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女神の箱庭II =ツナガルセカイ=  作者: 山吹十波
第3章 朱き炎鱗、空を翔る翼
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#03-02 暗雲低迷<デスペア>


30分ほどで身支度を済ませ、家を出た三姉妹は、一度指定された待ち合わせ地点へと向かう。

そこには、紫苑や漸苑、杏理たちが既に待機していて、奏達が着いてすぐにマイクロバスが2台到着した。

両方の扉が開き、それぞれ瑛大と燕真が顔を出す。


「シュベルトとスピアーこっちだ!」

「フリューゲルはこっちだ、乗れ!――あと、タローは?」

「ぜぇ、ぜぇ、間に合っ、た!」

「おっそい!」

「うるせーよ音羽!」


息を切らせて走ってきた大郎も合流し、車が発信する。

翔が展開したスクリーンに鈴音の顔が映る。


『現在、2地点の攻略を同時に行っています。フリューゲルとシルトは明日香さんと洋さんを拾って立川方面に、シュベルトとスピアーは八王子の北西部へ。どちらも龍と思われる巨大な反応があります』

「23区内じゃないだけましかもしれないが、それでも人口多いぞ……」

『そうですね。かなり不味いです。現在、自衛隊特殊部隊が必死で抑えてますが減る様子がありません』

「まあ、こっちには奏がいるからさっさと片付くだろう」

「……奏さん、どうしましたか?浮かない顔ですが」

「あ、ごめん。紫苑。ちょっと、嫌な予感がして」

「そうなんですか?」

「外れてくれればいいんだけど」


一度停車し、明日香、洋と合流し1時間ほど走って車を降りたのは自衛隊の駐屯地。


「熱いな」

「というか、ここの駐屯地、半壊してません?」

『どうやら、運悪く襲撃されたようです』

「最悪だな」

「住宅地に行かれるよりはいくらかマシですけど」

「明日香、探せる?」

「お任せください」

「この異常な熱からして、そう遠くないような気がしますけど」

「――見つけました、ここから1.5kmぐらい離れた林だった場所の中です。炎の中に赤い龍が見えます」

「こっちはアタリみたいだな」

『こちら静音、緑色の龍を発け―――え!?』

「どうしたの姉さん」

『ちょっと待って――撃ち落とせる!?』

『無理そうだ。速すぎる』

『ちっ、逃がしたわ。北の方に逃げた』

『龍の姿はこちらの衛星で追います。静音さんたちは魔物の掃討を』

『10分で片付けるわね』

「んじゃ、オレたちも行くか」

「おーけー」


洋と瑛大を先頭に、魔物が湧き出す方向へと突っ込む。

確かに尋常じゃ無い量であるが、瑛大のように一振りで数十体巻き込んで殺せるようなスキルがあれば、数を減らすのはそう難しいことではない。


「というか暑いっすね」

「防護服は脱ぐなよ。流れ弾で死ぬぞ」

「それはわかってますけど」

「奥に進むにつれてどんどん暑くなってる気がします」

「確かに」

「うむ……汗をかいた女子ってエロくない?」

「洋、お前、ちょっと偵察行って来い」

「ちょ、ま、謝るから蹴るなって!」


かなりの数の魔物を斬り伏せて進んでいくと、なぜか先ほどまであんなにいた魔物の影が消えた。


「あれ?」

「……明日香、周囲に敵は」

「敵影、前方に強大な物が一つのみ、残りは全部円の外です」

「円?」

「龍?を中心にした円形を避けて進んでいるようです」


表示されたマップには円を避けるように移動する魔物たちのマーカーが表示されている。


「ボス戦を邪魔されることはないのか」

「そうですけど、なんか嫌な予感がしますね」

「奏さんの行ってた嫌な予感ってこれですか?―――奏さん!?」


奏は自分でも驚いた。自分の身体が小刻みに震えていることを。そして、こみあげてくる吐き気と、強い頭痛。


「うっ、っ痛……」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈、夫。それより―――」

『――ん、こち――音で――、聞――ます―?!』

「萌愛」

「はい!」

「すぐに円の外まで走って救援要請」

「え?はい、わかりました」


萌愛がスキルを使って加速しようとしたところで、違和感を感じる。


「……奏さんがいるのに、MPがほとんど回復してない」

「おい、嘘だろ」

「……全員構えて!来るよ!」

「ちっ、翔!萌愛だけでも先に離脱させろ。奏がこれだけ畏れてるんだ、何かあるぞ!」

「わかりました!萌愛、急いで!」

「は、はい!」

「うっし、とりあえず、行くかね。明日香、援護よろしく」


洋が飛び出していくと同時に燃え残った樹の上に昇った明日香が矢を番える。


「奏さん、」

「紫苑、行くよ。絶対死なせないから」


奏が剣を抜く。

離れた位置に見える赤い巨体に近づくたびに、連日夢で見てきた光景がフラッシュバックしていく。


「ああ……やっぱり」

「奏さん」

「絶対、絶対、絶対――お前には私たちの命はくれてやらない!」


踏み切って急加速、一気に距離を詰めて、その右腕へと刃を振り下ろす。

ガッ、と硬質な音を立てて刃が止まるが、力と魔力を込めて無理やり刃を押し通す。


「奏!?」

「魔法で援護を」

「魔法無効!紫苑、たぶん無理だろうけど地脈の制御お願い。あと、明日香。たぶん普通の矢じゃ効果はない」

「解析したにしても情報速すぎやしないか?」

「私はコイツに10回以上殺されてきたの。夢の中でね」


次の攻撃はブレス。腕が治ったら外殻を飛ばす攻撃。

それを躱して距離を詰める。


「ちっ、硬すぎてダメージがまともに通らねぇ」

「これは静音さんの援護が欲しいですね」

「というか、熱い」

「大郎、大丈夫か?汗すごいけど」

「お前もな、洋」

「携行品にペットボトルの水が数本ありますけど、足りますかねこれ」

「というか、うえ、すぐ温くなっちまう」

「――!?来るよ!躱して!」


奏の声に全員が一斉に警戒。


「遮蔽物をっ!」


錬金術で石壁を複数作りその裏へと回り込み、伏せる。

発射された鱗は、ほぼ一撃で壁を使い物にならないレベルまで破壊するが、何とか回避はできた。


「次からはこんな無茶できないから頑張って躱してね」

「わかった。しかし、これはきついな」

「洋!お前」

「ちょっと切っただけだ。余裕余裕」


洒落にならないレベルの出血だが、笑って見せる洋。

紫苑がすぐに回復を行うが、聖域を使えないせいか出力が安定しない。


「すみません、完全には治り切りませんでした」

「大丈夫。これで動くから」

「おい、あんまり派手に動かしたら傷口拓くぞ」

『――です!連絡はつい――ですが。到―までにしばら――――そう―す!私―す――戻りたいの―――、魔物―囲――て』

「萌愛が戻るまでしばらくかかりそうだな」

「瑛大、壁頼むぜ」

「しかたねぇな」


龍の吐き出した炎がこちらを焼き尽くす。

蒸発していく水の盾で何とか防ぎきると、思わず膝をつく奏と紫苑。


「全然魔法の出力が出ない……」

「きつい、です」

「奏さん!紫苑!」

「おいおい、回復も防御もさせてもらえねーってのか?」


瑛大が引き攣った笑いを浮かべる。


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