ちゃん!?」

「奏!?まだ寝てなさい!」

「大丈夫だよ、姉さん。ソレは私が殺すから――“鬼姫繚乱”」


邪悪なオーラを放っていた奏の身体に紋様が浮かび上がり、異様な迫力を放っている。


「かなで、さん」

「うふふ、紫苑。大丈夫。そこで待ってて」


奏がゆっくりと一歩踏み出す。

そして、二歩目からは既にトップスピード。

一瞬で間合に入ると、龍の左腕を斬り飛ばした。

しかし、すぐにそれは再生を始める。

龍の右腕は真っ直ぐ奏に振り下ろされ、その燃え盛る爪が奏の胸を切り裂いた。

血が吹き出し、静音が悲鳴を上げるも、奏は微笑みすら浮かべながら次の一撃で龍の右腕を消し飛ばした。

自身が受けた傷にひるむことなく、さらに追撃。

尾と牙を失った龍は再生したての鱗を爆裂により飛ばす。

その衝撃によって奏の身体がバラバラになる――と思われたが、衝撃を受け血を吐きながらも、鎧の無くなったその身を何度も斬り付け、着実に体力を削ってゆく。

一方的な虐殺にも見えるそんな行為を何度か繰り返した後、朱い色に染まった奏は、誰もが見惚れるような笑みを浮かべながら、ゆっくりとこちらに歩く。


「ふふ」


生命力=HPは依然として10%を切っておりとても立っていられるような状態ではない。

数歩歩いたところで奏が崩れ落ちる。

その周囲は龍が消滅する光に包まれていた。


『奏(さん・ちゃん)!!』


意識のある者全員が一斉に駆け寄るが、一番初めにたどり着いたのは紫苑。

未だ、黒い靄のようなオーラを纏う奏に一番に駆け寄ると、オーラに触れることで発生する強烈な不快感と激痛を気にすることもなく奏を抱きしめた。


「今、治しま――え、傷がない?」


確かに血は噴出していたように思えたのだが、傷はおろか服が破れているのも鱗に貫かれた痕のみだ。


「――ふふふ、私が私であり続ける限り私は負けない、それがこのスキル」

「……そうでしたか。かなりアバウトな効果ですね……。あとは任せて、ゆっくり休んでください」

「ありがと、紫苑」

「紫苑、奏は!?」

「来ないでください!」

「何を!?」


奏に視線を向けたまま、静音たちを牽制する紫苑。

奏は完全に意識を失い、紫苑の膝の上で眠る。


「この靄。触れるとよくないですよ。奏さんの殺意だったり、そういうマイナスの感情の塊ですから。静音さんと明日香さんは近づかないでください。私同様“神格”を犯されますよ」


自分がよくわからないスキルを獲得したというシステムコールが響き、新たなスキルを獲得していくのを聞きながら、奏の殺意と呪いの痛みを受けながら、紫苑もゆっくり意識を失っていく。

見るからにヤバそうな靄に包まれた2人をどうやって運ぶか。それが残された怪我人たちに課せられた課題となった。


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